───ラストはいとうひろしさんの『ねこと友だち』。今回、ご紹介いただいた中で唯一の児童文学です。
上村:1995年の作品です。いとうさんの児童文学は『ごきげんなすてご』の出版がすでに決まっていました。ただ、それは他社から出たものの出し直しだったので、新作を同時にお願いしました。
───「ブータレ」という名前のネコが、金魚ばちの中に飼われているお魚の夫婦と友だちになるストーリーと、いとうさんのかわいい挿絵でどんどん読み進めていけますが、友だちだと思っていた魚を食べ物だと思った瞬間の悩みや、「魚のいない国」を目指して旅に出るブータレの心境など、かなり深いことを考えさせる内容ですよね。
上村:いとうさんは打ち合わせのとき、いつもおはなしのストックを何個か用意してくれます。この作品は『ごきげんなすてご』と同時期にでることもあって、『ごきげんなすてご』とはまた異なるいとうさんの世界を見せられるもの、ということでお願いしました。
───大切な人を意識した瞬間に悩みを抱えることは、子どもも大人も同じように経験すると思いました。そういうリアルな部分と生と死という普遍的なテーマが作品の中に両方描かれていて、手に取る年齢によって感じ方が変わる作品だと感じました。

上村:児童文学は年齢が上がる過程で、読まなくなる子も多いのが残念なんですよね…。いとうさんの作品は絵も多いですし、文章もリズミカでとても読みやすいので、手に取ってもらえたら、きっと好きになってもらえると思います。
小島:『ねこと友だち』は普遍的なテーマを扱っている作品ですので、親子で読んでいただいて、感想を伝え合うなどコミュニケーションのツールとして使ってもらうのもオススメです。
───今まで絵と文があって、読んでもらえていた時代から、急に文章だらけの本を渡されて「一人で読みなさい!」といわれても、なかなか難しいですよね…。徳間書店さんが特に児童文学を出版するときに子どもに伝えたい思いはどんなことでしょうか?

上村:私は今の現実が辛いときなどに、「ここではないどこか」に行ける扉が本だと思っています。今だとゲームやDVDもありますが、やはり物語に入っていく経験の原型は本なんです。小さいうちは1冊読み切るのが大変でも、ひとりで本を読む習慣が身に着けば、それは一生の宝物になります。もちろん、現実逃避したいときばかりでなく、楽しいときに楽しい雰囲気の本を読んだり、日常を違う視点から見ることを教えてくれる本に出会ったり…気分に合わせていろんな本との組み合わせができると、生活にも厚みが出ると思います。
───大人になると、その感覚がすごくわかりますが、そのために子ども時代からの読書体験の積み重ねが重要だと思うと、子どもにも本を読む楽しさを伝えていかなきゃなと感じますね。
上村:それでもやはり、慣れないうちは1冊読み切るのは大変なことなんですよね。「いい本だから読みなさい」と押しつけてしまうというと、嫌な思いが残っちゃうこともあるので、手渡すタイミングを、気長に待つことも大切なんですよね。
───たしかに…。ついつい「本を読みなさい」って言いたくなるけれど、さりげないときにさりげない場所に置いてある方が結構、手に取ってくれたりするんですよね…。
息子は以前、インタビューさせていただいた土屋富士夫さんの『モンスタータウンへようこそ モンスター一家のモン太くん』をすごい気に入って、読んだ後、半年ぐらいずっと「モン太くんの次の巻まだ?」って聞いてきたんですよ。土屋さんの作品は結構読んでいるのですが、息子と相性がいいみたいです。「こんなに急かされるんだ〜」と親もビックリでした(笑)。
小島:それはすごく嬉しいです。早速、土屋さんにもお伝えしますね!
●限定グッズがもらえる! 創刊20周年記念フェア開催中
───創刊時のおはなし、ロングセラーのおすすめの5冊など駆け足で紹介してきましたが、20年前と今で、作品の内容など、変わったことなどはありますか?
上村:児童文学は時代時代の子どもの状況が色濃く反映される部分が多いですね。20年前と今では家族の形態も大きく異なるので、同じハッピーエンドの物語でも、今だと両親のどちらかがいないけど幸せ……という設定のことも多いんです。
───徳間書店さんの目録を拝見すると、かなりハードな家庭環境で育った子を取り扱った作品がラインナップに並んでいたりしますよね。ただ、どの作品もその時代の子どもの気持ちをすごく丁寧に描いた作品を選んでいる、その質の高さは今も20年前も変わっていないと感じました。
現在、徳間書店の児童書編集部では、「創刊20周年記念フェア」を開催中なんですよね。フェアの内容を教えていただけますか?
小島:書店さんに、これまで出版した中から代表的な作品を置いていただく「創刊20周年記念フェア」と2014年1月から2015年3月まで毎月1冊刊行する「20周年記念作品」の、本の帯についている応募券を集めていただくと、応募してくださった方全員に、記念グッズをプレゼントします。
賞品は『おたすけこびと』の特製ボールペンや、『アーヤと魔女』『こんたのおつかい』などの特製A4クリアファイル、いとうひろしさんの『にぎやかなおけいこ』の特製レッスンバッグなど、とっても豪華!
詳しい応募方法は、徳間書店の子どもの本「創刊20周年記念フェア」特設ページへ>>>
───どれもかわいくて、全部ほしくなっちゃいます。20周年記念の徳間書店の児童書のクマのマークもとってもカワイイです!

おなじみのロゴも20周年特別バージョンへ。実はこのロゴ、「扉(と)」と「くま」のダジャレなんだとか…
小島:これまでの20年間に徳間書店を支えてくださった作家さんの新作を毎月1冊ずつ刊行していく「20周年記念作品」は、2014年1月から、すでにスタートしています。
上村:1月の「記念作品」はフィリパ・ピアスと ヘレン・クレイグの『ひとりでおとまりしたよるに』(訳:さくまゆみこ)。その後もエルサ・ベスコフやマリー・ホール・エッツ、ロバート・ウェストール、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ。日本の作家さんでは村上康成さん、いとうひろしさん、荻原規子さん、『おたすけこびと』の5作目もラインナップに加わっています。
───本当に豪華なラインナップですね。

小島:今、絶賛作業中なのが4月刊行の「記念作品」、モーリス・センダックの未訳の作品です。かわいいでしょう(笑)。『くま! くま! くまだらけ』(文:ルース・クラウス 訳:石津ちひろ)
───まさに徳間書店さんの20周年にピッタリですね(笑)。
創刊から20年までを駆け足で伺ってきましたが、これから30周年に向けて、変わっていく部分、変わらない部分などありましたら教えてください。
小島:ようやく20年を迎えたばかりなので、10年後は……(笑)。ただ、基本的に質のいい子どもの本を届けたいという思いは20年前も今も、そしてこれからも変わらずあり続けると思います。
上村:最近、本屋さんや図書館に行くと、若い書店員さんや司書さんから「中学生のときに『空色勾玉』を読んでいました」などと言われるんですが、そういう徳間書店の児童書を読んでくれた子どもたちが成長して社会に出て、私たちと一緒に働く人になってくれている姿を見るのは、とても心強いですね。

───今日は本当にありがとうございました。次の10年に向けて、さらに魅力的な子どもの本が並ぶことを、絵本ナビでも応援しています。