絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  ジュニアポエムシリーズ『まぜごはん』内田麟太郎さんインタビュー

子どもって、つらいときがあるんだよね

───内田さんは、以前は『ともだちや』みたいな作品を書く自分を受け入れられなかった。けれどだんだん受け入れられるようになったのですね。

自分の心から出たものを、作品として認められるようになった・・・そういう心の動きの、きっかけになったことのひとつに、継母との和解があったかもしれませんね。わたしは育てのおかあさんとうまくいかなくてね、ずっとがちゃがちゃやってたわけです。でも55歳になった頃だったか、福岡での講演のついでに家に寄ったときに、母が「麟ちゃん、愛さなくてごめんね」と謝ったんですね。わたしは「もう、いいよ」と答えました。
それと同時に、半世紀にわたってしっかりふたをしていた、自分の心のやわらかいところが、あふれ出てきました。ふたができなくなったんですね。それまでひとに見せてこなかった部分が、あとからあとから、出てくる。
つまり今までは、あほバカ、泣くよりも笑え、と笑い飛ばしてやってきたわけです。でも「愛さなくてごめんね」の一言を超えて、そうなった結果の作品も・・・書くしかないわけですよね。で、書いたら、やわらかいことが出やすくなった。出しやすくなったというか・・・。

───内田さんの自伝『絵本があってよかったな』(架空社)を読むと、胸が痛くなるところがあります。
50代後半までご自身のやわらかい部分を出してこなかった事実を、後から知るので、すごく驚きました。

やっぱり(ふたをしていると、自分の心のやわらかい部分は)出せない・・・。出ないんだねえ。
昔は、ちょっとでもふたの入口を緩めると、子ども時代の苦しさや憎しみが噴き出す、みたいなことがあるから、こう閉じている(からだを縮めて固くなるようなしぐさ)。それが出てくるようになって、しばらくは大変でしたね。
しばらくして『おかあさんになるってどんなこと』(PHP研究所)、『かあさんのこころ』(佼成出版社)を書きました。

───虐待を受けて育って、わが子をどんなふうに抱きしめたらいいかわからない方との対話から生まれた『まねっこでいいから』(瑞雲舎)という絵本も出版されていますね。

話は変わるけど、いまね、大牟田に絵本美術館をつくろうという話がありまして、「内田麟太郎絵本美術館」でなく「ともだちや絵本美術館」にしてくださいとお願いしているんです。またべつな話で、詩碑を建てようという話もあって、それはどうにかしてやめてくれと地元の友人に頼んでいるんですが、わたしが死んでしまったらあらがえないだろうなあと覚悟をしていましてね。そしたら、詩碑にするのは「なみ」がいい、と指定してしまおうと思っているんです。

───さっきの「へへへへへ・・・」ですね。

子どもって、けっこうつらい日があるんだよね。つらいときに、ふっと「なみ」のような詩碑が建っていて、そこで休めるといいなと思いますよね。

理屈ぬきのいのちの喜びを

───『まぜごはん』は、序詞「ぽぽ」につづいて、「おひさま」という詩からはじまります。

書くことによって、子ども時代のさみしさや憎しみから、解かれていく自分もいます。わたしは黒井健さんと『だれかがぼくを――ころさないで』(PHP研究所)という絵本をつくっていますけど、傷ついた心をかかえきれない子どもが、どうして人を殺さず、自殺もしなかったか。それは6歳まで育ててくれた実の母がえらかったんだろうと思うのね。ただのひとですよ。ただのひとだけど、ただ子どもを愛して育てたという一点において、知らずにわたしのなかに伝わっていたものがあるんじゃないかなと。
どこかで今江祥智さんが書いていたと思うんだけど、大人の本は、この人生は生きるに値しないってことを書いてもいいんですよ。仏教みたいに「この世は苦だ」と言っても。でも子どもの本はぜったいに、この世は生きるに値する、という立場でなくちゃいけない。はだしで土の上を走り回るような、理屈抜きのいのちの喜び、子どもの生きる喜びをどんなふうにすくいとるかを考えなくちゃいけない。

───「こんにちは あした」という詩もありますが、これを声に出して読んだら、涙が出そうになりました。


ああ、これは津波(東日本大震災)のあとに書いたんじゃないかなあ・・・。


───そうだったんですか・・・。

まどみちおさんのこんな詩がありますね。「ぼくが ここに いるとき/ほかの どんなものも/ぼくに かさなって/ここに いることは できない」(詩「ぼくが ここに」より一部抜粋)
別な詩で「生きものが 立っているとき/その頭は きっと/宇宙のはてを ゆびさしています」「けれども そのときにも/足だけは/みんな 地球の おなじ中心を/ゆびさしています」(詩「頭と足」より一部抜粋)
ああそうか、わたしたちはほかの誰も存在できない場所に「いる」のだ、と目をひらかせてくれるんです。なにげない、とてもやさしい言葉で。すべての生きものが“地球の中心”という一点にむかって立つ発想を言葉にしてくれる。まどみちおさんはすごいなあ、と。
わたしは阪田寛夫さんの詩も好きです。なんとも言えない、はにかみが作品のなかに込められていてね。
まどさんと阪田さん、お二人の言葉のやわらかさが、わたしのめざすところだなあと思っているんです。

