●徳間書店児童書編集部が選ぶ、20年間愛されてきた徳間書店の絵本・児童書 「この5冊!」
───今回、事前にお二人に20周年を語るうえでポイントとなる初期の作品を選んでいただいたのですが、どれもすごく魅力的な作品ですね。
- あるげつようびのあさ
- 作:ユリ・シュルヴィッツ
訳:谷川 俊太郎 - 出版社:徳間書店
あるげつようびのあさ おうさまと、じょおうさまと、おうじさまが、ぼくをたずねてきた。でもぼくはるすだった…ニューヨークに住む男の子の毎日の出来事や心の望みと、空想の世界とを鮮やかに描いた忘れがたい絵本。アメリカで1960年代から愛されてきた古典を詩人谷川俊太郎の訳で贈ります。
───まずは、『ある げつようびの あさ』(ユリ・シュルヴィッツ/作 谷川俊太郎/訳)。すごく淡々としているのにパンチがきいていて、読み終わった後に何ともいえない残り方をする作品です。
上村:不思議な話ですよね。お話自体は、ひとりぼっちの男の子が窓から外を見て想像しているというだけの内容なのですが、ニューヨークのどこか裏寂しい街並みと、少年の空想が交互に描かれて、独特な世界が生まれています。
───この絵本は創刊ラインナップの1つですよね。どういう経緯で、この作品を最初に出版しようと思ったんですか?
上村:以前から、ユリ・シュルヴィッツの作品を出版したいという思いがあり、日本未翻訳の作品をかなり探して集めました。シュルヴィッツの代表作である『よあけ』や『ねむい ねむい おはなし』とも違う独特な雰囲気に惹かれ、版権交渉も成功して、最初の作品として出版することが決まりました。訳者は谷川俊太郎さん。シュルヴィッツの詩情あふれる文章を、短い言葉の中に端的に表現していただきました。

───主人公「ぼく」のところを訪れる王さま側の人間がひとりずつ増える、でもぼくはいない…という繰り返しが、文章では淡々としているのに、絵はどんどん変わっていく。天気も変わるし色も増える。そのバランスが本当に素晴らしいと感じました。それと、面白かったのが谷川さんの解説。作品の内容ではなく、ニューヨークの街の話をしているところが、おはなしの余韻は読者にお任せしている感じで新しいですね。

- いじわるブッチー
- 文:バーバラ・ボットナー
絵:ペギー・ラスマン
訳:ひがし はるみ - 出版社:徳間書店
「ブッチーはいじわるだから、いっしょに遊びたくないの」って言っても、ママは「いろんな人とお友だちにならなきゃだめよ」って答える。そこで、あたしは作戦をたてた…。知恵をつかっていじめっ子をやっつける小気味よいエンディングが、子どもたちの人気を集めている、パワフルな絵本です。
───2作目は『いじわるブッチー』(バーバラ・ボットナー/文 ペギー・ラスマン/絵 ひがしはるみ/訳)。これは、いじわるな女の子「ブッチー」に振り回される「わたし」が、ブッチーのいじわるから逃れる勇気を出すまでのおはなし。かなり衝撃的な内容でビックリしました。これも創刊ラインナップの一冊ですよね。


児童書編集部編集長の小島範子さん
───たしかに、いじわるされている側の子にひとつの回答を手渡しているような作品ですよね。これを出したときに読者の方の反応はどうでしたか?
小島:当時の機関紙「子どもの本だより」に読者からのこんなお便りが載っています。「うちの子は引っ込み思案で、なかなかお友達とも遊べないけれど、この本を読んだ次の日に、『お母さん、私、今までいじめられていても何も言えなかったけれど、今日、“いじわるやめて”って言えたんだよ。』本を読んで勇気が出たそうです。親としては、いい本に出会えて幸せだと思いました。本当にありがとうございました」絵本を読んでその子が自分でアクションを起こせたというのはすごいことですよね。
───それは本当にすごいです! きっと、その子にとって勇気をくれた作品としてずっと記憶に残っていますね。
あひるのあかちゃん、目がさめた。足を くねくね、おしりを ぴこぴこ、さあみんな元気よく、ぼうけんにしゅっぱーつ! ヒヨコたちは好奇心いっぱいで、あっちへぴょこぴょこ、こっちへひょこひょこ……。初めて絵本を読んでもらう子にもぴったりな、明るい色彩と軽やかな文の一冊です。
───そして3作目にあげていただいた『かわいいあひるの あかちゃん』(作:モニカ・ウェリントン 訳:たがきょうこ)は、絵本ナビでも定番の人気絵本です。
上村:徳間書店では、創刊当時は、絵本も一般書も同じ企画会議の場で作品を提案していたのですが、担当者がその会場でこの絵本を読み聞かせしたそうです。経済書とか歴史小説の企画と並んで、おじさんたちに向かって「おしりを ぴこぴこ ぴっ」って…(笑)。

