絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  胸がキュンとする、親子の物語『かあちゃん えほんよんで』 かさいまりさん、北村裕花さんインタビュー

作家・画家・編集者。三位一体となって作品を作ります。

───絵本を作りあげる中で、おふたりのやり取りは何度かあったのですか?

かさい:そうですね。私は画家さんと一緒に絵本を作るとき、画家さんと編集者さんと私の3人で一冊を作りあげていくスタンスを取っています。なので、3人で打ち合わせをすることもありました。

───北村さんはかさいさんにラフを見せるときは緊張しましたか?

北村:はい。かさいさんは絵も描かれる方なので、文章を書いたときに、絵の構図もイメージされているんだろうなと思うので……。

かさい:そう思うでしょう? でも、実は絵のことはまったく考えずに文章を書いているんです。

北村:え、そうなんですか?

かさい:文章を作るだけで精いっぱいなこともあるけれど、画家さんがどういうイメージでラフを描いてきてくれるのかを見るのがすごく楽しみ。だから、絵の想像はまったくしないんです。

北村:それは知りませんでした……。

かさい:私は北村さんの絵にほれ込んで今回の作品をお願いしているから、何も想像をせず、ワクワクして待っていました。いろいろ考えて提案を出したりするのは、画家さんの作るラフが出来上がってからですね。

北村
:ラフをお見せするとき、かさいさんの持っている作品のイメージを壊したらどうしようと思っていたので、今のはなしを伺えて良かったです。特に私は原画に入るまで、ラフのラフのような線描きのものなので、そこからほかの人が色など全体的なイメージを想像するのは難しいと思っていました。

───原画に入るまで、色は決めていないのですか?

北村:配置されている小物や、主人公の服の色など、周りの色のバランスを見ながら、全体を採色していくので、原画を描くときにならないと、私自身、何色になるか分からないんです。

かさい:顔の色、鼻の部分が、 カラフルになっているでしょう。編集者さんがある小学校で読み聞かせをしたとき、子どもたちが「鼻が虹色だ!」と言ったそうです。私だったら一番目を引く顔の、中心に肌色じゃない色を載せるなんて怖くてできません。これは北村さんしかできない色遣いだなと改めて思いました。

北村:私は、もともと人物の顔を描くのが好きなんです。でも、顔に使える色が少ないので、ちょっと遊び心を出して、色をつけるなら鼻かなと思って、この描き方にしています。

───たしかに、よく見るとすごくカラフルな色合いですが、全く違和感がないのがふしぎですね。先ほど、3人で打ち合わせを重ねて絵本を作っていくとおっしゃっていましたが、北村さんのラフから大きく変わったところはありましたか?

北村:そうですね。最初にお見せしたラフは、人物がアップの構図が多かったので、かさいさんに指摘していただいて、引きの構図も入れ、緩急をつけるように気をつけました。それ以外に一番変化したのは、けんちゃんの誕生日の場面です。

───お母さんが遅くまで仕事で、誕生日のケーキを買ってもらえず、ホットケーキと仏壇のろうそくで代用しようと提案する場面ですね。

かさい:最初に北村さんが描いてきてくれたラフは、文章の内容に近い形で絵にしたものでした。もちろん、それもよかったのですが、せっかくなら、もっとけんちゃんの心情を具現化したいと思って、今の絵になりました。


ラフ(上)と実際のページ。作家さんと画家さんが協力して、作品を作り上げていく過程が分かります。

北村:ろうそくがホットケーキの周りをまわっている。とてもほのぼのした構図ですが、よく考えるとちょっとホラーのようにも見えますよね。実際、けんたはホットケーキにろうそくを立てるバースデーケーキなんて、嫌だった。その心情と、ほのぼのとしたホットケーキを1枚で表そうと思って、今の形になりました。それと、最後の場面。これも最初は外ではなく、部屋の中の絵だったんです。

かさい:そうそう、前のページから室内のシーンが続いているので、ここで思い切って場面転換しようって、けんたが、公園で絵本を読んでいる場面になりました。

───普段忙しいお母さんに、絵本を読んであげようと一生懸命練習をしている場面ですね。けんたの姿がけなげで、胸がキュンとしました。

かさい:このラストも最初の原稿にはなくて、話し合う中で生まれました。けんたはすごく努力する、良い子なんです。「けんちゃんは口数は少ないかもしれないけれど、やるときはやるやつだよ!」って3人で盛り上がりながら考えました。

