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祝! 王さま60周年記念! 「ぼくは王さま」を支える人たち 記念連載理論社 2016/09/29
理論社編集部の岸井美恵子さんは、「ぼくは王さま全集」(全10巻・1985年完結)の8巻目『王さまパトロール』から最新刊『王さまABC』まで編集を担当されてきました。今回は岸井さんから見た「ぼくは王さま」シリーズが生み出されるまでの様子、寺村輝夫さんや和歌山静子さんとのやり取り、作品の魅力などについてお話いただきました。
●「ぼくは王さま」の名付け親は……?
――誕生から60年たった今も子どもたちに人気のシリーズというのはとても珍しいと思います。『ぼくは王さま』シリーズがどのようにスタートしたか、岸井さんはご存知ですか?
編集者でもあった児童文学作家の今江祥智さんが「ぞうのたまごのたまごやき」を読んで、「こんなにおもしろい話がある!」と理論社に推薦してくださったそうです。寺村さんは1956年から「王さま」の物語を福音館書店の「母の友」や「こどものとも」、児童文学雑誌など、いろいろな媒体に発表していましたが、その頃はまだ日本の作家の童話を単行本で刊行する出版社は少ない時代でした。弊社の創業者で社長だった小宮山量平が、王さまの初期の5編をまとめて『ぼくは王さま』というタイトルをつけたそうです。
―― 「ぼくは王さま」というタイトルは、小宮山量平さんがつけたんですか?
はい。寺村さんご自身がそのように書いていらっしゃいます。それに、『ぼくは王さま』の巻頭にある王さまの定番フレーズ「どこのおうちにも、こんな王さまが ひとりいるんですって」という文章。これも、「ぼくが考えたわけじゃない」とおっしゃっていました。
―― もしかしたら、その文章も小宮山さんが考えたのかもしれないですね。それにしても、もともとほかの媒体に発表されていた作品を一冊にまとめて出版されたなんて、驚きました。
寺村さんは、王さまをご自身のライフワークと位置づけて、新聞や雑誌などから童話の依頼があると、王さまのおはなしを書くことが多かったのです。それがちょうどたまってくると1冊にまとめて刊行するという方式で、私が入社したのは、8巻目まで来たころでした。8まで来られたのだから、もう少し頑張って10巻まで出そう、「ぼくは王さま全集」というシリーズの名前もつけよう、ということになり、9冊目の『魔法使いのチョモチョモ』を刊行し、10冊目をシリーズ完結編として書き下ろしていただいたのです。
―― それが『王さま かいぞくせん』ですね。その後「ぼくは王さま」は、「ぼくは王さまパート2」や「ちいさな王さま」、「新・王さまえほん」など、数々のシリーズが発表されています。その中で、岸井さんにとって特に思い出に残っている作品を教えていただけますか?
どれも印象深いのですが、本として考えたら、その「ぼくは王さま全集」全10巻をまとめた『ぼくは王さま全1冊』です。
―― 『ぞうのたまごのたまごやき』からはじまった「ぼくは王さま」シリーズのお話49編を収めた、ボリューム満点の1冊ですね。
それまで、1つのシリーズを全1冊というスタイルで、全てまとめたという本はありませんでしたから、画期的な企画だと寺村さんがとても喜んでくださって……。理論社ではその後刊行した『ぼんぼん全1冊』(作/今江祥智)や、『まど・みちお全詩集』などの先駆けになりました。
―― 和歌山静子さんの絵を大胆にあしらった装丁が杉浦範茂さん(※)なのも豪華ですよね。
(※ 杉浦範茂……イラストレーター、絵本作家、主な作品に『かぜひきたまご』(作/舟崎克彦、講談社)、『サンタクロースってほんとにいるの?』(作/てらおかいつこ、福音館書店)など。「ルドルフとイッパイアッテナ」シリーズの挿絵を手がける)
はい。後に寺村さんの全集を刊行するときも全1冊方式にして(『寺村輝夫全童話』)杉浦範茂さんに装丁して頂きました。
―― 「ぼくは王さま」シリーズの中で、特にお好きな作品を教えて頂けますか?
