●初挑戦!「ひらがな」を使った絵本『あり いぬ うさぎ』
───新刊『あり いぬ うさぎ』は「ひらがな」の絵本。まず感じたのが、「えらい えい」や「ときめく とら」など、生き物を表現するために使われている形容詞がとてもユニーク! 「ていねいな てぃらのさうるす」なんて、見た瞬間に笑ってしまいました。こういう、形容詞と動物の名前が一緒になったあいうえお絵本はとても珍しいと思うのですが、どのような経緯で生まれたのか、翻訳を担当されたさこむらさんから教えていただけますか?

翻訳を担当したさこむらひろこさん
さこむら:『APPLE BEAR CAT』をサイラスさんに見せてもらったときから、次は「ひらがな」を使った絵本を作ってもらいたいと思っていました。でも、サイラスさんはアメリカ人で英語が母国語。日本の文字になじみが薄いので、「ひらがな」の絵本を作るのは難しいかもしれないと思っていました。思い切って「ひらがなの絵本を作ってみない?」と聞いてみたら、なんとサイラスさんは子どものときから日本のアニメが大好きで、日本文化にとても興味を持っていたんです。それを聞いて、ひらがなの絵本もきっとうまくいくと思いました。
───日本のアニメがアメリカで放送されていたのですか?

愛用のバッグには、鉄腕アトムが!
サイラス:そう。「鉄腕アトム」とか「ガッチャマン」とか。「ガッチャマン」はカラオケでも歌えますよ。
───サイラスさんが「ガッチャマン」を歌っている姿……想像できないです(笑)。
さこむら:私たちも、はじめてアルファベットを覚えるとき、とても苦労しますよね。サイラスさんはさらに、ひらがなをデザインして、日本の子どもたちが楽しめるひらがな絵本を作らなければならないので、想像以上に苦労されるだろうな……と思ったんです。でも、彼は私たちの想像をはるかに超えるアイデアとオリジナリティでひらがなを次々とデザインしてくれました。

───ひらがなをデザインするのは難しかったですか?
サイラス:とても難しかったけれど、面白かったですね。
───特に難しかったひらがなはどれですか?
サイラス:そうですね……、「こ」や「そ」、あと「た」は空間が空いていて、バランスを取るのが難しかったです。
───画数が少ないものの方がは簡単なのかと思ったのですが、シンプルなものほどバランスを取るのが難しいんですね。
サイラス:それと、ひらがなはデザインが似ているものが多いと思いました。「あ」と「お」、「ぬ」と「め」、「さ」と「ち」は、よく間違えそうになりました。
───たしかに、日本の子ども達も似ているひらがなを書くのは苦労しています。描いていて、好きなひらがなはありましたか?
サイラス:「あ」、「め」、「ぬ」、「ゆ」は曲線が美しくて好きでした。
───ひらがなをデザインとして眺めることをしてこなかったので、「あ」が美しいという感覚がとても新鮮です。動物の名前と形容詞を組み合わせようと思ったのはなぜですか?
さこむら:『あり いぬ うさぎ』の構成を考えていたとき、子どもと大人が一緒に会話しながら楽しめる絵本が良いなと思っていました。それなら、ただひらがな五十音にあった生き物が描かれているより、どんな動物なのか、その動物がどういう気分なのか、より詳しく分かる方が面白いかなと思って、形容詞と組み合わせることにしました。

───この形容詞はどのように選んでいったのですか?
さこむら:まず、私が五十音順に形容詞と生き物の名前をバーッと出していって2人で、動物のイメージとピッタリなもの、意外性を感じるものを選んでいきました。
───言葉を選ぶところからお二人で絵本を作っていったんですね。
サイラス:そうです。さこむらさんに日本語を英語に訳してもらって、ぼくがイメージしやすいモチーフを伝えて、2人で決めていきました。
───イメージを伝えるのが難しい言葉や、日本語にしかないニュアンスなどはありましたか?
さこむら:いくつか説明するのが難しい表現もありました。例えば「ていねいな てぃらのさうるす」「れいぎただしい れっさーぱんだ」のページ「丁寧な」と「礼儀正しい」はどちらも英語では「polite」なんです。このように、英語では似てしまうような表現の場合、私がいろいろな例題を使って翻訳し、説明しました。すると、サイラスさんもご自身で調べたりして、2つの違いを見事に絵で表現してくださったんです。
───どちらも生き物の表情や仕草が言葉とピッタリ合っていて、文字だけだと不思議なニュアンスも絵と合わさると説得力がより強くなると感じました。
サイラス:2人で話し合う中で決めたことは、全体を通して生き物たちが表す喜怒哀楽が偏らないようにすることと、読んでいて「おかしい」と笑ってもらえるような言葉、絵を描くことでした。
さこむら:私たちも「変だね〜。でもおもしろいね〜」って言いながら作ったので、読んでいただいた方にもそう思ってもらえたら嬉しいですね。
───特にお二人のお気に入りのページを教えてください。
サイラス:「つめたい つる」と「ちゅういぶかい チーター」が好きです。鶴は日本的なモチーフだと思いますが、形も好きですし、色の配色も美しいと思います。「ちゅういぶかい チーター」は「注意深い」という音の響きが好きです。

さこむら:私は「やくにたつ やまあらし」を見たとき、「絵本の主人公になりそう!」ってワクワクしました。

───便利屋さんのようですよね。壊れたものを何でも直してくれそうです(笑)。描いていて難しかったページはありますか?
さこむら:難しかったというよりも、大きく変わったのが最後の「を」と「ん」の場面です。それまでのやり取りはメールや電話を使っていたのですが、最後のページは、サイラスさんが来日したときに編集者の方も交えて、3人で打ち合わせをして決めたんです。
サイラス:変な動物を、どこまでヘンに描いたらいいか、ニュアンスを掴むのに苦労したのを覚えていますね。
───サイラスさんは、『あり いぬ うさぎ』の制作中に、下絵(ラフ)をお嬢さんに見せたりされたのですか?
サイラス:はい! 一度、五十音全てを床に全部並べて娘に見てもらいました。娘はひらがなにとても興味を持ってくれて、ぼくの真似をして、ひらがなを書いて見せてくれましたよ。
───それは素晴らしいですね!