●長いしりとり作りに奮闘
───最初のラフは縦書きだったのですね。
はい。縦書きであること以外は、展開からオチまでほぼ完成形に近いです。最初にお寿司屋さんからスタートするのも同じです。
最初のラフ。
「おすしやさんチーム」のラフページ。30種類以上描かれています。
───本を手に取ったとき、こんなにたくさん食べ物が出てくるなんて豪華!と思ったのですが、ラフではもっと多かったのですね。
とにかく食べ物をいっぱい描きたいなと思っていたので、最初のラフではかなり多かったです。でも絵本にしていく過程で、ひとつひとつのキャラクターが生きるように、だいぶ数を減らしました。
「パンやさんチーム」「ケーキやさんチーム」のラフページ。
───食べ物のしりとりだけで、ひとつのおはなしが最後のオチまで展開していく……。なんてよく出来ているんだろうとびっくりしました。長いしりとりを考えるのは、大変だったのでは?
そこが一番大変でしたね。ストーリーはあっという間に完成したものの、途中の長いしりとりを考える行程は時間がかかりました。食べ物を書き出したリストを作って、パソコン上でしりとりを何通りもつなげては、「あぁ、また行き詰まっちゃった〜!」と組み直して……。そのくりかえしでした。
ストーリーに合うようにしりとりを作らないと、せっかくひらめいたオチも使えないから、タルトをフルーツタルトにしたり、ピラフもシーフードピラフに変えたり、必死でひねり出してつなげたところもあります(笑)。
お寿司は、たくさん種類があったので助かりました。
最後に「ん」がつくものは×をつけて……。あいうえお順に並べた、食べ物名リスト。
●表情豊かなキャラクターたち
───しりとりが出来上がって、いざ実際の本作りに入ってからのことを聞かせてください。
最初のラフではお店ごとに、食べ物をただ並べて描いていたのですが、チーム対抗らしくなるよう、「パン屋さんチーム」「ケーキ屋さんチーム」「八百屋さんチーム」……とチームごとに、色の違うベンチに並んで座ってもらいました。
お寿司屋さんが参加するので、ぜひ『いくらなんでもいくらくん』(イースト・プレス)のいくらくんを出したいと思っていました。最初は「あ」がつく食べ物から始まって「アップルパイ」。次にいい具合に「いくら」を出せたので、決め台詞はいくらくんらしく「あいよ」で(笑)。
「さあ、いよいよ たべものやさん しりとりたいかいの はじまりです。さいしょは あがつく たべものから はじめます! どなたか いませんか?」(『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』より)
───『いくらなんでもいくらくん』ファンには嬉しい登場です!
いくらくんは『いくらなんでもいくらくん』の中で、ずっと無表情だったので、ここでも無表情に描きました。そして「いくら」の「ら」の次に「ラーメン」が出てきたら……、「ピピピピー!」とホイッスルが鳴って「ダメです! ダメです! しりとりなんですから、『ん』がついたらダメですよ!」と、ここでしりとりがストップしちゃうんですよね。
「ラーメンやさんチームから さっそうと ラーメンがでてきましたが……」(『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』より)
気を取り直して、またしりとりが始まるのですが、やっぱりまた「ん」がついている食べ物が出てきて「ピピピピピー!」。このままじゃ競技が続かないので、「ん」がついている食べ物は全員まとめて帰らされちゃうんです。
「しょんぼり ぞろぞろ……」(『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』より)
───「おかえりください」と言われるなんて、たしかにかわいそう……。がっかりしたキャラクターたちに、わが家の子どもたちも心をつかまれていました。
チームの席から「ん」の食べ物たちがいなくなってしまって……。ぽつんと取り残された雰囲気が伝わるように、残った食べ物が座る位置は動かさず、空いたスペースが目立つように描いています。
仲間がへってしまったパン屋さんチーム。
こんなに仲間がいたのに!
───ドーナツもサンドイッチも、「ん」がつくパンがみんないなくなっちゃって、しょんぼり膝を抱えています。デビュー作の『まないたにりょうりをあげないこと』でも、まな板の表情が印象的でした。
にやっとしたり、しょんぼりしたり、拗ねたり……。キャラクターのそういう表情を描くのが好きなのでしょうか。
好きです! 悲しい顔も、はたから見るとちょっと笑える感じが出せたら……と思っています。
私自身も「かわいそうだなあ……」と思いながらやっぱりどこかフフッと面白がって描いていますね。私の絵本は、たいていそんな落ち込んだ場面から、おはなしの終盤に向かうにしたがって、もうひとひねりの山があります。すんなり終わるのではなく、「えっ、そうなるんだ!?」と驚いてもらいたいなと思いながら、絵本を作っています。
アスパラガス→スイカ→カンパチ……。どこまで続く? 気を取り直してしりとり大会が本格的にはじまったシーンのラフ。
───うーん、しりとりが最後にどうなっていくのか、楽しみで仕方ありません(笑)。帯に「こんなにネタバレしてほしくない絵本ははじめてです」というパパの声が書かれていましたが、ぜひ大人も子どもも一緒に、しりとり大会の結末を楽しんでほしいですね!