●よりあざやかに、よりカラフルに
───ところで、この竜は全然怖くないのですね。
ものすごく愛嬌がありますが、青みがかった大きなお腹は、ドイツの伝統的な竜の形なんでしょうか?

ふつうの竜はもっとスリムだし、動きが素早いと思いますよ。この竜はいっぱい食べてずっとガスがお腹にたまっているせいで、丸く膨らんでかわいそうです(笑)。
食べ物を食い荒らし、くさいおならで大爆発を起こす以外は、平和な竜です。わりといい子にしていて首に縄をかけられてもおとなしくついて行くんですよね。ただこの竜のうしろは誰も歩きたがらないわけですが・・・(笑)。
───村人たちの服装がカラフルですね。いままでのゾーヴァさんの絵より全体的に明るい色彩のように感じます。子どもたち向けということで、絵を描くとき意識した点はありますか。
いいえ。子どもたちが、僕の画集を見ると、意外と喜んでいい反応を示すので、わざわざ新しい描き方でなくても大丈夫かな、と思っていつも通りに描きました。
ただ、こうして初めての創作絵本を子ども向けに描き上げてみると、いつもより明るい色彩を選んでいたかもしれないなと思います。あらかじめ「明るくしよう」と思ったわけではなく、結果として「明るくなった」、よりあざやかにカラフルになったということです。
今回、絵本を描く前に中世について調べました。フランスの15〜16世紀頃に描かれたイラストの画集があって、農民たちの服装を見たら意外とカラフルでした。昔は赤や青は高貴な色で、貴族しか身につけることができないから、庶民はグレイや茶色など地味な色を着ていたと言われるんですが・・・。ブリューゲル(16世紀の画家)の描いた絵を見てもみんないろんな色の服を着ているんですよね。なので自然に僕の絵もカラフルになりました。
───気になるのが「ドッカーン! バッフーン! プリプリプー!」というおならの音の描写ですが、ドイツ語ではどんなふうに書いたのですか?
ドイツ語では「まるでおならのコンサートのように」と書いていて、具体的にはフルートやトランペット、コントラバスの低い音やこんな演奏法で、と言葉で説明しています。
───「ドッカーン! バッフーン! プリプリプー!」も「シュッシュー! ポッポー! ポッポコピー!」も愉快な擬音語は日本語訳オリジナルだったんですね。言葉でも、雲や煙みたいに見えるおならの絵でも、こんなに豊かにおならが表現されているのを初めて見ました。
ゾーヴァさんと言えば、出版後でさえも原画にどんどん描き加えていく「上塗り家」(笑)と言われますが、ドイツ語版が出版されてから、日本語版出版までに、絵の構図や色彩などは変わりましたか?
はい。最初に描いた山の場面が気に入らなくて、描き直しました。もっと爆発が大きくなって、色彩の感じも、日本語版の絵のほうがいいでしょう。
「ドッカーン!!!」ドイツ語版
「ドッカーン!!!」日本語版
───ご自身で気に入っている絵はどれですか?
この絵は、構図が気に入っています。
ドイツ語版の小さなサイズの絵。
日本語版は拡大されています。
竜のおしりは池のなかにあって、おならの泡がぷくぷく出ています。そして水鳥がおならの泡の勢いのなかでくるくる泳いで回って遊んでいます。竜のしっぽだけが水面に出ているのですが、この絵だけ見た人は、これはいったい何だろうと思うかもしれませんね。ドイツ語版出版後に、しっぽの長さを短く描きなおしました。
原書はテキストが多かったので、絵のサイズが小さかったんです。原画も同じくらいで大きい絵ではありません。日本語版ではかなり拡大されていますが、印刷がきれいなので問題ないですね。水の勢いがよく出ています。

こちらの日本語版の夜の場面は、とても気に入っています。ドイツ語版よりも日本語版はずっと印刷の質がよくて、夜らしい深い色彩が出ていますね。
───[ライター:] 騎士ヘリベルトが竜の炎であおむけに吹き飛ばされる場面がおかしいと、わが家では娘たちに大人気だったのですが、この絵はすぐ描けたのですか。
吹き飛ばされる角度を描くのがけっこう難しくて、何度か描きなおしました。ヘリベルトが竜を追いかけるシーンでは馬を大きく描きすぎて失敗したと思って、日本語版では馬をもっと小さく描きなおしています。
こちらはドイツ語版。
日本語版は、炎の威力がアップ!
───たしかに日本語版のほうが、馬と竜のコントラストがよりはっきりとして、炎のおならも威力を増している感じです。
実は、最終ページの絵は、原書にはないんです。出版に間に合わなくて、最後に描き足しました。
───本当だ!うちの息子は一番好きな絵なんです。日本語版を手にすることができた私たちはラッキーですね。
(文章を読んでから見るともっと笑っちゃうこの絵、手にしてからのお楽しみです!)