夏休みにぜんそくの発作で寝込んでしまった10歳の主人公、純。プールにも旅行にも昆虫採集にも行けず、肌はまっ白のまま。もともと肌が白く、学校で「シラミ」と呼ばれている純は、今年の夏休みこそまっ黒になろうと思っていたのに……と学校に行くのが憂鬱で仕方がありません。
明日から新学期という8月31日の夜、夜中の12時に目が覚めた純に不思議なことが起こります。部屋にある日めくりカレンダーをめくると、9月0日の文字が現れたのです。さらにカレンダーの下には、小さな赤い字でこんな言葉が。
「きみだけの特別な一日 さあ、冒険に出かけよう!」
不思議に思って窓から外を見ると、家のまわりにはうっそうとしたジャングルが広がっていました。純はカレンダーの言葉に背中を押されて、デイパックに食料と水筒と懐中電灯、そして宝物の古びたナイフをつめて、外のジャングルに飛び出します。すぐに右も左も分からなくなって迷ってしまった純でしたが、途中でクラスのアイドルリコちゃんと、キョーボーで有名なアギラこと明が現われ、一緒に冒険に行くことに。
三人が向かった先は、熱帯雨林のようなジャングルに、ぎらぎら照りつけるような太陽とひからびた大地、そして次々に現われる恐竜たちの世界。恐竜に詳しい純は、来た場所が、何千年も前の、恐竜が一番さかえた時代の白亜紀なのではないかということに気づきます。
物語は、予想を裏切らないハラハラドキドキの冒険が続きます。同時に、大きく内面が成長していく純の様子に強く心が打たれます。また、苦しいことやピンチを乗り越えたからこそ、友達の新たな一面を知ったり、強いと思っていた友達が自分と同じ弱い面やみっともない面を持っていることを知って理解が深まったり、さらに、冒険の途中でできなかったことができるようになった自分への自信もついていきます。
「人は、だんだんおとなになるにつれて、たいせつなものも、そうじゃなくなっていくのだろうか。そして、説明のつかないことはすべて、うそか、でたらめか、夢だと思いこんで、かたづけてしまうのだろうか」という物語の後半に出てくる言葉が印象的です。主人公の純の10歳という年齢は、ちょうど心が大人に向かって大きく成長していく時期。同じぐらいの年齢の子どもたちはこの言葉をどのように受け止めるのでしょう。
この200ページ以上にもなる長い物語を読み終えた瞬間に、夏の大きな冒険をしたような満足感が味わえるこちらの一冊。夏の終わりに何か物足りなさを感じたら、思い出して手に取ってみませんか。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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