───少年詩集は『まぜごはん』で5冊目ですが・・・。

自分で何冊出してるか、数えたことないのよ。絵本も童話も詩も、ただ書いているだけで。
前に絵本作家があつまってわいわいしゃべっているときに、あれはいい絵本だと話をしているのが聞こえて、それはどなたの絵本ですか、わたしも読んでみたいと言ったら、なにいってんの内田さんの本じゃないの、と言われたことがあります。ちょっと前に書いたのですっかり忘れていたんですよね。
一年前に心臓の手術をして、まだ死んでたまるかというのもありますしね。104歳まで詩を書き続けてお亡くなりになったまどみちおさんの世界にいきたいですね。

───ナンセンスユーモアの言葉は内田麟太郎さんだからこそと思いますが、なぜナンセンスがお好きなんですか。

なぜナンセンスが好きになったかわからないけれど、なんとなく好きになった。うちのおやじは左翼のプロレタリア詩人だったんですね。要するに貧乏な人間がいなくなればいいという発想で、三井三池炭鉱という歴史的な大争議があった場所で生きて。思想詩の笑いは、風刺が多いですね。風刺は、知的優位性のある笑いというんでしょうか。理解するひととしないひとの差ができてしまうんですね。
たとえばナンセンスユーモアの笑いは、誰かをおとしめる笑いじゃない。かしこい笑いじゃない。すべてのひとに届く笑いだと思うんです。
まどさん、阪田さんの詩に思想がないというんじゃありませんよ。思想が、春風のように秋風のようになるところまでいかないと、子どもの詩は書けないと思うんです。そこまでどうやって自分を解いていくか、でしょうね。
アルカイックスマイルというのがあるでしょ。古代仏像が口元にうかべるほほえみですね。わたしは仏教徒じゃないけれど、見ていると自然にふっと頬がゆるんでしまうんです。なぜこんなに惹かれるんだろうと不思議に思いながら、会いたくて、またあのほほえみに会いにいく。そんな詩を書きたいなあと思いますね。

───絵本作家・内田麟太郎さんの一ファンとしては、絵本はもちろんこれからも楽しみなんですけど、詩は内田さんの心に直接ふれられた気がして、うれしくなりました。
詩を読んだわたしたちは、好きなように感じていいんですよね。

あとはみなさんにゆだねているんですよ。
『まぜごはん』にはいろんな詩が入っているはずですから、いろいろ味わってみてくださいね。

───ありがとうございました!



<編集後記> 
約2時間半のロングインタビューでした。言葉を書くことについて、内田麟太郎さんらしく、手を変え品を変え、さまざまな表現で語ってくださいました。
取材チーム一同大笑いしたのが「内田麟太郎浮気創作法」のお話。日々、体調の良し悪しがあるなかで、言葉を書き続けるための知恵と工夫が「浮気」なのだそうです。内田さんによると・・・「おれたちともだち」シリーズは本妻。『がたごとがたごと』は恋人。『はくちょう』は愛人。詩は?とおたずねすると、子ども? いや、恋人に近いかな?とつぶやいていらっしゃいましたが、最後に導き出した答えは “初恋の人”でありました。
仕事場の扉を開けた瞬間、きょうの体調がわかるという内田さん。さてきょうは、本妻とじっくり取り組んでいらっしゃるのか、恋人と遊んでいるのか、それとも初恋の人を思ってぼんやりしているのか・・・。そんなことを想像するのも楽しみになっちゃいそうです。
内田麟太郎さんの心から生まれたピュアな言葉の響きを、まるごと味わえるという意味で、少年詩集は、もしかしたらいちばん贅沢なものかもしれませんね!

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インタビュー:磯崎園子(絵本ナビ編集長)
文・構成:大和田佳世(絵本ナビライター)

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内田 麟太郎(うちだりんたろう)

  • 1941年福岡県大牟田市生まれ。個性的な文体で独自の世界を展開。「さかさまライオン」(童心社刊)で絵本にっぽん大賞、「うそつきのつき」(文渓堂刊)で小学館児童出版文化賞、「がたごとがたごと」(童心社刊)で日本絵本賞を受賞。絵本の他にも、読み物、詩集など作品多数。
    他の主な作品に「おれたちともだち」シリーズ(偕成社刊)、「かあさんのこころ」(佼成出版社)、「とってもいいこと」(クレヨンハウス)、「ぽんぽん」(鈴木出版)などがある。

作品紹介

まぜごはん
まぜごはんの試し読みができます!
詩集:内田 麟太郎
画家:長野 ヒデ子
出版社:銀の鈴社
うみがわらっている
著者:内田 麟太郎
画家:斎藤 隆夫
出版社:銀の鈴社
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