人はいったいどこからくるのでしょう。
そのはじまりの場所を、静かに、あたたかく、そしてユーモラスに描いた物語。
きりがたちこめてあたりは真っ白、右も左も分からないところに立ったコグニ。
ここがどこかわからないけれど、ちっともこわくありません。みょうに心地良いのです。その心地良さについ身をゆだねてしまいそうになりながらも、「とにかく しっかり しなくっちゃ」と、自分の意志で歩き出します。途中、時間がのびたりちぢんだりするように感じたり、なにか大切なものがないような気がしたり。それでも今できることは歩くことだけ、とコグニは歩き続けます。
そんなコグニが出会うのは、石を積んで川の水をためているちょっと変わったオトコノコと、性格の違う二ひきのヘビ。オトコノコとのやりとりや、ヘビの会話は物語の楽しい場面です。
本書は、作者のいとうひろしさんが幼い娘さんに「おかあさんのおなかの中で何をしていたの?」とたずねたところ「ヘビさんと遊んでた」と教えてもらったことから生まれた物語なのだそう。
コグニが世界がはじまる前の場所から、こちらの世界にやってくるまでの道のりは不思議で神秘的であり、コグニのこれからを感じる場面では、嬉しさと祝福のような気持ちがわき上がりました。さらに、コグニとふしぎなオトコノコの関係にも嬉しさがこみあげます。
最後に、お話と合わせて本のデザインにも注目を。お話が進むにつれ、挿絵がどんどん濃くなり、コグニの輪郭がはっきりしていくところや、本のカバーがつるつるとした包装紙のようになっているところは、ぜひ実物を手にとって確かめてほしいポイントです。
本自体がギフトのようにも感じられる祝福に満ちた一冊。子どもたちと一緒に読んだら、どんな反応がかえってくるのでしょうね。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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