そうですね。いろいろなお話があって本当に迷います……。わがままな王さまが、嫌いな野菜を食べなかったり、お風呂に入るのがめんどくさくて自分そっくりなロボットに代わりに入らせたりする、わがまま実現系のお話も爽快ですし、「透明人間になったらおもしろいだろうな」とか「シャボン玉が割れなかったらいいのに」といった常識にとらわれない願望を博士に言いつけて叶えてしまうタイプの話もあります。
その一方で、『ハアト星の花』に収録されている話は、奇想天外な宇宙人が地球にやってくるSFタッチの話がたくさん出てくるのですが、中でも「ガルメ星のどく」が個人的に好きです。コックに化けてお城に潜入したガルメ星人が地球人を殺すために入れた毒が、人間にはとっても美味しい調味料になってしまい、「おいしいからもっと作れ」とこき使われて……というストーリーが実に逆転の発想で……。「ぼくは王さま」の中には、そういった皮肉が効いている話や、人間の欲望に翻弄される話も多くて、寺村さんは人間の本性をいつも見つめていらしたんだと思います。
―― 子ども心に、大人の本を読んでいるような、ちょっと背伸びした感覚になるストーリーですよね。
寺村さんは、常識に凝り固まってしまった大人には厳しくて、先入観にとらわれない子どもの発想が大好きだったんです。ですから子どもとの接点はとても大事にされていました。日常の、ご自分のお子さんを通して見えてきたことは『子の目、親の目』などのエッセイにも書かれていますし、ご自宅に「王さま文庫」を開設したり少年野球チームなど地域の活動もされて、日常の中で子どもと接する時間をとても楽しんで大切にされていました。
―― 「ぼくは王さま」の中に登場する、ワクワクする発想やアイディアは子どもと一緒にいる中で発見していったのかもしれませんね。
そうですね、寺村さんの中に元々子どもの頃から変わらないピュアな感覚があって、大人がふだん見過ごすような子どもの言動などをキャッチするセンサーになっている感じでしたね。そこから王さまという子ども代表のようなキャラクターが生まれて、次々と愉快でハッとさせられるお話が生み出されたのだと思います。
●今だったら、もっといろいろなことが話せたんじゃないかと思います。
―― 岸井さんは「ぼくは王さま」シリーズの担当を、どのような形で引き継がれたのですか?
私は、1982年に理論社に入社したのですが、当時の編集長から「王さまシリーズを担当して」と言われたのは、入社1年後くらいだったと思います。
―― その頃すでに、「ぼくは王さま」シリーズは大人気だったと思います。その人気シリーズの担当になるというのはプレッシャーを感じませんでしたか?
それが意外と、当時は怖いもの知らずだったというか……そういうことがあまりわかっていなかったんだと思います。寺村さんは元編集者でもありましたし、当時の文京女子短大で幼稚園の先生や保育士を目指す学生さんに教えていましたから、編集長は学生の延長みたいな駆け出しの編集者を鍛えていただこうと考えたのかもしれません。
―― 岸井さんから見た、寺村輝夫さんはどんな雰囲気の方でしたか?
最初にお宅に伺うとき、行く道で編集長から「怒らせないように気をつけて」とさりげなく言われて、わざわざそんなことを注意するということは相当怖い方なのかな? と、すごく緊張したのです。でもお会いしてみるとそれほど「怖い」印象ではなかったです。むしろ、緊張して生真面目な受け答えしかできない私を茶化してふざけたり……。いたずら心のある面白い方だなって思いました。
―― 寺村さんの奥様も、以前取材のときに「面白い人だと思った」と語られていましたが、同じ印象を持たれたのですね。以前、和歌山静子さんにお話を伺ったとき寺村さんと岸井さんと3人で打ち合わせをしていたことを伺いました。
3人でお会いするときは、寺村さんの作品(文章)はもう出来上がっていて、和歌山さんの書かれた下絵や完成した絵を、寺村さんに見て頂くという場面が多かったです。
―― そのときのお二人のやり取りを覚えていますか?
