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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2014.08.21

遊んで 学べる! 「迷路」シリーズ
香川元太郎さんインタビュー

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迷路のような町で育った

───ご自身が迷路を描くようになったきっかけは何だと思われますか。

きっかけはいくつかあると思うんですけど、一つには、迷路のような町に住んでいたことが大きいと思います。僕は愛媛県の松山市で生まれ育ちました。松山は戦災にあいましたが、僕が住んでいたのは、たまたま戦災で焼けなかった、昔のままの下町地域でした。車が入れない小さい道が無数にあって、一見、家と家の間のわずかな隙間だけど、入っていくと奥で路地に抜けられる、なんてことがよくあるんですね。近所の子たちはみんなそれを知っていて、迷わず隙間に入って行ってしまう。学校から帰るときは、今日はここからあそこを抜けて帰ってやろう、と帰り道を考えるのが楽しみでした。「通り道」が「遊び」になるというのかな。 

当時は今よりずっと開放的な時代で、他人の家の庭先だって、子どもだったら通ってもいいみたいな暗黙の了解がありましたからね(笑)。家と家のあいだの畑も、自然に道のように通って行けたりしましたよ。

───途中で畑を耕す人に会ったり、犬がいたりしましたか?(笑)

そうそう(笑)。

───まるで迷路絵本の立体バージョンそのものですね!

もう一つ、積み木で迷路を作るのが子どもの頃から好きだった、ということがあります。かまぼこ板を3つに切ると平べったい正方形になるんですが、うちの親父がかまぼこ食べるたびに板を洗って、まとめてノコギリで切っておいてくれた。そういう小さいチップの積み木をたくさん作ってくれていたんですね。かまぼこを食べるたびにどんどん増えていくから、次第に大きな立体迷路を作るようになっていきました。ふつうの子なら小学校低学年で積み木遊びは卒業するでしょうけど、僕は6年生になっても積み木遊びしていました(笑)。

 何を作っているかというと、建物を作っている。だけど何の建物と言うわけでもなく迷路を作っている、不思議な子どもだったんですよ(笑)。階段にしたり、橋をわたして下をくぐれるようにしたり、ビー玉がころがるようなしかけを作ったりもしていましたね。

───Eテレのテレビ番組『ピタゴラスイッチ』みたい(笑)。

まさにそんな感覚ですよね。それで、中学生くらいになったら、積み木からお城にいっちゃったんだ(笑)。

───お城好きになったきっかけは?

姫路城などのお城の内部が、敵を惑わすために迷路のような造りになっていると知ったことです。隠された通路があったりするでしょう。おもしろいな〜と。

───天守閣がかっこいいとか、城の外観ではなく、やはり内部構造に興味があったと(笑)。一貫していますね。

はい(笑)。中学・高校はお城が趣味だった。いろんなお城を見に行ったり、調べたりしました。その頃は迷路から離れていましたね。高校生になったときお城好きから歴史好きに興味が広がりました。日本史の本などを読むうちに日本画という日本独特の絵画技法があると知り、日本画家をめざそうと、東京の美大に進学しました。大学時代は日本画家一筋、抽象画なども描いていました。


壁にかかっていた香川さんの絵。迷路絵本を描く筆は、日本画を描くときと同じ筆。右はコリンスキー、イタチの一種の毛でできた筆。中央の白いものはヤギの毛。細部を描くため細い筆をよくつかいます。

───小さい頃から絵一筋でイラストレーターになったわけではなく、積み木をして、迷路を作って、お城を見に行って、日本画へいかれたんですね。そしてお城を描いて、迷路絵本へと(笑)。見事にすべてつながっていますね。

ぐるぐるめぐっているというかね(笑)。

───迷路絵本で建物の絵が出てくると、さすが香川元太郎さん!と圧倒されます。一方で『伝説の迷路』や『物語の迷路』というフィクションの世界を描くテーマも驚きでした。これはどんなふうに生まれたアイディアですか?

『伝説の迷路』は僕が作りたくて作った本です。昔から神話が好きで、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を描きたかった。一押しは「ラーマーヤナ(インドの伝説)」です。ラーマーヤナはインドや東南アジアでは絶大に知られている話。1500年くらいの間、口伝えで伝えられてきました。僕がラーマーヤナを読んだのは大学生頃でしたが、すごくおもしろかった。子どもたちが小さいときに話してきかせると、娘も息子もおもしろがっていて好きでした。出版社から「もっと誰でも知っている伝説にしてください」と言われたのですが、他は削ってもこれだけは残して!と編集者に交渉して、残してもらいました(笑)。10の頭と20本の腕をもつ魔王ラーバナを、ぜひ描きたかったんです。


香川さん一押し、「ラーマーヤナ(インドの伝説)」のページ。魔王ラーバナ!


「七夕(中国の伝説)」のページには・・・ノーヒントで「七夕」の文字がかくれているのを発見!

