幼い友だちとの別れは、おとなのそれより、ずっと切ない。
青くて広い、空と海。
ガジュマルの木と、サトウキビ畑。
島で生まれ、島で育った小学二年の美波は、島を出て東京に引っ越すことになった。
もう、友だちと会えなくなってしまう。
島で過ごす最後の日、そのことを強く実感した美波は、心がからっぽになったように感じていた。
「洋生の顔がぱっとうかんだ。目をきらきらさせているいつもの顔だ。あえないまんまさよならなんていやだ」
いてもたってもいられなくなった美波は、いつもいっしょに遊んでいた友だちの洋生とお別れをするため、家を飛び出す──。
大切な友だちとさよならするための、せつなくもさわやかな一日を描いた一冊です。
美波が育った南の島の、暑い夏。そこには、たのしかったり、かわいかったり、きれいなものが、たくさん!
幼い視点を通して見る、島の自然の描写がおおきなみどころです。
強い夏の日差しと、すずしい海風。
サンゴや貝がらや、星の形の石。
美波と洋生をとりまく、みずみずしい自然の描写をうつくしいと思うほどに、島とお別れする美波の心の「からっぽな感じ」が、切実に胸にせまってきます。
物語終盤に美波と洋生がおとずれる、サトウキビ畑の真ん中に建つ倉庫の屋上。
倉庫によりそって生えるおおきなガジュマルの樹が木陰をつくるその場所で、ふたりはソーダ味のキャンディをかじりながら、遠く海の上で雷に光る、おおきな夏雲をながめます。
どこかなつかしく、幻想的なそのシーンは、この物語を読み終えてずっと時間が経ったあとにもふと思い出しそうなほど、印象的な光景です。
「からっぽは、すてきなものをいれるたからばこだったんだよ」
美波と洋生は、どんなさよならを交わすのか。
一日をとおして、美波のからっぽな心に入った「すてきなもの」とは。
いつまでもあたたかく心に残る、さよならのための物語です。
(堀井拓馬 小説家)
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