夏の昼下がり。一人で留守番をしていた、てつやは、地下室へのとびらが開いていることに気がついて……
一人で下りていきます。
おもしろそうなものがないかとごそごそ探しているうちに、ずいぶん時間が経ちました。
そこへ、突然きこえてきた、低く冷たい声。
「さっきから なにを さがしているんだ。
うるさくって しょうがない。」
びっくりしてあたりを見回しても、誰の姿も見えません。
てつやに話しかけてきたのは誰でしょう?
「地下室」という、くらくてひんやりして、たくさん物があってなんだか訳の分からない場所。
ちょっぴりこわさもあるけれど、特別な場所に迷い込んだみたいで、わくわくしちゃいますよね!
てつやは、「声」と話しながら、地下室をどんどん明るく、色とりどりにしていきます。
狭い無機質なはずの部屋が、ページをめくるごとに変わっていくのは気持ちがいいほどです。
でも外の本当の世界はこんなもんじゃない、もっと風が吹いて光が揺れる、いろんな音がきこえる場所なんだと思ったてつやは……!?
透明感のある絵の中に、大人も子どもも幻想的な時間の流れを感じます。
「声」とおしゃべりをするてつやは、小学生くらいの子どものようにも見えるし、もっとずっと幼い子のように見えるときもあります。
家の中の、地下室という異空間。
それは、たった一人で紛れ込める夢の世界、冒険の世界。
絵本をひらいているあいだ、想像の翼をひろげて異空間へ入り込む感覚をあじわってください。
題32回日産童話と絵本のグランプリ、絵本大賞受賞作品です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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