●半日でも駅で電車を見ている息子。乗り物の魅力って、すごい!
関根:2歳半になる息子が、とにかく乗り物好きで。私も編集者として、乗り物の絵本が求められていることは知っていましたが、こんなにも好きとは!休日は半日でも駅のそばで電車を見ているんです。復刻版の50冊の中には、乗り物にまつわる絵本が6作品はいってます。これは当時何か思いがあったのですか?
松居:当時というか、子どものときから僕は乗り物が好きでした。男の子ですから。乗り物は機械。本来、動くはずのない機械が動く。それが子ども心に面白くてしかたなかった。
関根:そういう魅力を感じておられたんですね。で、意識的に乗り物絵本をラインナップに入れられた。
松居:子どもが好きそうな乗り物を選んで入れました。『そらのきゅうじょたい』(140号)の飛行機だったり、『のろまなローラー』(113号)のローラー車だったり。『しょうぼうていしゅつどうせよ』(101号)の船は身近に見られない子どももいるけれど、これを読めば「本物を見てみたい」という気持になるでしょ。
関根:そうですね。たいていの乗り物は本物を見るより先に、絵本で見ますね。飛行機なんかも絵本で出会って、憧れをふくらませている。
港は船がいっぱい。貨物船、タンカー、タグボートやモーターボート。船が衝突、けが人も出た。そら、救助艇の出動だ……。「火災あり、援助頼む!」。貨物船からの要請で消防艇が出動。火を消しながら船にたまった水をくみ出す、困難な消火活動が続く。港の安全のために活躍する人々と船の姿を、きびきびした文章と明快な絵で描いた楽しい絵本。(「こどものとも」101号)
●作家の中の子どものような好奇心と、いたずら心が、絵本の可能性を広げてくれた。
関根:『きゅるきゅる』(112号)は、正直びっくりしました。良く絵本にされたなぁと……。でもこの滑車の存在に目をつけるのは子どもの視点ですよね。
松居:そう、子どもの好奇心。あとは、編集者としてのいたずら心ですね。「きゅるきゅる」ということば遊びの感覚も面白かったんです。
関根:いたずら心ですか?
松居:ときどき、読者をびっくりさせるようなことが必要なんです。後に『ぞうくんのさんぽ』(147号)を描かれる、なかのひろたかさんの処女作『ちょうちんあんこう』(126号)なんかもそうです。これはずいぶん冒険のつもりでやりました。なかのさんと話していて、この人の発想は「こどものとも」の読者と少しはずれるな、でもそのずれているところが面白い。固まってしまったらだめです。
関根:読者に対して、絵本の枠を広げるということですよね。
松居:反発されることはかまわない。「なんだこれは?」と言われることがあってもいい。安野光雅さんの『ふしぎなえ』(144号)や、私が好きだった鳥獣戯画を絵本にした『かえるのごほうび』(130号)なんかいたずらですよ。月刊絵本だからそれができる。長新太さんの『ぴかくん めをまわす』(127号)なんて、いたずらだらけです。
関根:びっくりする読者がいる一方で、その1冊が強烈に記憶に残っている子どももいますしね。
- ぴかくん めをまわす
- 作:松居 直
絵:長 新太 - 出版社:福音館書店
働きすぎて、目をまわした信号機のぴかくん。さあ、街は大混乱。人も自動車もごちゃごちゃになります。長新太のユーモアたっぷりに細かくかきこまれた絵で信号機の1日を描きます。