───経験のない方達にいきなり読み聞かせ…。どんな反応だったかすごく気になります。
───『かわいいあひるの あかちゃん』はあかちゃん絵本の王道をいく作品だと感じましたが、どういうところが読者に受け入れられたと思いますか?

上村:やはり、赤ちゃん絵本のセオリーといえる、はっきりした色、はっきりした分かりやすい絵柄というポイントを満たしているところがまずあると思います。それと、子どもは「赤ちゃん」という言葉が大好きなんですよね。自分もまだ赤ちゃんなのに、お姉ちゃんお兄ちゃん気分を味わえるからか、「よその赤ちゃん」が登場する絵本はとても人気があります。
小島:それと、この絵本ではあひるのあかちゃんがどこにいっても、必ずお母さんに見守ってもらっていることを感じ取れるんです…そこがすごく安心できて、人気のある部分だと思います。
───お母さんがいることの安心感を絵本で追体験できる作品なんですね。やはり徳間書店さんから出ている人気絵本『ぎゅっ』(作・絵: ジェズ・オールバラ)もお母さんとの絆を感じることのできる名作ですよね。
小島:『ぎゅっ』よりもさらに小さい子にも読んであげられる本です。アヒルの鳴き声や「ひょこひょこ」という音の響きなども重要ですね。読んでもらう方も読む方も心地良くなってもらえる作品だと思います。
お姫さまになりたい女の子まりのところに、ある日「おひめさま城」からお迎えの馬車がやってきました。 さっそく、お姫さまになるためのお勉強がはじまりますが…。 お姫さまになりたい女の子たちの心をとらえて離さない、人気の絵本。美しい水彩画がファンタジーの世界へと誘います。
───4作目は『のはらひめ おひめさま城のひみつ』(作・絵:なかがわ ちひろ)。この作品には本当に女の子の夢がめいっぱいつまっていて、女性であればいくつになっても目をキラキラさせてページをめくってしまいますね(笑)。
上村:『のはらひめ おひめさま城のひみつ』は、なかがわさんが娘さんにささげているおはなしなんです。そのころ娘さんにピンクの可愛いオーバーを手作りされていたり、いまでもそんなこだわりのある方なのでお姫様に関する情報などもすごくたくさん調べられて描かれました。
───「おたすけこびと」シリーズでインタビューさせていただいたときも、実際にケーキを作ったり、ハムスターを飼って回し車を作ったり、作品に対するなかがわさんのひとかたならないこだわりを感じました。

上村:それまでの定番だった、きれいでかわいいだけの「お姫様像」をすごく上手に壊して、女の子が新たに魅力を感じる「お姫様」を提案しているストーリーの組み立て方は、なかがわさんならではだと思います。
───そしてこの作品は、なかがわさんの絵本デビュー作なんですよね。今でもキュートでかわいらしい方ですが、この本の著者紹介の写真が本当にお美しい!お姫様みたいです!
上村:もともと、『ふしぎをのせたアリエル号』で、翻訳と挿し絵のデビューをされた方でしたが、美大出身でもあり「自作の絵本を作りたい」とずっと思っていらしたそうです。その思いと「徳間書店で新しい作家を育てたい」というわたしたちの思いが合致して、絵本デビュー作をお願いすることになりました。
小島:なかがわさんのその後のご活躍は読者の方もご存知だと思いますが、『きょうりゅうのたまご』や『たこのななちゃん』など、ほかにも徳間書店からなかがわさんの自作絵本を出版しています。
───徳間書店さんでは、1人の作家さんの作品を何作も手がけられることが多いですか?
小島:そうですね。作家さんを育てたいという思いがあるので、同じ作家さんに続けてお願いすることも比較的多いですね。海外の作家でも、「これは」と思う方のものは、つづけて何作か出版することが多いです。