───誰からも愛される男ですね(笑)。けんたが誕生日プレゼントにかあちゃんからもらう絵本は、「えほんよんで」という一言が言えなかったけんたの声を、かあちゃんがしっかり、受け止めていたことを知る、感動的な場面だと思いました。

───その前の場面で、けんちゃんがお母さんに絵本を読んでもらおうと、お母さんが仕事をしているテーブルの上にそっと絵本を置こうとしますよね。でも、「えほんは いいよ。しっかり よみな」と言われてしまう……。

かさい:私は、仕事終わりに計算をしている、かあちゃんの姿が好きです。表情は見えないけれど、後ろ姿と電卓を持つ手に、忙しいという心情が表れています。

───このかあちゃんに気付いてもらえない切ない場面があることで、プレゼントをもらえたとき、「けんた、よかったね〜」と感動しました。ただ、ちょっと気になるところがあって……。プレゼントされた絵本のタイトルが、とてもユニークなんです……。

かさい:『うめたろう』に『くるまのぶうたろう』、『なんでもどうぶつえん』。やっぱり気になりますよね(笑)。

北村:これは全くオリジナルのタイトルです。……というのも、けんたの家庭環境を想像したとき、まず、絵本をほとんど持っていないだろうなと思ったんです。持っていても、ちょっと古い絵本で、昔話とかオーソドックスな内容の絵本だろうと。さらに、毎晩お母さんに絵本を読んでもらえる、友達のまこちゃんとの対比もつけたかった。それをイメージしたら、この絵本のタイトルが思い浮かんだんです。もちろん『ももたろう』など、既存の絵本のタイトルを出してもよかったんです。でも、せっかくならちょっと「何、その絵本?」と思ってもらいたくて、オリジナルのタイトルをつけました。

───『うめたろう』に関しては、絵本の表紙にまで描かれています。お供にニワトリとヘビを連れていて、もうひとりのお供はだれなのか、何を退治にするのか……とか、絵本のストーリーとは全く関係ないですが、すごく気になりました(笑)。


『うめたろう』ってどんな絵本?

かさい:『くるまのぶうたろう』も『なんでもどうぶつえん』も絵本であったら面白いですよね。北村さんに新作として考えてもらいたいくらいです(笑)。

───絵本に出てきた作品が、実際の絵本になって売られていたら読者としても嬉しいと思います。

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かさいまり

  • 北海道生まれ。北海道芸術デザイン専門学校卒業。幼年童話「こぐまのクーク」物語シリーズ(KADOKAWA)など、やさしい絵と文で描くどうぶつたちが主人公の作品で知られる。また、文を担当し、子どもの気持ちをこまやかに描く作品も多い。主な共著絵本に『かあちゃんえほんよんで』(絵/北村裕花 出版社/絵本塾出版)、『ばあちゃんのおなか』(絵/よしながこうたく 出版社/教育画劇)、『ねえたんが すきなのに』(絵/鈴木まもる 出版社/佼成出版社)、『ぴっけやまの おならくらべ』(絵・村上康成 出版社/ひさかたチャイルド)、『ちいさいわたし』(絵/おかだちあき 出版社/くもん出版)など。日本児童文芸家協会会員。日本児童出版美術家連盟会員。

北村裕花(きたむらゆうか)

  • 1983年栃木県生まれ。東京在住。多摩美術大学卒業。2011年、『おにぎりにんじゃ』(講談社)で第33回講談社絵本新人賞佳作。かさいまりさんとのコンビは『くれよんがおれたとき』(文/かさいまり 出版社/くもん出版)につづいて、この本が2冊目となる。そのほかの絵本に『かけっこ かけっこ』(文/中川ひろたか 出版社/講談社)、『ねねねのねこ』(文/おおなり修司 出版社/絵本館)、NHKEテレの番組を書籍化した『ヨーコさんの”言葉”』がある。

作品紹介

かあちゃん えほんよんで
かあちゃん えほんよんでの試し読みができます!
文:かさい まり
絵:北村 裕花
出版社:絵本塾出版
全ページためしよみ
年齢別絵本セット