●30年以上前の作品とは思えない、新しさを感じます。
───2017年6月に『こねことこねこ』、7月に『うたうたう』、2冊の東君平作品が出版されました。実物を手にして、どう思いましたか?
シンプルで、絵もきれい。一目見て、いい本だなぁと思いました。きっと、言葉に興味を持ちはじめたお子さんが読んで「お母さん、上から読んでも下から読んでも同じ言葉なんだねぇ。面白いね」と言ってくれるんじゃないかと思いますね。
───この2冊は、どちらも1979年に刊行された、「ことばのほん」の付録だった豆本を加筆修正して出版されたとのことですが、当時の様子を覚えていらっしゃいますか?
何しろ、絵本に広告にと山のように仕事をしていましたでしょう。こんなかわいい作品を作っているなんて、知らなくて……。毎回、作品が完成すると、出版社に持っていく前に見せてもらってはいたんですよ。それで「どうかな?」「いいでしょう?」って聞かれるのにうなずいていたり……。なので、作品を目にしていたとは思うんです。
くんぺい童話館・館長 東英子さん。
───以前、「ことばのほん」を編集された西内ミナミさんと本多慶子さんにお話を伺ったことがあるのですが、君平さんは、ご自分のお子さんにも回文のアイディアを求められていて、良いのができると、机の上にお小遣いが置いてあったそうなのですが。
そうなんですってね。娘たちはそのことを覚えていて、私に教えてくれたんですよ。当時、下の子が9歳だったから、回文とかを考えるのにピッタリな年齢だったんでしょうね。でも、君平さん、私にはそういうアイディアは一切求めなかったんです。
───そうなんですか?
はい、当時、毎日新聞で「おはようどうわ」の連載をしていたのですが、それが大変で、行き詰ると「ぼく、もう少しいい頭が欲しいな。疲れちゃったよ」みたいなことを言うんです。それで、「私の頭を貸してあげましょうか?」っていうと、「ああ、大変だ。そんなのいらない」って(笑)。でも、君平さんの出版した本のタイトルは、だいたい私が考えていたんですよ。
───それは、君平さんからタイトルをつけてほしいとお願いされたのですか?
いいえ。おはなしを読ませてもらってね、「あら、素敵ね。紅茶の時間に読みたいわ」とか、「はちみつレモンの香りがするみたい」って感想を言うとね、「それ、いいね」って、タイトルになるんです。
───それは、とても素敵ですね。
そういうのは、すぐに採用になってたんですけど。回文のお題は回ってこなかったのよね。
───『こねことこねこ』は動物が登場する回文、『うたうたう』は四季を感じる回文とテーマが分かれていますよね。
そう。それがとてもよくできているなぁと思ったんです。君平さんもまさかこういう形で絵本になるとは思っていなかったでしょうからね。編集者の方がうまく本の形にしてくださいました。『こねことこねこ』は、手をつないでいるんじゃなくて、しっぽをにぎっているのよね。なんてかわいい絵なんだろうって思いました。
───絵と文章がぴたりとはまっているのも面白いですよね。
「びんととんび」や「わしのしわ」など、言葉だけではどんな様子なのかすぐにはイメージできないものもありますよね。でも、絵がちゃーんと説明しているから、あきないのよね。「せみのみせ」なんて、本当にせみがお店屋さんをしていて、笑っちゃうわね。
それと、絵本の中には「クチナシ」や「とさか」など、小さいお子さんにはちょっと難しいかな……? と思う言葉も出てきていますでしょう。編集者さんは最初、その部分に注釈をつけようかと思ったそうなんですけど、作品のよさを残すため、注釈をつけるのはやめたんですって。私はそれを聞いて、良かったと思いました。分からない言葉は、お父さんお母さんに聞けばよいでしょう。そうすることで、親子のコミュニケーションにもつながるんじゃないかって思いました。