●なぜ、10歳前後の子どもたちがモデル?
───本作りは、どのような流れで、進められたんですか?
小宮山:まずカメラマンさんが何度か撮影に行きます。出発前に、撮ってほしいポイントのリストをA4用紙2枚分くらいにまとめてお願いしました。その子の好きなものやおもちゃ、持ち物やかばんの中身なども撮ってほしいと伝えました。あとはカメラマンさんの心に引っかかったところを撮ってきてくださいとお願いしました。
───子どもたちがみんな、好きなおもちゃや持ち物を撮られるとき、いい表情をしているんですよね(笑)。取材では、だいたい何枚くらい撮影されるんですか。

秋重:長くその国に通っている写真家さんもいらっしゃいますから、一口には言えないんですが・・・、だいたい見せていただくのは3000枚前後くらいでしょうか。取材後、撮った写真を見ながら話を聞くときがいちばん楽しい時間です(笑)。この写真は何をしているところですか、何を食べているんですか、とかね(笑)。
小宮山:おもしろかったエピソードや、カメラマンさんの話から伝わってくる熱量を計りながら、写真を選んでいきます。

フランスのプリュンヌ。10歳の誕生日パーティーの一コマ。
――3000枚前後の写真から、何点くらい1冊の本に入れるんですか。
秋重:1冊に120点くらいですかね。文章は、決まった文字数の倍近く書いてもらうことが多かったです。必要なところに編集しながら入れていきました。
――みんな自然体で可愛い子たちばかりですが、主人公の子をどうやって選んだんですか。10歳前後の子が多いのはなぜですか。
秋重:10歳前後の子を主人公にしているのは、日本の10歳前後の子どもたちに読んでほしかったからです。同じ年齢の外国の子が、どんなふうに遊んだり勉強したりしているのか、気になるかなあと思って。

6歳のアシフの宝物は、青い子ども用の自転車。カメラマンさんに子ども探しからお願いしているので、どんな子を選ぶかはさまざまです。「10年前に赤ちゃんだったふたごを探して、撮りました」「4歳のときから撮っている子にします」「学校へ行って子どもを推薦してもらったら、いい子がいました!」「友人をたどって見つけました」など。
現在「世界のともだちブログ」というのを更新していますが、そこにカメラマンさんの
取材日記があって、子ども探しのことも書いてありますので、ぜひ読んでみてくださいね。

「アティエノの仕事」のページ。12歳のアティエノは、もう家事の立派な戦力。小宮山:10歳前後というと、国によってはもう家庭の担い手の一人として働いていて、子どもぎりぎりということもよくあるんですよね。たとえばケニアのアティエノは、いつも走りまわって家の仕事をしていて、カメラマンさんが声をかけても、「今いそがしいから、あとで」と言うそうです。彼女も数年後には大人グループに仲間入りしているかもしれません。
10歳前後は、自分の好きなもの、得意なことやるべきことなど、「自分の世界」ができつつある年齢でもありますよね。でも同時に、まだ自分のことをうまく語れない年頃でもある。そんな同世代の子を写真で紹介することで、日本の子たちへの励ましや刺激になればいいなあ・・・と。
秋重:小学校ひとつとっても、世界にはいろんな学校があるんだよ、日本の小学校みたいなところだけじゃないんだよ、など、このシリーズからいろんなことが伝わったらいいですよね。

12歳のコリンが通うアメリカの学校は、質問がある子、席に座っていられない子なども、全員が楽しく参加できるように、授業中の座席のレイアウトが工夫されています。入口のネックレスをかけたら、先生に言わずにトイレに行ってもいいんですって。おもしろいですよね。

フィンランドの冬は、明るい時間が昼間の数時間しかありません。8歳のカオリは、暗い道を、スキーウェアのような防寒着を着て登校します。通学風景もいろいろですね。

お祈りからはじまる学校もあります。7歳のアヌスカが住むネパールは、ヒンドゥー教の国。仏教に少し近い感じがします。
●創業80周年企画。実は、50周年のときに刊行された旧版があった!
───偕成社の創業80周年企画とうかがっていますが・・・お2人が担当になったのは立候補ですか?
小宮山:はい。もともと旅行が好きで、旧シリーズ「世界の子どもたち」も好きだったので「ぜひやりたいです!」と。
───旧シリーズ「世界の子どもたち」とは?

