●日本固有の生き物を集めて「図鑑えほん」を作りました。
───前田まゆみさんと言えば、『野の花えほん』など、繊細なタッチのイラストがとても人気ですが、今回は動物の絵本。しかも、図鑑のような動物の生態や食性などの詳しい情報が隅々まで載っていて、楽しみながら動物に詳しくなれました。
ありがとうございます。実は、この絵本を描くまで、動物を描いたことはほとんどなかったんです。
───それはとても意外です。
でも、『野の花えほん 秋と冬の花』を描いている頃から、「次は動物の絵本が作りたい」と思っていたくらい、このテーマは描いてみたいものでした。
───どの動物も愛らしくて、見ているだけで幸せな気分になります。もともと、動物はお好きだったのですか?
はい。動物は好きで、動物について書かれている本を読むことも好きでした。そういう本から得た動物に関するさまざまな蘊蓄のようなものが自分の中にたくさん蓄積されていて、ずっとこれをまとめてみたいと思っていたんです。
絵本は「人が飼う動物」からはじまり、タヌキやサルなど「野山にいる動物」、スズメやツバメといった「身近にいる鳥」。そして、ダンゴムシやミミズの「身近にいる生き物」まで、145種類もの生物が紹介されています。これだけの生き物について調べるのはとても大変だったと思います。出版までに、何年ぐらい制作期間があったのですか?
絵を描きあげるのだけでも2年、企画段階から考えると出版までに5年くらいかかっています。
───すごく長い時間をかけて制作されたのですね。動物たちがみなとても生き生きと描かれていますが、実際の動物を見てスケッチをしたのでしょうか?
はい。動物園に足を運んでスケッチを行いました。動物園によって、飼育している動物の種類が少しずつ異なるので、カヤネズミに会いに上野動物園に行ったり、キツネに会いに京都の動物園に行ったりと、関東、関西圏の主要動物園を何度も巡りました。
───とても多種多様な動物が、作品の中で紹介されていますが、登場させる動物の基準などはあるのですか?
この本は「日本にいる身近な生き物」ということを基準にしています。普通の動物図鑑ですと、子どもたちに人気のパンダやライオン、ゾウなどがページの最初に載ることがありますよね。でも、この絵本は「いぬ」「ねこ」「うさぎ」。子どもたちが普段の暮らしの中で、目にすることのできる動物をメインにしています。そうすることで、この絵本に興味を持ってもらいたい、そこからまだ知らない動物についても好奇心が芽生えると良いなと思いました。
───なるほど! それで、各カテゴリーも「身近にいる鳥」や「身近にいる生き物」などに分かれているのですね。
パンダやゾウ、ライオンなど動物園で人気の動物たちは、続編の『世界のどうぶつ絵本』(あすなろ書房)に載せましたのでそちらを楽しんでいただければと思います。
───世界のどうぶつ絵本』は、動物園で人気の動物から絶滅危惧種まで130種が紹介されている作品。2冊そろえると、動物についてもっと詳しくなれそうです。この近くにも絵本に出てくる生き物は多くいるのですか?
そうですね。この辺もちょっと行くと山なので、イタチやタヌキ、あとシカなんかも降りてくることがあります。(庭を指さして)ほら、そこにも!
───え?!
いえいえ、ウソですよ(笑)。
───良かった〜。ビックリしました。
でも、イタチもタヌキも我が家のそばまで降りてきたことがあります。イタチはネコとケンカをしていました。すばしっこくて写真に撮れなかったのですが、ガレージのところに来ていたタヌキは、急いでカメラを持ってきて、写真におさめることができました。
───たしかにタヌキは丸くって、ちょっと動作が遅そうですよね。前田さんの描く動物たちはみんなとても目がクリッとしていて、愛らしいです。
個人的には、もうちょっと野性味を出した方が良かったのではないかとも思ったのですが、写実的な描き方と、デフォルメした描き方、どちらに寄せようか考えたとき、やはり、小さい子に動物を好きになってほしくて作った作品なので、かわいさを感じてもらえるように描きました。私が動物を見ているとき、このくらいかわいく映るので、それ多くの方に伝わるといいなと思って描きました。
───一般的に、図鑑の中のイラストは、動物だけが切り抜かれているものが多いですが、『いきもの図鑑えほん』では、一番大きく生物たちの生活している様子が描かれていて、とても目を惹きます。ハタネズミとイチゴなんて、このまま食器のデザインになりそうな、絵になる組み合わせだと思いました。
ありがとうございます。『野の花えほん』を作っていたときから感じていたことですが、植物と動物、昆虫は切っても切れない関係。一緒に描くことで動物がより生き生きとして伝わるのではないかと思って描きました。
───スズメが穀物をついばんでいる姿や、ダンゴムシが落ち葉の中で丸くなっている様子など、懐かしさを感じる風景も絵の中にたくさん出てきますね。描いていて、特に楽しかった動物はどれですか?
どれも楽しくて、なかなかひとつに選べないのです。紹介したい動物はもっとたくさんいたのですが、ページの関係もあり、削って削って、今の枚数におさめました。……というのも、日本は固有種がものすごく多いんです。「こうべもぐら」や「にほんざる」など日本にしかいない生き物もすごく多いですし。それだけ、自然に恵まれているとも言えるのですが、とにかく絵本のページにまとめられるよう、泣く泣くあきらめた動物も多いです。
───なるほど……。では、前田さんがどうしても載せたくて、残した動物はどれですか?
「にほんみつばち」はどうしても入れたかった生き物です。今、日本では「せいようみつばち」が養蜂の中心となっています。でも日本には昔から野生の「にほんみつばち」が生息しています。「にほんみつばち」によって、野菜や果物は実をつけることができます。そういう自然の循環のすばらしさを、ぜひ知ってもらいたいと思いました。
───「西洋ミツバチ」と「日本ミツバチ」の違いだけでなく、「日本ミツバチ」の社会がどいういう役割分担になっているか、ミツバチの巣の様子なども詳しく載っていて、とても興味がわきました。
ありがとうございます。虫のところでは「だんごむし」は好きな子が多いから載せてくださいと、出版社さんからアドバイスをいただいたページです。ダンゴムシって苦手なお母さん方も多いですよね。私もあまり好きな生き物ではないので、お母さんたちが見て、かわいいと思ってもらえるように一生懸命描きました。
───目がとてもつぶらで、かわいいと思います。では、描きにくかった動物はいますか?
うーん。「もぐら」はほかの動物に比べて、難しかったですね、あと「こうもり」も。動物園に行っても全身を見ることがなかなかできないですし、写真や標本などを見てもちょっと体のつくりが分からない部分があって、なかなか描きはじめることができませんでした。あと、実物大で描ける生き物は描きやすいのですが、「つきのわぐま」など、大きい動物を小さい紙に描くのはちょっと大変でした。