毎回、寺村さんが「おっ」と目を見開くような、期待を良い方に裏切るような絵が必ずありました。その一方で、1冊の本の中に1枚か2枚くらい、寺村さんがこうした方がいいとおっしゃる絵もありました。寺村さんは、和歌山さんの持ち味をこういう風に生かしたい、というイメージをお持ちで、自分の作品だからというよりもう少し客観的立場で見ようとしていらしたようです。でもそれを最小限の言葉でしか言ってくださらないので、和歌山さんが納得のいくまで質問をしていることが多かったです。言葉のやり取りは短くても真剣勝負で、私はハラハラしながら見守ることしかできなかったですね。
―― 打ち合わせの中で、白熱することも多かったのでしょうか?
お二人の年齢はひとまわり違いましたから、和歌山さんが寺村さんの胸を借りているという感覚でした。王さまの新しい話にどういう絵を描くか、毎回全身全霊でぶつかっていって、それに寺村さんが真剣勝負でこたえるという感じでした。考えてみると、私が参加する前に10年以上月日が経っているんですよね。当時すでに軽々しく口を挟みにくいような年輪を感じていました。
―― 作家と画家として、ひとつの作品を作り上げる最良のパートナーだったんですね。
岸井さんに対しては、寺村さんはどのような感じだったのですか?
寺村さんは編集者に「作品の一番の理解者であってほしい」と期待して下さっていたと思います。一番緊張したのは、いただいた原稿を拝読するときでした。30〜50 枚くらいの原稿はその場で読むのですが、読んでいるときの表情を観察されている視線を感じました。読み終わって「おもしろかった!」と正直に伝えるわけですが、その一言だけというわけにもいきません。でも作品をその場で分析して……という風には行かず、「ここがおもしろかった」「あの場面が良かった」みたいな断片的なことしか言えずもどかしかったです。今から思うと、素直なその反応を期待されていたのだとわかるのですが……。
―― 寺村さんと岸井さんは、親子ほど年も離れていますから、なかなか寺村さんの思いを感じ取るのは難しいですよね。
そうですね。それに当時はあまりわからなかったのですが、寺村さんは作家仲間からご自分の作品が正当に評価されていないという孤独感のようなものをお持ちだったのかもしれません。同じシリーズをずっと続けることの大変さ、クオリティを落とさずに書いて当たり前と思われますし、シリーズが良く売れているためか「相変わらず王さまを書いてる」みたいに言われたり、悔しい思いもされていたかもしれません。「文学賞の審査員は子どもじゃないからな」なんておっしゃることもあって……自分の作品を子どもは面白がってくれるという自負があったのですね。実際、子どもからの読者カードやファンレターの数がとても多くて、その熱気はすごかったのです。その一方にある孤独感をもっと理解できていたら良かったのに、今ならもっといろいろお話しできるのになと思うんです。
●王さまらしさにこだわった、ABC絵本登場!
―― 最新作、『王さまABC』について伺いたいと思います。王さまと一緒に楽しみながらアルファベットを覚えることができる絵本ですね。この作品はどのような経緯で生まれたのでしょうか?
