作物を育てて、収穫したことはありますか?
この絵本は、男の子と女の子が畑に種をまき、作物を収穫していくさまを描くことで、恵みの豊かさを伝えてくれる絵本です。
春になり雪が溶けると、くわとくまでを使って土を耕し、種をまき苗を植えます。芽が出て野菜の花が咲き、土の中にはミミズ、畑の周りにはねずみやうさぎもいて、にぎやかに毎日は過ぎていきます。
季節はめぐるも畑の世話もひっきりなし。つぎつぎと生えてくる雑草を抜き、太陽が強い時には水をまき、その間に育った野菜にも目を配ります。実ってきた野菜を動物たちが勝手に食べてしまうので、かかしも作ります。
そうしてようやく収穫の季節。ていねいにお世話をしたおかげで、たくさんの作物がとれましたが、収穫の後も、食べるための準備をしたり冬に向けて保存をしたり大忙しです。
畑の一年はあわただしく過ぎていき、読んでいるだけでもその忙しさに目が回ります。ですが、それだけの世話をしたからこその収穫の喜びが、読み手にも伝わってきます。
作者は『おやすみなさいおつきさま』のマーガレット・ワイズ・ブラウンとイーディス・サッチャー・ハード。二人は先進的な幼児教育を学ぶことのできる、ニューヨークのバンク・ストリート教育大学で出会い、その後、絵本を作ります。イーディスの夫は『おやすみなさいおつきさま』の画家、クレメント・ハードです。
畑の生活と恵みをうたうリズミカルな文章を、男の子と女の子が楽しそうに働く素朴な絵で表現しているこの絵本には、大きな事件があるわけではありません。ですが、畑の生活をシンプルにつづっているからこそ、その生活の豊かさがダイレクトに伝わります。一年を通して作物を育てた経験がある子は少ない今、私たちが作物を手に入れるには、これだけ多くの手間ひまがかかっていて、だからこそ、食べ料理することがいっそううれしい、そうした生きる基本をやさしく教えてくれます。
この絵本がアメリカで刊行されたのは1951年ですが、今の時代だからこそ、作物を育てることの大変さ、食べものを手に入れることの喜びを、ふたりの小さな園芸家の姿から教えてくれる心温まる絵本です。
(徳永真紀 絵本編集者)
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