誰もがひとつの「才」を持って生まれてくる、という美しい孤島の島エテルニア国。「才」の種類は「守」「医」「力」「地」「空」「水」「技」「芸」「真」「闇」「知」の11種類あり、生まれてきた時の目の色で何の「才」を持っているかが、判明される。その国で、なぜか「才」を持たずに生まれてきた主人公の少女アニア。アニアは、自分が「無才人」であることに引け目を感じながらも、足りない才を埋めるために、足しげく古文書館や博物館に通い、歴史や外国の科学技術について学び、知識を蓄えていく。
エテルニア国は、11種類の「才」と、それをコントロールする「術」=「才術」によって、生活に関わるものすべてが万全に整えられている完全無欠の世界。しかし、その平穏な世界に、突然想定外の出来事が起こる。それは、全ての「才術」を消失させてしまう「マジックアウト」と呼ばれる非常事態。「才」のうち「力」を持つ者によってコントロールされていた電力がなくなり、「空」を持つ者によってコントロールされていた気候が悪化、たちまち食料不足に陥るなど、国中に大きな不安と混乱が広がっていく。そこで、これまで必死にあらゆる知識を蓄えてきたアニアに国を救うための意見が求められる。「才術がなければ、自分たちの頭と、手を使えばいいのです」というアニアの言葉が胸にぐっと迫る。
全てを失ったかのようなエテルニア国に、再生への道はあるのか?アニアは国を救えるのか?国の存続の運命を委ねられるのが、「才」に恵まれた者ではなく、「無才人」のアニアだということや、そのアニアが一歩一歩前に進もうとする姿に、読んでいて強く励まされる。主人公のアニアをはじめ、アニアの友達、両親、両親の友人、賢者など、物語が進むにつれて、キャラクターがより生き生きとしていく様子にも注目したい。丹地陽子さんの描く異国を感じさせる登場人物たちのイラストもまた美しく魅力的で、物語の世界に、より気持ち良く没頭させてくれる。
現実の世界にも置き換えられるようで、あらためて様々なことを考えさせてくれる本格長編ファンタジー三部作の幕開け。小学五年生ぐらいから大人の方まで幅広い年代の方に。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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