ライマン・フランク・ボームが書いた、不朽の名作『オズの魔法使い』。
アメリカでは14冊ものシリーズとして出版され、原作者ボームの死後も別の作家により「オズ・シリーズ」が書き続けられてきたことを知っている方は少ないのではないでしょうか…。
日本では過去に一度、早川書房からオズ・シリーズ14冊が出版されましたが、長らく2巻以降が品切れになっていました。そこで2011年より、復刊ドットコムさんが新訳で「オズの魔法使いシリーズ」を刊行し、2013年11月、ついに今回、15巻目として番外編『オズの小さな物語』が発売となりました。この番外編が翻訳されるのはなんと日本初とのこと。今回、「オズの魔法使いシリーズ」全巻コンプリートを記念して、3名の翻訳家、宮坂宏美さん、ないとうふみこさん、田中亜希子さん、そしてコーディネーターとして翻訳チームをまとめた林あゆ美さんにお話を伺いました。
(左から) 田中亜希子さん、ないとうふみこさん、宮坂宏美さん、林あゆ美さん。「オズの魔法使い」翻訳チームが勢揃い!どんなエピソードが飛び出すのでしょう。
●「『オズの小さな物語』は日本初翻訳本! オズビギナーの方にも楽しめる短編集です」
- 完訳 オズの小さな物語
- 著:ライマン・フランク・ボーム
訳:宮坂 宏美 ないとう ふみこ 田中 亜希子
挿絵:サカイ ノビー - 出版社:復刊ドットコム
不朽の名作シリーズが、完訳版でよみがえる!
未邦訳作品『オズの小さな物語』を加えた全15巻で登場!!
今回は、シリーズ1巻目にあたる『オズの魔法使い』だけでなく、2〜14巻までの続編と、日本で初めて出版されることになる『オズの小さな物語』(Little Wizard Stories of Oz)を合わせた全15巻の《オズの魔法使いシリーズ》として、完訳版で刊行いたします。
装画・挿絵は“ハリスおばさんシリーズ”などでもおなじみのサカイノビー氏。キュートなイラストで彩られた《オズの魔法使いシリーズ》を、どうぞお楽しみください。
───「オズの魔法使いシリーズ」、全15巻の完成、おめでとうございます。
最新作『オズの小さな物語』が11月に完成されたばかりですが、今のお気持ちはいかがですか?
宮坂:「終わったー!」とメンバー全員、心から安堵しています。2011年9月から2か月に1冊のペースで刊行していたのですが、ずっと走り続けている感じで…。今はすごく晴れやかな気持ちです(笑)。
───『オズの小さな物語』は6つのお話がまとまった短編集で、「オズ・シリーズ」に登場するおなじみのキャラクターがそれぞれメインになっていますよね。ほかの14冊がすべて長編なので、シリーズの中では異色だと思うのですが…。
林:実はこの作品、アメリカでは6巻と7巻の間に出版されたブックレット形式の物が1冊にまとめられたものなんです。…というのも、「オズ・シリーズ」を書いたボームは6巻でこのシリーズを一度終わらせているんですよ。
───そうなんですか!
宮坂:6巻の最終章にはっきりと「これでオズの物語はおしまいです。」と書いてあるんです。
林:でも、読者から再開の要望がものすごく多くて、シリーズを続けることになりました。前の巻から3年ほど経っていたので、再開の宣伝の意味合いも込めて書かれたのが、今回、15巻として発売した『オズの小さな物語』です。ボームとしては、6巻までに出てきた登場人物を活躍させて、読者に印象づけるキャラクターブック的な作品として書いたのだと思います。
───オズマ姫の護衛隊長を務める、おくびょうライオンと腹ぺこタイガーが「ぼくらの力をみせつけて、オズの人たちをびっくりさせてやろう!」と宮殿を飛び出したり、ドロシーとトトが2人だけで冒険に出かけたり、かかしとブリキのきこりが仲よく川遊びをしたり…。キャラクターの魅力がぐっとつまっていて、どれもすごく面白いですよね。こんな魅力的な作品が日本では未翻訳だったということが驚きでした。
林:翻訳をはじめるとき、まずベースとなる定本を決めたのですが、「オズ・シリーズ」はたくさんの原書が存在するので、どれにするかすごく悩みました。その中にオリジナル版として「15巻セット」となっているものがあったんです。
宮坂:「ボーム作のオズ・シリーズは14巻までのはずなのに、なぜ15巻?」と思って調べてみたら、この短編集が発売されていることを知りました。読んでみると、楽しいし、キャラクターの魅力がより増すようなストーリーとなっていて、是非、日本でも紹介したいと思い、短編集を訳すことを提案しました。
林:ただ、6つの短編だけですとページ数が少ないので、児童文学作家のひこ・田中さんの「解説」と、長めの「訳者あとがき」、「オズ・シリーズのおもな仲間たち」などのページを加えて、1冊を完成させました。
───「訳者あとがき」ページには、作者・ボームの生い立ちや、各巻の冒頭に載っている「〜〜に捧げます」という献辞が誰に当てて書かれたかなど、今まで知らなかったことがたくさん載っていて、すごく読みごたえがありました。
「オズ・シリーズ」の生みの親ライマン・フランク・ボーム・1856年5月15日ニューヨーク州に生まれる。
・俳優、脚本家、セールスマンなどの様々な職業を経て、44歳の時に『オズの魔法使い』を発表。その後、20年に渡りオズ・シリーズを執筆する。
・オズ・シリーズ以外にも数多くの作品を生み出す。「スカイラー・ストーントン」や「イーディス・ヴァン・ダイン」と名前を変えて、一般向けの恋愛小説やYA小説も発表する。
・オズ・シリーズで強い女性が活躍するのは、婦人参政権運動などで活躍していた義理の母から受けた影響だといわれている。
・養鶏を営んでいたことがあり、めんどりのビリーナはその時の経験が生かされたキャラクター。
宮坂:ボーム自身について書かれている文章や伝記が今まで日本ではほとんど出ていないので、資料的な意味合いも含めて、内容の濃いあとがきになったと思います。