
ある冬の日の日暮れどき、ひとりのお坊さまが、信濃の山を越え越後への路を急いでいました。立ち寄った茶屋のおばあさんには山賊が出ると引き止められますが、おいはぎにあったら、悪いことをしないようにお説教をするのだと躊躇することなく出発するのでした。 すると案の定、出くわした山賊に刀を突きつけられ、持っているお金を全て差し出すことに。もう持っていないかと問い詰められたお坊さまはとっさに「持っていない」と答えるのですが……。
大正から昭和にかけて230を超える著作を残した、佐賀県神埼市出身の文学者・吉田絃二郎の童話絵本シリーズ。題名の通り、心根の真っ直ぐなお坊さまの行ないは、山賊の心を突き動かし、瞬く間に会心させます。お坊さまのように、自分が無一文になることも厭わず約束を貫くなんて、なかなかできることではないでしょう。それでも、誠実であろうとすることが、自分に、相手に、ささやかな福をもたらすと気づかせてくれるおはなしです。
(竹原雅子 絵本ナビライター)

ある冬の日でした。おいづる(にもつをはこぶためにせなかにかつぐはこ)をせおったおぼうさまが、しなのの山をこえて、えちごへの路をいそいでいました。茶やのおばあさんは、とうげには山ぞくが出るから、明日の朝早くたつようにすすめたのですが、「おいはぎにあったら、わるいことをしないようにおせっきょうをしてやりましょう。」と言って山道を歩いてゆきました。
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