奥が旧版「世界の子どもたち」、手前があたらしい「世界のともだち」秋重:「世界のともだち」には、旧版シリーズがありまして。ちょうど偕成社創業50周年、いまから30年前にやはり今回と同じ島本脩二さんが関わってくださって、日本を含む36か国の子どもたちを撮り下ろした写真絵本シリーズを出版したんです。好評で、当時、図書館にもずいぶん入れていただいたそうです。
───30年経った今、シリーズ「世界のともだち」をあらたに刊行しよう、というのは、なぜでしょうか。
小宮山:この30年の間に世界はずいぶんかわりました。インターネットの普及や、交通の発達で、子どもたちにとって「外国」はぐっと身近になりました。一方、この間に戦争や内戦があった国や、中国やインドのように急速に発達した国もあります。旧版の情報は古くなり、80周年を機にあたらしく作りかえようということになりました。
これからどんな時代になるかわからないけれど、日本の子どもたちには、外国のことをまず「将来ともだちになるかもしれない、だれかがいる国」と思ってほしいんです。
───「将来、ともだちになるかもしれない、だれかの毎日。」だから「世界のともだち」なんですね。

お2人に担当した本を、持っていただきました!
ブラジル、フィンランド、モンゴル、ネパール、バングラデシュ、カンボジアを担当した秋重さん(左)と、ルーマニア、韓国、アメリカ、ケニア、フランス、ベトナムを担当した小宮山さん(右)。秋重:「世界のともだち」は島本さんから出てきた言葉でした。旧版シリーズは、外国の子どもたちの暮らしを教えてあげましょうと、教科書っぽく、まじめに作りすぎちゃったなと島本さん自身がおっしゃっていて。
「世界のともだち」は、とにかく楽しい本にしよう、外国との間の垣根をできるだけ低くしよう。イラストも入れて、わくわくするようなデザインの本にしよう!と。
いつか会うかもしれない、新しいともだちを、この中から見つけてほしいです!
●この子の、ここがすてき!
───第1期として刊行された12か国12人、それぞれ「この子の、ここがすてき!」と思うところを教えてください!

@ ルーマニアのアナ・マリア(12歳)
学級委員もやっている(あまりやりたくない、とぼやくけれど)いい子のアナ・マリアが、民俗衣装を身にまとうと、りんとした表情になるのがすてきです。きっと、将来のこともいろいろ考える年齢なんだろうな、と。アナ・マリアの家は、パンもパスタもなんでも手作りする家。中庭で食事をしたり踊ったり、気持ちよさそうな暮らしをしています。いつか行ってみたい、あこがれの家です。(小宮山)

A 韓国のピョンジュン(11歳)
下町に住むピョンジュン。放課後の帰り道は、たいてい仲良し5人組で一緒に、リラックスした表情で歩く姿がすてきです。韓国の小学生は習い事が多くて、けっこう忙しいみたいです。ピョンジュンは、あまりしゃべらない男の子ですが、友達と遊ぶときはうれしそう。韓国は買い食い文化があって、学校帰りに商店街でトッポギを食べるのもOKなんですよ。(小宮山)

B ブラジルのミゲル(11歳)
まわりの人を楽しませよう、という気分の強い子です。本の中でも、気づくと変顔をしていたり、Tシャツの中にボールを入れて変なポーズをしていたり・・・。いつも何かおもしろいことを見つけようとしています。こんな子がクラスにいたら楽しい毎日だろうなあと思います。お姉ちゃんともとっても仲良し。まるで恋人同士みたいです!(秋重)

C フィンランドのカオリ(8歳)
フィンランドのカオリは、おじいちゃんが日本人で、3人兄弟のいちばん上(弟の名前は「タロ」と「ジロ」!)。お姉ちゃんモードで大人っぽい表情のときもあれば、弟たちと一緒に大はしゃぎするときもあります。フィンランドは冬が長くてつらいぶん、夏はみんなアクティブ。カメラマンさんいわく、夏と冬では、性格までちがうような気がするそうです。夏のカオリは北欧の森の妖精みたいに魅力的です。(秋重)

夏のカオリは、元気いっぱい!

