豊富なカラー記事とデータが満載。表紙を見て、一見、難しいのかな? 長いのかな? と思った子もいるかもしれませんが、本を開いてみると文章がひとりひとりに優しく語りかけるように紡がれていく、とても読みやすい1冊です。
「この本を手に取ってくれたきみへ」のメッセージの中に、「2011年の3月11日に大きな地震と津波が起こりました。その時きみは、何歳だったかな。」の語りかけがあり、この本が小学生や中学生に向けて書かれたことが分かります。ソフトカバーで軽く、難しい内容はほとんどありません。ひとりで読むとしたら、小学校4年生ぐらいからでしょうか。すべての漢字にルビも振られています。
本書は5章に分かれているのですが、第1章は、宮城県石巻市にある「石ノ森漫画館」での3.11からの5日間がまんがで描かれています。まんがを描かれているのは、漫画家の細野不二彦さん。最初がまんがから始まるので、本を読むのがちょっと苦手という子でも、無理なく読み進めていけそうです。
つづく第2章は、津波で大切な娘さんを失った中学校教師の平塚真一郎さんの「天国の笑顔のために」。とても胸が詰まり、読み進めるのがつらい場面もありますが、ここに書き紡いで下さったことに感謝すると共に、心に残ることばとたくさん出会うことができます。
第3章は、東北を代表する新聞社「河北新報社」が集めた被災地の「声」。41人の方それぞれの震災体験とそこからの日々のこと、読者へのメッセージが伝わります。それぞれに大きな困難や悲しみに見舞われながらも、周りの人々に支えられ、前に進んできた歩みが力強く感じられます。
第4章は、〇〇で見る3.11ということで、「新聞で見る3.11」「地図で見る3.11」「数字で見る3.11」「写真で見る3.11」……というように、とても分かりやすく震災に関するデータがまとめられています。
そして最後の第5章は、観光学者の井出明さんによる「死の意味と復興の力強さ」と題したまとめが語られます。
この章では「なぜ震災を学ぶのか」、その理由がストンと胸に落ち、さらに防災の世界でしばしば語られるという「2度目の死」ということについてじっくりと教えて下さいます。
震災の日のこと、大切な人を失った悲しみ、命のとらえ方、若い人に伝えたいそれぞれの方からのメッセージ‥‥‥。この本はたくさんのことを教えてくれますが、一貫して伝わってくるのは、命の大切さ、かけがえのなさです。
「命はひとつ。大切なきみの命。名前もひとつ。大切なきみの名前。」
この本の編集をされた方が、あとがきで「泣きながら作りました」と書いていましたが、たくさんの伝えたい、伝えなければという思いを受けて、子どもたちが震災のことだけでなく、自分の命について考える時に、大きな助けとなる1冊となるに違いありません。この本に触れることで、頭で知る知識だけではない、心で感じる知識がしっかりと胸に刻まれていくことでしょう。もちろん大人の方にもおすすめしたい1冊ですが、読み終えた後は、ぜひ身近にいる子どもたちに手渡していただけたらいいなと思います。また、学校の図書室や教室や児童館など、子どもたちが自然と手を伸ばせるところに置いていただけたら、と願います。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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命の大切さを伝える「3.11」の物語集
約1万6000人。これは2011年3月11日に起きた東日本大震災で亡くなった人の数です。観測史上最大規模の地震です。巨大な海洋プレートがはじけ、大きな津波が太平洋沿岸部を襲いました。千年に一度の災害と言われています。日本は災害のとても多い国です。この国に暮らす限り、誰しもが災害からは逃れられません。むしろ「いま生きていることの方が奇跡」なのかもしれません。
【プロフィール】
漫画 細野不二彦
『さすがの猿飛』『Gu-Guガンモ』のアニメは全国放送。『ギャラリーフェイク』『TARO 太郎』にて小学館漫画賞を受賞。小学館漫画賞審査員。漫画界のトップランナー。
ノンフィクション 平塚真一郎
中学校長と石巻市立大川小学校の事故遺族という両方の立場から、学校安全について講話等を行っている。
インタビュー 河北新報社(特別協力)
「河北新報」を発行する東北を代表する新聞社。震災後の精力的な取材報道に力を入れる。
解説 井出明
金沢大学准教授。博士(情報学)。日本に「ダークツーリズム(災害や戦争の跡をめぐる旅)」を広めた気鋭の観光学者。震災後の観光と復興に関する研究を行う。
【編集担当からのおすすめ情報】
亡くなった方は、「怖かったでしょう」、「寒かったでしょう」、「冷たかったでしょう」、「痛かったでしょう」、「苦しかったでしょう」…「生きたかったでしょう」。
この本を「自分のこと」として読んで、「命の大切さ」や、「人を思いやる心」のかけらにふれてみてください。そして日々の防災意識を高め、自分や大切な人の命を守ってください。
きみと、きみたちと、亡くなったたくさんの「命」が、永遠に幸せでありますように。
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