●オオムラサキの幼虫を「可愛い」と思ってもらえるように、タッチを大きく変えました
- オオムラサキのムーくん
- 作:タダ サトシ
- 出版社:こぐま社
冬眠から目を覚ましたオオムラサキの幼虫ムーくんは、おなかがペコペコ。いろんな虫に出会いながら、食べられる葉っぱを探しまわります。 愛嬌いっぱいのムーくんの顔にもご注目!なんと脱皮の時にはこの顔がおめんのようにポロっと取れるンです!
───『ありんこ リンコちゃん』の発売から6年を経て、待ちに待った新刊『オオムラサキのムーくん』が発売されました。表紙を見て、まずタッチの違いにビックリしました。

タダさんの奥様が作った「ムーくん」羊毛フェルト人形。絵本から飛びだしたみたい!
『オオムラサキのムーくん』は僕にとってかなり新しいことにチャレンジした作品なんです。そのひとつがこの思い切ったデフォルメ。『カブトくん』から『リンコちゃん』までは画材をほとんど変えずに描いていたのですが、どんどん細部まで描きこむようになっていって、1枚描き上げるのにとても苦労するようになったんです。今回、オオムラサキの幼虫を描くことになって、幼虫は昆虫以上に苦手な方が多いと思い、少しでもムーくんを可愛いと感じてもらえるよう、画材を太めのマジックに変えて、デフォルメすることにしました。それでも描いているとついつい描きこんでしまって、編集の人に「描きこみすぎ!」とチェックを受けました(笑)。
───デフォルメの方が簡単に描けるような気がしていたのですが、リアルに描きこむことのできない辛さというのがあるんですね…。

細かく描く方が作業的には、大変ですよ。ただ、昆虫によっては体の模様で種類が異なる場合もあるので、変にデフォルメしてしまうと違う種類になってしまうこともあるんです。なので、どの程度省略するかを考えるのが大変でした。絵本の中に出てくるツマグロヒョウモンの幼虫は、実はトゲトゲの角の先にもさらに細かいトゲが生えています。僕としてはそこまで描きたかったのですが、可愛い幼虫を描くことがテーマだったので、泣く泣くガマンしました。
───デフォルメして描くための訓練などは何かしましたか?
この作品の前に「こんちゅう ことばあそび かるた」を作っています。カルタって、瞬発力が必要な遊びだから、細かい絵よりも、一瞬で何が描いてあるか認識できる絵が合っているんです。だから、カルタの絵を描いて、デフォルメの方法を勉強したらと…編集者から提案されて作りました。

───…でも、すごく細かく描かれている絵札もありますね…。
リアルとデフォルメの間で、揺れ動く様が如実に現れていますよね…(苦笑)。デフォルメはこれからまだまだ向き合っていかなければいけない課題です…。
小学4年生のとき、真冬にエノキの木の根元からオオムラサキの幼虫を採ってきて、春になるまで冷蔵庫で眠らせ、春に外に出して育てたことがあります。絵本にも描いてありますがオオムラサキの幼虫はエノキの葉しか食べません。なので、母にエノキの木の鉢植えを買ってもらって、そこで飼育しました。でも、2回目の脱皮をしたとたん、幼虫の食欲が急に増して、あっという間にエノキの葉を食べつくしてしまったんです。その後、エノキの木が手に入らず、残念ながら幼虫は餓死してしまいました。そのときの悲しい気持ちを昇華する思いも込めて、この絵本を作りました。
───小学校4年生の頃からずっと持ち続けている思いなんですね!!タダさんがオオムラサキを育てていることが、当時の新聞にも掲載されたんですよね。
そうなんです。当時つけていた日記にも、オオムラサキの幼虫を手にした嬉しさや、死なせてしまったときの悲しさが綴られていて、今でもそのときの感情をかなりリアルに覚えています。でも、その悔しさがあったおかげで、『オオムラサキのムーくん』が生まれたので、あのときのオオムラサキもこれでようやく浮かばれたかなと思います。
こちらが当時の新聞。
本物の抜け殻が貼り付けてあります!