D モンゴルのバタナー(12歳)
バタナーは、気がやさしくて、力持ち! 伝統的な大草原の暮らしと、都会ウランバートルでの現代的な暮らし、両方になじんでいるのがすごい。立派な体格にまるいほっぺで、素朴な表情がかわいいのに、ときどき大人びた顔をしてドキッとします。競馬場で馬を見るときは、まるで一人前の男の人のように真剣。遊牧民にとっては、いい馬を育てることが何よりの誇りなんですよね。(秋重)

E アメリカのコリン(12歳)
太陽いっぱいの西海岸、カリフォルニアに住むコリン。コリンはお母さんとしょっちゅう一緒にいます。体は大きいけれど、堂々とくっついて甘えて、お母さんが大好きであることを隠そうとしません。アメリカの小学生ってもっと大人びているかと思ったら、みんな遊ぶのが好きでよく笑い、学校の授業もいつも盛り上がっていて、気持ちいいクラスだったそうです。人懐こくて、自然なやさしさがにじみ出ているコリンがすてきです!(小宮山)

F ネパールのアヌスカ(7歳)
花をちぎったり走り回ったり、無邪気に遊ぶのに、ときどきはっとする美しい表情を見せるアヌスカ。写真家・公文健太郎さんには『ゴマの洋品店』(偕成社)という著書がありますが、本の中で洋品店に嫁いだ少女ゴマが産んだ子がアヌスカなんです。7歳のアヌスカは店番もできて、お客さんを見て値段を決められるしっかり者(笑)。お父さんが仕入れた服の値段に、高く買ってくれそうな人には200ルピー、そうでない人には100ルピー足して売るんですよ!(秋重)

G ケニアのアティエノ(12歳)
洋服の布をどれにしようか、すごく真剣に悩んでいる顔がかわいいです。アティエノにとって、新しい服を作ってもらうことは、三年にいっぺんあるかないかのできごと。そんな彼女の気持ちが垣間見える写真です。悩んで悩んで、好きな布を選んだアティエノ。仕立ててもらったワンピースを着てはじける笑顔がまたすてきです!(小宮山)

どれにしようかな・・・。洋服の生地選びに悩むアティエノ。花柄、カシューナッツ柄、トウモロコシ柄・・・どれもかわいい!

H バングラデシュのアシフ(6歳)
長屋みたいなところに、人がぎゅうぎゅうで暮らしています。いつも家にいる女性がお母さんかと思ったら、近所のおばさんでした(笑)。つねに誰かの体温が感じられる家のまわりで、お気に入りの青い自転車を自慢げに乗り回しているアシフののんびりした表情がすてきです。(秋重)

I フランスのプリュンヌ(10歳)
撮影中に10歳の誕生日会をひらいたプリュンヌ。プレゼントの包み紙を開くときや、親友のマノンから手紙を読んでもらうときの表情がすてきです。小さい頃からモデルのキャリアがあるプリュンヌですが、10歳の誕生パーティーはやっぱり特別。アクセサリーやお人形、スカーフ、ネイルカラーをもらって・・・。パーティーには男の子たちも招かれ、ダンス対決をしたりカラオケをしたり楽しそうです。(小宮山)

J ベトナムのソンとチュン(11歳)
ふたごのソンとチュンはとっても仲良し。友達がずーっとそばにいるってこんな感じなんだろうなと思います。カードゲームでチュンをだましたソンが大笑いしています。性格はぜんぜんちがって、チュンはじっくり遊ぶマイペースタイプで将来は医者になりたい、ソンはいつもニコニコ、尊敬しているおじさんと同じ、軍人になりたいんだそう。学校のあとは夕ごはんの時間まで、たっぷり遊ぶ午後の時間が流れています。(小宮山)

K カンボジアのスレイダー(13歳)
スレイダーは、家族でごはんを食べているときが、本当に幸せそうなんです。あれっ、久しぶりに家族そろったのかなって思うくらい。親子5人すごーく仲良し。家族で助け合って生きているのが伝わります。愛し愛されているんだなと思える雰囲気が、すてきですよね。(秋重)
───ありがとうございました! これから刊行される24か国の「ともだち」にも、会うのが楽しみです!

世界地図の「世界のともだちマップ」をもって、記念にパチリ。