『王さまABC』は、『あいうえおうさま』の姉妹編として企画した作品なんです。
―― 『あいうえおうさま』は、「あ」から「ん」までがリズミカルな言葉とイラストでまとめられている、あいうえお絵本ですね。親御さんの中には子どもの頃に読んだり、覚えたりした方も多いと思います。
『あいうえおうさま』は1979年当時、寺村さんの発案で、「あ」なら「あ」のつく物の名前だけでなく形容詞や動詞などのも使った、生きた日本語を味わえる絵本をとの思いで作られたそうです。その後30年以上たって、その魅力を今度はアルファベットを使った絵本で実現したいと考えました。
―― 「A」で「Are you an alligator?(おまえはワニか?)」と王さまがいばって言っていたり、やっぱり「E」は好物の「Egg(たまご)」が出てきたり、どのページも王さまの魅力がいっぱい詰まっていますね。
ありがとうございます。王さまのABC絵本ですから、王さまの性格や王さまらしい行動がしっかり詰まった絵本でないと意味がありません。最初は「A」なら「A」で始まる単語で英文を作ることに精一杯で固い文章になってしまって、和歌山さんもなかなか絵が描きにくそうでしたが、「Are you an alligator?」という文章が生まれてから、会話などの親しみやすい英文と王さまらしさのバランスがつかめてきて、どのページも王さまらしさ全開という絵本になりました。
―――― 『あいうえおうさま』の姉妹編らしく、文章で書かれていること以外にも、それぞれのアルファベットで始まるものの絵が随所に描かれていて、「C」の中に、「Cat(ネコ)」も「Carrot(ニンジン)」もいる!」と発見する楽しみもありますよね。
そうですね。今度のABCでは、英単語の意味や発音の分かる単語一覧を載せました。この絵本で初めて英語に触れるお子さんに、絵を探す楽しさ、見つける喜びを味わい、大人になってもこの本の中の王さまの姿とか一場面思い起こしたりしていただけるようになったらうれしいなと思っています。
―― 寺村さんが亡くなられた後も、「ぼくは王さま」シリーズは、絵本になったり、今回のようなABC絵本になったりと、新作を生み出されているのは、とても珍しいことだと思います。
そうですね。以前は3人で行なっていた打ち合わせも、今は和歌山さんと2人で相談しながら1冊1冊を作っています。王さまにピッタリのアイディアが出たときなどに、和歌山さんは「今きっと寺村さんが上から見ているわね(笑)」なんておっしゃいます。寺村さんにとって「王さま」は分身のような存在で、その思いも深かっただけに、今でも「ぼくは王さま」の新刊を作るとき、「寺村さんだったらどうおっしゃるか」を指針にしているんです。長年「王さま」と関わってきた和歌山さんにはピピッと判るんですね。そういう関係性はとても不思議です。寺村さんが半生をかけて、大人の常識に反旗を翻し「あくまで面白く」書き続けた「ぼくは王さま」を守り育てていく責任感のようなものを私も感じています。
―― これからも「ぼくは王さま」シリーズは、まだまだ新しい作品を私たちに楽しませてくれるように感じました。今、どんなものを制作しているのか、教えていただけますか?
こんど「王さまかるた」を出します。それと、和歌山さんとは、王さまらしさのエッセンスを生かした赤ちゃん絵本を作れたら良いですねとお話ししています。
―― 王さまの赤ちゃん絵本ですか?
もしできたらですが、……王さまを読んで育った大人は、その魅力をよくご存知なんですね。そういう親御さんに、王さまの赤ちゃん絵本を「わが家の王さま(お子さんやお孫さんなど)にそっくり!」と思いながら読んで頂けるような絵本、小さいお子さんが王さまに最初に出会う絵本になると思うんです。
―― そうですね! 和歌山さんにお話を伺うのが今からとても楽しみになりました。今日は本当にありがとうございました。
●超レア! 「王さまクラブ」の会員証と新聞
1991年、読者カードを送ってくれた人に案内を出してメンバーを募って発足したという「王さまクラブ」。会員に送られる「王さまタイムス」では、読者投稿のイラストコーナーや、「ぼくも王さま」というおはなしを募集して掲載するコーナーなどもあったのだそう。今、もしお持ちの方がいたら、とってもレアです!
●「和歌山静子、王さまと出会って50年展」開催中!
●王さま60周年記念アワード コメント募集中!
「王さま」シリーズや、「寺村輝夫のとんち話・むかし話」シリーズ、「わかったさんのおかし」シリーズなど、数多くの児童文学を生み出した、寺村輝夫さんってどんな人? 知りたい方はこちら>>
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