「あかちゃんはどうやってできるの?」と子どもに聞かれたら……? 性教育の絵本はいろいろありますが、本書が画期的なのは、性別を表す言葉を一切使っていないこと。例えば「卵子はみんながもっているわけではありません。もっているひともいれば、もっていないひともいます」「精子はみんながもっているわけではありません。もっているひともいれば、もっていないひともいます」と書かれています。
他にも、卵子と精子には物語がたくさん入っていて、それぞれの持ち主の体の情報がわかること。あかちゃんが育つには子宮という場所が必要なことなど“人間共通の基本的な仕組み”として、男女に触れず明快にシンプルに説明していくのです。
ここでわが家の7歳の子は言いました。「女のひとに卵子があって、男のひとに精子があるんじゃないの?」と。「うーん、だいたいそうなんだけど、そうじゃない場合もあるんだよ。病気とかでもってない場合もあるし、体と心が違う場合もあるからね」と説明すると、わかったようなわからないような顔をします。実際はもう少し詳しく話しましたが、おそらく、本書は何度も読むうちに、その価値や意味がだんだん腑に落ちていく絵本なのだと思います。
訳者のたちあすかさんはスウェーデンに留学中、娘さんが通う現地の保育園で、原書の“What Makes a Baby”に出会ったそう。「家族のかたちの多様さ、ジェンダー用語を使わない平易な表現による高度な性教育、比較するのではなく個々を認め合うという視点、肌の色を特定しないビビッドな色づかい、そして何よりもワクワクする物語」に心を動かされたことを「訳者のことば」で述べています。
本書は問いかけます。「あなたが生まれてくるのを待っていたのはだれでしょう?」「あなたが育って、喜んだのはだれでしょう?」
大事なのは生の喜びそのもの。この本が排除する読者はおそらくひとりもいません。自分や他人の性自認を当たり前だと思わず、さまざまな誕生の仕方、家族の形を知る……。本書は、基本的なあかちゃん誕生の仕組みを子どもにわかるように解説しつつ、多様な〈生〉と〈性〉を尊重する精神に貫かれています。とても貴重な性教育の絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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