───『伝説の迷路』『物語の迷路』と、『昆虫の迷路』『動物の迷路』は、対照的ですよね。一方は言い伝えやフィクションとしてのおもしろさを表現し、もう一方は生き物の生態をきちんと描く。間違ってはいけない大変さがあるのは、「昆虫」や「動物」のほうでしょうか。

そうですね、たしかに大変だけど「生き物のおもしろさ」は絶対ありますよね。現実の生態のおもしろさ、それを伝えるのは一つのエンターテイメントだと思うんですよ。僕が昆虫の形を正確に描いて伝える。そのことによって、純粋に、知識を得られることは、子どもにとって楽しいことだと信じています。大人からすれば「勉強になる」「学びの要素がある」と感じるかもしれないけど、僕としては正確に描くことは「子どもが楽しめる要素の一つだ」と思って描いています。


『昆虫の迷路』では、昆虫の形がこまかく描き込まれています。虫の名前の文字もかくれています!

───ワークショップや講演会で出会う子どもたちからは、「知ることが楽しい」という熱を感じられますか。

ええ、子どもたちの反応や、夢中な顔に出会うときに、この仕事をやっていてよかった、と一番思います。

───みなさんが待ちわびている新作『動物の迷路』があと少しでできあがりますが、どんなふうに楽しんでほしいですか。メッセージをおねがいします。

『動物の迷路』・・・その中身は「なぞの動物園」が舞台です。動物たちの生態をリアルにあらわしながら、現実にはありえない、ふしぎな動物園をお見せします。ぜひ楽しんでくださいね。
あと、どのページにも小さなスペードの形がかくれていますから、探してみてください。


記念にパチリ。

───すごくリアルなのに、すごくファンタジー! そんな「なぞの動物園」がとっても楽しみです。 スペード、がんばって探しちゃいそうです(笑)。きょうはありがとうございました!

7月27日に福島市の「こむこむ」で行われました!





『乗り物の迷路』のクイズに、子どもたちが手をあげて答えています。先生扮する車掌さんにあててもらうと、スクリーン前に出て画面を指し示し、答えます。観客の親子からは大きな拍手!!





客席の大人も子どももみんなで迷路絵本をひらいて・・・。

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「クマの山」のページ。香川さんの指示で・・・








今年4月からは娘のしおりさんがアシスタントとして働いています。シロクマの近くの木は針葉樹にするなど、葉っぱや樹形を細かく描いていくのはしおりさんです!









「クマの山」を一部アップにするとこんな感じ。キツネ、スカンク、イタチなどもいます。







夏場は手袋をします。細い線はほとんどシャープペンシル。彩色してから最後にまたペンシルで線を加え、仕上げます。











細い筆で慎重に色を加えていきます。使用するのはアクリル絵の具。1冊分の原画を仕上げるのに半年以上かかることもあります。





絵本制作には使わないけれど、引き出しには日本画の顔料もぎっしり。「日本画の画材は貝を粉にしたものや、石を砕いたものなど、原料がおもしろい。ただ、膠(ニカワ)で溶かなきゃいけないなどの手間がかかります。そこが魅力と言えば魅力ですけどね」と香川さん。

☆毎日の制作風景がわかる、香川元太郎さんのHPはこちら! >>>
☆PHP研究所の「迷路絵本」のページはこちら。最新刊の情報をチェック! >>>

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インタビュー:磯崎園子(絵本ナビ編集長)
文・構成:大和田佳世(絵本ナビライター)

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香川 元太郎(かがわげんたろう)

  • 1959年、愛媛県生まれ。歴史考証イラストの専門家。
    歴史雑誌や教科書などに多数の歴史考証イラストを描く。著書に「透視&断面イラスト日本の城」(世界文化社)など。切手や絵入り官製はがきでも多くの原画が採用されている。
    かくし絵・迷路制作でも定評があり、著書の迷路絵本(『時の迷路』ほか5冊・PHP研究所)は、シリーズ100万部超のベストセラー。他の作品に『かずの冒険 野山編』(小学館)がある。

作品紹介

時の迷路 恐竜時代から江戸時代まで
時の迷路 恐竜時代から江戸時代までの試し読みができます!
作・絵:香川 元太郎
出版社:PHP研究所
自然遺産の迷路 屋久島発 世界一周旅行へ
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作・絵:香川 元太郎
出版社:PHP研究所
進化の迷路 原始の海から人類誕生まで
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作・絵:香川 元太郎
監修:冨田 幸光
出版社:PHP研究所
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作・絵:香川 元太郎
監修:小野 展嗣
出版社:PHP研究所
宇宙の迷路 太陽系をめぐって銀河のかなたへ!
宇宙の迷路 太陽系をめぐって銀河のかなたへ!の試し読みができます!
作・絵:香川 元太郎
監修:縣 秀彦
出版社:PHP研究所
乗り物の迷路 車、電車から船、飛行機まで
乗り物の迷路 車、電車から船、飛行機までの試し読みができます!
作・絵:香川 元太郎
監修:小賀野 実
出版社:PHP研究所
「迷路絵本」を100倍楽しむ本
作・絵:香川 元太郎
出版社:PHP研究所
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