●ジュンク堂書店京都店 高木須惠子さん
京都府四条通に面した、ジュンク堂書店京都店は、1989年のオープン以来20年以上に渡って、京都の人々に親しまれている大型書店です。
絵本・児童書フロアは5階にあります。本の棚の上には……。
なんと、『おみせやさんでくださいな!』のふれあい商店街が並んでいました!
こちらのパネルは児童書スタッフ・苗村さんの制作。2017年3月ごろまで店頭展開されているそうです。
『おみせやさんでくださいな!』の前には、児童書スタッフ鎌倉さん制作のPOPが貼ってあります。
絵本・児童書フロアの担当者・高木須惠子さんは各出版社さんの信頼も厚い、カリスマ書店員です。なんと、『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』の表紙の色の決定にも一役買っているとのこと……。早速お話を伺いました。
●「わ」「を」「ん」で終わってしまう絵本が多いのがいつも残念だと思っていました。
───高木さんは出版される前に『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』をご覧になっていたと伺いました。
はい。この絵本の編集者さんが色校(※)をもってお店にやってきてくれたんです。私はタイトルを見てまず聞きました「50音だけじゃないですよね」って。
※色校…製本される前の、印刷チェックするためのもの
───それはどうしてですか?
ジュンク堂書店の高木須惠子さん
「あいうえお」絵本はたくさんありますが、「わ」「を」「ん」で終わってしまう絵本が多いのが常に残念だと思っていました。特に、この絵本は「あっちゃん」や「いっちゃん」など名前が出てきますよね。今は名前に濁音がついている子も少なくないですから、濁音も半濁音も載っていてほしいという願いも込めて聞いてみたんです。そうしたら、編集者さんはにっこりと笑って「そうですよ。ちゃんとありますよ」って答えてくださったんです。
───本当にいろいろな名前と、食べ物が出てきて、楽しい作品ですよね。絵本の中を見たときはやはり驚きましたか?
はい。こんなに食べ物たちが楽しげに動いていて、しかも歌詞の雰囲気と絵がピッタリ。当時5歳の息子がドンピシャではまって、何度も読まされたことを覚えています(笑)。ただ、色校を見せていただいたとき、中身は良かったんですが、表紙の色が地味に思えて、編集者さんに「この表紙はこれで決まりですか?」って聞いてしまったんです。そうしたら、「まだ直りますよ」とおっしゃったんで、「もっと明るい色の表紙にしてください」とお願いしました。
───それはなぜですか?
我々書店員からすると、本は手に取ってもらって、開けてもらうまでが勝負なんです。『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』は、ページをめくってもらえれば本の良さは伝わると思ったので、まず、たくさんある本の中で目を引くことが重要でした。編集者さんが以前持ってきた表紙では、四隅の赤の効果が落ち着いてしまっていて、子どもたちに手に取ってもらいにくいと思いました。
───高木さんのアドバイスによって、今の黄色と赤が目に飛び込んでくる印象的な表紙になったんですね。
編集者さんは私以外にも、いろいろな書店さんに意見を求めていらっしゃったから、きっと多くの書店員さんからのアドバイスを丁寧にくみ取っていかれたんだと思います。
───発売されてからの『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』の人気は誰もが知るところですが、高木さんご自身はこれほど人気になると思っていましたか?
正直、想像以上ではありました。でも、手の込んだ絵の原画が見たいと思い、ジュンク堂書店京都店には原画展をするスペースがないので、当時河原町の路面にあった丸善書店の藤坂店長さんを訪ねてみたらと出版社にお願いして、原画展とワークショップを開催していただきました。
最初の頃には想像もできないくらい多くの方が会場にいらっしゃって、さいとうさんの絵本の魅力に人気の高さを改めて感じました。
───それほどまでに人気になったこの絵本の魅力は何だと思いますか?
やはり、食べ物の描写の細かさ、そしてさいとうさんならではの独特な曲線だと思います。すごく味のある線を描かれるんですよね。
───2016年に11年ぶりとなるシリーズ新刊『おみせやさんでくださいな!』が出版されました。書店での展示の様子を見ると、大変力を入れていることが感じ取れます。新刊の発売のことを聞いたときは、どう思いましたか?
何度かさいとうさんにお会いする度に「今、『あっちゃんあがつく』の新刊を描いているんですよ」とおっしゃっていたので、完成を楽しみにしていました。いよいよ完成すると聞いたときは、すぐに、「サイン会をさせてください!」とさいとうさんにお願いして、1番最初にサイン会をやらせていただいたんです。今、お店で展示しているものはそのサイン会のときに作ったんです。おみせやさんを見ながら、本棚の中を進んでもらうと、自然と『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』の並んでいる棚に誘導してくれる仕組みになっています。
───すごい! 本棚を有効に使って、本のある場所の案内をしているんですね。
それだけでなく、本棚のパネルを見ていただくと、自然とそこに並んでいる本も目に入って、気になった本を手に取っていただけるように工夫しています。パネルを見ながら、ほかの本にも興味を持っていただけたらいいなと思っています。