刊行から半年で5回も増刷を重ねるという、絵本では異例の動きを見せた『ぴっぽのたび』。作者の刀根里衣さんは、イタリアのミラノで創作活動に取り組んでいらっしゃいます。2014年、絵本作家の登竜門ともいわれるボローニャ国際原画展に入選、および国際イラストレーション賞の受賞をきっかけに、いろいろな国から注目を浴びています。そんな刀根さんのイタリアデビュー作“Questo posso farlo”の日本語版 『なんにもできなかったとり』を、この度、NHK出版第3弾として、刊行することになりました。これを機に、作家さんの素顔をご紹介したいと思います。
- なんにもできなかったとり
- 作:刀根 里衣
- 出版社:NHK出版
なにをやってもうまくできない不器用な一羽のとり。 そのとりは、当時、無力感を抱いていた作家自身でした。 売り込みに応じたイタリア人編集者が、ページを閉じた瞬間に出版を決めたという感動作。 生きるとは何か、幸せとは何かを考えさせられる結末に、心が震えます。
──── 絵を描くことは小さいころからお好きだったのですか?
小さいころから絵を描くことは好きでしたが、ただ好きというだけで、賞をもらったことはないんです。広告の裏をスケッチブックがわりに、きょうだい3人で好きなものを描きまくっていました。言葉で表現するのが苦手だったので、絵を描いていると落ち着きました。でも、母に褒めてもらった記憶はありませんね。アートコースがある高校に行きたいと言ったら反対されました。普通の高校・大学に行って、普通に就職してほしかったようです。
ミラノのアトリエにて創作する刀根里衣さん
──── 大学卒業後、ミラノに拠点を移されたきっかけは?
大学在学中、西洋史を学ぶ研修旅行で、初めて海外に行ったんです。すごく楽しくて、海外に目覚めた!という感じでした。英語も話せたらいいなと思い、勉強を始めたのもそのころ。卒業後、留学資金を貯めてからイギリスに渡りました。仕事が見つかるわけでもなく、不安でしたね。しかし、2010年のボローニャ児童書ブックフェアでのこと。私の創ったサンプル絵本を見たイタリア人の編集者さんが、絵本を出したいと言ってくれたのです。
北イタリアのボローニャで毎年春に開催される児童書ブックフェア
──── それが『なんにもできなかったとり』ですね。
NHK出版さんからは3冊目ですが、2011年の作品で私にとってはデビューです。
正直に言いますと、絵は本にすることを前提に描いたものではありません。当時は物語の組み立て方もよくわからず、そのときに感じていたことをそのまま表現しました。
そのころの私は、仕事での収穫はないし、英語も中途半端。学生時代の友人は、夢を見つけて前に進んでいるというのに、自信を喪失していました。さらにイギリスの滞在許可は切れる目前で、お先真っ暗! でも、こんなダメな私でも「なにかひとつはできることがある」という希望を込めて描きました。
出版が決まった話を母に伝えたら「それは詐欺に違いない!」と(笑)。
絵の力は確かに今より劣っています。しかし、あのときの自分でなければ描けなかった「生まれるべくして生まれた作品」だと思っています。