●恐竜絵本を描くために、実際に化石の発掘をしました。
───恐竜絵本作家として、高い支持を得ている黒川さんですが、黒川さん自身はいつから恐竜に夢中になったのですか?
覚えているのは小学校2年生のとき。父に大阪市立自然史博物館へ連れて行ってもらったのです。そこで、トリケラトプスなどの骨格標本を見て、その大きさと向かってくる迫力に一目で魅了されました。それから、映画や図鑑など、恐竜が出てくるものにどんどんはまっていきました。
───多くの恐竜少年と同じように、最初は恐竜の大きさや迫力に魅了されたのですね。恐竜の絵本を描くきっかけを教えてください。
1970年、ぼくが高校生の頃に大阪万博がありました。そこで横尾忠則さんがひとつのパビリオンを任されていて、彼の作品を見たとき、はじめて「イラストレーター」という仕事があることを知ったのです。もともと絵と本が好きだったので、出版関係のイラストレーターを目指そうと思い、学校に通いました。でも社会に出ると出版の仕事がやりたくても関西方面には出版社が少なかった。それで、思い切って東京に行き、出版の仕事をすることにしました。1983年1月のことでした。
───最初から絵本作家を目指されていたわけではないんですね。
いつかは絵本を描いてみたいと思っていましたが、上京したての頃は1985年につくば科学万博があったので、科学系雑誌のイラストを多く手がけていました。またそのころ科学系雑誌は恐竜を多く取り上げたので、恐竜を描くことがグッと増えました。絵を描いていく中で、恐竜についてもっと知識を得たいと思うようになり、国立科学博物館新宿分館に足を運ぶようになったのです。ぼくの絵本デビュー作『絵巻えほん 恐竜たち(※)』(こぐま社)は、そこで出会った恐竜研究の第一人者・小畠郁生博士に監修をお願いして誕生した作品です。
※『絵巻えほん 恐竜たち』は、『絵巻えほん 新・恐竜たち』として、2008年に復刊されています。
───「絵巻えほん」は2.8mもの長さの斬新なシリーズ。それが黒川さんのデビュー作だったのですね。
完成までに丸1年かかりました。原画も長いですし、当時、我が家に猫がいたので、紙にじゃれないようにガードしながら描いたことは今でも覚えています(笑)。国立科学博物館に足を運ぶうちに、「実際に恐竜の化石を発掘したい」と強く思うようになりました。そして1988年にカナダのアルバータ州に化石発掘に行くことになりました。
───黒川さん、化石の発掘に行ったのですか?
そうです。約1週間の滞在だったのですが、運よくハドロサウルス類の脊椎骨を発見し、発掘することができました。
───すごいですね! 本物の化石はどんな感触なのですか?
骨なので軽いのでは?と思う方もいるかもしれませんが、実際の化石はずっしりと重さがあります。それは長い時間をかけて骨が化石になった時間の重さと生命の重さだとぼくは思っています。すべての骨が化石になるわけではなく、化石になるのは奇跡に近い確立なのです。またそれが見つかるのも奇跡です。
黒川さんに手渡された石……もしかして、これは化石?
(ハドロサウルス類の脊椎骨だそうです。)
───博物館などで私たちが化石を目にすることは、とても奇跡的なことなのですね。そのときの取材をもとに描いたのが、『恐竜の谷 小さな恐竜親子の物語』(こぐま社)なのですね。
はい。最後の見開きページにある発掘現場を実際に見たかったのです。この中にぼくは出てきていませんが、「ジュラシックパーク」のスピルバーグ監督に似ている人が取材を受けている様子を描きました。
───発見された化石が、石膏とギプスで固められ、研究所へ運ばれていく様子など現地で取材をして描かれた臨場感を感じます。
この絵本はアメリカでも出版されて、オレゴン州の小学校で教材にもなりました。ぼくの描いた絵本が、恐竜の本場、アメリカで出版され、子どもたちに読まれたことがとても嬉しかったですね。
───『恐竜の谷 小さな恐竜親子の物語』が出版されたのが1991年。それから1年後に「恐竜トリケラトプス」シリーズ1作目『たたかえ恐竜トリケラトプス』が誕生するのですね。
●恐竜を通して地球のエネルギー、自然への思いを感じてほしいです。
───1992年から「恐竜トリケラトプス」シリーズを描き続けて、約24年。ファンのお子さんたちやお母さんたちなどに変化を感じることはありますか?
そうですね。20年前に比べて恐竜好きの女の子が増えたように思います。サイン会などで女の子に「どの恐竜が好きなの?」と聞きます。おとなしい草食恐竜が好きなのかなと思うと、意外にも「ティラノサウルス!」と答えたりして……。肉食女子が増えているのかもしれませんね(笑)。それと、最近は、「恐竜絵本を子どもと読んでいます」というお父さんが増えてきています。恐竜絵本は家族全員で楽しめる良さがあると、自分の中で再発見できました。
───子どもの頃に「恐竜トリケラトプス」シリーズを読んだというお父さんお母さんもいるかもしれませんね。
そうなるのが目標ですが、あと10年は続けていかないとダメかな?(笑)。
───まだまだ続きを読むことができるとワクワクしました。今、描いてみたいと思う恐竜はどれですか?
まだ絵本に登場させていない恐竜はすべて描いてみたいです。今度出版する新刊で描いているのは「アルゼンチノサウルス」。最も巨大な恐竜と言われています。2006年に兵庫県で発掘された丹波竜も近い種類ではないかと言われています。

『恐竜トリケラトプスとアルゼンチノサウルス』(小峰書店)
2017年3月に発刊予定です。
───最大の恐竜と同じ種類が日本でも発掘されているなんて、すごいですね。黒川さんが感じる恐竜の魅力、子どもが恐竜に熱中する理由は何だと思いますか?
ぼくは絵本を描く中で、子どもたちが恐竜に興味を感じるのはなぜだろう……とずっと考えていました。ひとつ思うのは、子どもたちは恐竜を通して、地球のエネルギーを感じているのでは、ということです。またぼくは恐竜のことを勉強していく中で自然に対する謙虚な気持ちを持つようになりました。ですから恐竜が好きな子どもたちが増えていくということは、地球環境的にも良いことではないかと思っています。
───恐竜を通して、地球の自然について興味を持つようになるのですね。「恐竜トリケラトプス」シリーズを読んだ子どもたちが、今の地球の環境を考えるような大人になってくれたら嬉しいですね。最後に絵本ナビのユーザーに向けて、メッセージをお願いします。
恐竜は、地球の大自然が生み出した生物です。各巻で登場する様々な恐竜を通して自然の面白さ、不思議さを味わってほしいと思います。また「恐竜トリケラトプス」シリーズで描いているのは、恐竜たちの生きていくドラマです。主人公のリトルホーンは、困難にぶち当たり、怖くて震えることもありますが、逃げずに立ち向かう勇気を持っています。恐竜絵本を楽しんでくれた子どもたちが、作品の中のリトルホーンのようにいろいろなことにチャレンジして成長してくれたら、作家としてこれ以上うれしいことはないですね。
───ありがとうございました。
おまけ <黒川みつひろさんアトリエ探訪>
