●絵本を読んであげられなくても、お母さんはそれ以外のことで子どもに向き合っています。
───『かあちゃん えほんよんで』の中で、かさいさんが特に思い入れのある場面があるそうですが……。
かさい:かあちゃんとけんたが寄り添って寝ている場面です。この場面の「だけど なんだか うれしくて かあちゃんに くっついて ねた。」という一文に私がこの作品を通して伝えたかったメッセージが込められているんです。
───そのメッセージとはなんですか?
かさい:けんたは、それまでずっと「えほん よんで」の一言が言えずにいました。それはけんちゃんが優しすぎて、我慢強い子だからなんです。でも、その我慢があったからこそ、絵本を買ってもらったときの嬉しさは大きいですよね。その日はちょっとしか読んでもらえなかったけれど、くっついて眠れることも嬉しい。そんな、けんちゃんと一緒に寝ているお母さんも嬉しそう。幸せって、何も特別なことじゃなくて、こういう些細な喜びの積み重ねだと思うんです。でもその喜びをないがしろにすることなく、ひとつひとつきちんと積み重ねていくことで、けんちゃんは人の気持ちのわかる大人に成長してく。それは今のお子さんやお母さんたちにも通じることだと思います。
───二人の寝顔にも、嬉しいという感情が表れていますよね。
かさい:そうなんです。そういう小さな喜びをひとつひとつ感じていくために何が大事かというと、やはり、気持ちのゆとりなのだと私は思います。今のお母さんたちは、周りに子育ての情報があふれていますよね。その中から、自分に合ったものを選んでいくことって、とても大変だと思います。
───まじめで、育児に熱心なお母さんほど、どれを選んだらいいか悩んでしまいますよね。
かさい:「読み聞かせ」は、その悩みの中でも、かなり大きな割合を占めていると思います。「読み聞かせは子どもの発達、成長にとても良いから、積極的にやりましょう!」と言われても、仕事が忙しいお母さんはなかなかその時間を作ることができません。でも、まじめだから、やらなければいけないと葛藤する。そうすると、ほかのお宅やほかの子どもと比較するようになることもあります。でも、私は「心配しなくていいんだよ、できないことはできないんだから、絵本を読んであげられなくったって、お母さんはそれ以外のことで子どもに向き合っているんだから」と伝えたい。「お母さん自身もゆったりとやっていっていいんだよ」ということを、この絵本を通じて、感じてもらえたらいいなと思うんです。
───周りを気にせずに子どもの成長に合わせて、ゆっくり子育てをしていくことは、どのお母さんにとっても勇気がいることだと思います。
かさい:完璧なお母さんなんているわけないんです。お母さんはみんな必死に子どもと向き合っています。だから、毎日読み聞かせができないことを悔やむより、このけんちゃんとお母さんのように、一緒に寄り添って眠る瞬間に喜びを感じて、「これで上出来。うちの子、よく育っている」と自分をほめてあげてほしいです。
───以前、絵本ナビで実施した『かあちゃん えほんよんで』のレビューコンテストでも、「親が一生懸命働くことで、子どもがきちんと育っていることを痛感しました。」「こういう信頼関係を、我が家でも築けたらいいなと思いました。」と感想を寄せてくださる方が多くいました。かさいさんのメッセージがしっかりと読者に受け取られている証拠ですね。
かさい:短い文章の作品で、ここまで感じてもらえるのは、やはり、絵の力だと思います。『かあちゃんえほんよんで』は、書こうと思えば、けんたの心の軌跡や母ちゃんの心情など、いくらでも書き足すことのできる作品です。例えば、童話だったら、その場面ごとの心の動きをもっと深く描けると思います。でも、童話で400字使って表現する主人公の感情を、すべて絵に託すのが絵本の良さ。絵本の醍醐味なんです。そういう深みの部分を北村さんは絵でしっかりと表現してくれるので、安心して一緒に絵本を作ることができました。
北村:400字もの思いが絵に託されていたことを今知りました……。制作途中だったらプレッシャーで筆が動かせなかったと思います。知ったのが今で、本当によかったです(笑)。
───本当ですね(笑)。今回、お二人の共作は2作目となりますが、お二人のやりとりも息ピッタリで、いつまでもはなしを伺っていたいと思いました。またお二人が一緒に作品を作る機会はあるのでしょうか?
かさい:そうですね。北村さんが「いいよ」って言ってくれたら、ぜひまたお願いしたいと思います。
北村:もちろんですよ。ぜひ、また一緒に絵本を作りたいです。
かさい:例えば、さっきはなしに出た『うめたろう』や『なんでもどうぶつえん』のはなしはどうかしら?
北村:かさいさんが文章を書いてくださるなら、とても素敵なはなしになると思います。
───まだまだ楽しいおはなしは続きそうですね。今日は本当にありがとうございました。