
───『動物の見ている世界』を読んで、動物の「見る」ということについてここまで踏み込んだ作品を見たことがなかったので、すごく新鮮で面白いと思いました。
内貴:ありがとうございます。この絵本は、動物の視界を、しかけを使って紹介している、しかけ絵本なんですが、空想ではなく、最新科学に基づく根拠のある内容を掲載しているので、科学絵本としても楽しんでもらえると思います。
───たしかに、一度では読み切れないほど、それぞれの動物の視覚についての情報が載っていますよね。イヌやネコは身近にいますが、普段、こんなに真正面を向いたアップの表情を見ることがないので、新鮮で…。ジッと見つめ合ってしまいました(笑)。タイトルの上に「仕掛絵本図鑑」とあるのがとても珍しく、興味深く感じたのですが、どういう意味があるのでしょうか?
内貴:この絵本は1冊の中にいろいろな要素が込められています。しかけをめくることで動物の視覚を見せる「仕掛絵本」的要素。視野や視力、色の再現を最新科学に則って紹介する「科学絵本」的要素。哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、そして昆虫など、生き物を分類して紹介する「図鑑」的要素。それらすべてを表現するジャンルとして、「仕掛絵本図鑑」という言葉を作りました。
───では、この「仕掛絵本図鑑」というジャンルは、この絵本が世界初なんですね。
山口:そうなんです! なので、多くの人にこの絵本の面白さを知ってもらいたいと思っています。
───私の実家で、以前チロというイヌを飼っていたのですが、イヌはあまり目が良くないということをこの絵本で初めて知りました。「チロは私の顔が良く見えていなかったんだ…」と悲しくなって…(笑)。でも、カメレオンの視界とか、コウモリの視界とか、文章で書かれてもピンとこないものが、ビジュアルで紹介されているので、小さいお子さんから楽しめそうですよね。
山口:この絵本を作るにあたり、動物の五感に関する類似書や映像資料などをいろいろ調べました。本に関しては、動物の視覚にのみフォーカスして書かれているものはほとんどなかったですし、映像資料も、動物と同じ目線に立って撮影された映像はあるのですが、どう見えているかまで追求して撮影されたものはありませんでした。
───その部分をあえて絵本として描いたのが、この『動物の見ている世界』なんですね。お二人が編集を担当して、一番面白いと思った動物はどれですか?

ワシのこの恐ろしい目つきの理由も明らかに!
内貴:そうですね…。夜と昼で見える世界の変わるネコも捨てがたいですが、ワシは特にインパクトがあると思います。1q先のウサギが見えているとか、紫外線も感知できるとか…、初めて翻訳を読んだ時、驚きました。
───競馬や馬車で見かける馬はみんな、目にブリンカーをつけていますが、あれは、馬の広い視野を制限するためにつけていたんですね。

インパクトある、帯のキャッチコピー!
山口:ぼくは、ネコがひどい近眼で、人間の5分の1程度しか見えないことに驚きましたね。あまりにキャッチ−だったので、帯のテキストに使用したくらいです(笑)。
───ハエとかチョウのアップもかなりリアルに描かれていますよね。昆虫が苦手な人はちょっとビックリしそうですが…お二人は大丈夫でしたか?
───カエル、しっかり登場していますよ! 大丈夫でしたか?

このつぶらな瞳で見つめられると…。
───どの動物も細かい部分まで描きこまれていてかなりリアルですよね。作者のギヨーム・デュプラさんは、『地球のかたちを哲学する』(原題「Le Livre des Terres imagine’es」)でボローニャ国際絵本児童図書賞(ノンフィクション部門)や、フランス青少年図書賞を受賞された、かなり有名な絵本作家さんですが、前作の宇宙から一転、視覚という身近な題材をテーマに作品を作られているのがユニークですよね。
内貴:普通に最新科学として視覚を取り上げるとしたら、文章のみの説明で終わってしまいそうですが、こんなに鮮やかなビジュアルで魅せることを思いついたことが斬新で、デュプラさんの才能だと感じました。
───動物たちの目線を見ると、みんな同じ場所から同じ方向を見ているんですよね。なのに、見えている景色は、全然違う。そこに気づくと、この動物は目の前の花はよく見えているけど、気球は全く見えていない…とか、この動物は人間よりも鮮やかな色彩で、頭の後ろの部分にある動物園の看板までしっかり見えている…とか、色々比較できるのも面白いですよね。
内貴:最初の観音開きになっているページを開いたまま、本文のページをめくっていくと、人間の視界と他の動物の視界を比べやすくなっています。そういう工夫もデュプラさんのこだわりだと思います。
最初の観音開きのページには、人間の目に映った景色が載っていて・・・
本文ページのしかけを開くと、動物の見ている風景との比較ができるようになっています!
───しかけをめくった先にある解説もすごく面白い表現がたくさんありますよね。ワシの鋭い眼光が、目を保護しているとか、ウシはストレスを感じると正面が見えにくくなるから、近づくときはおびえさせないように大きな身振りは避けた方が良いなど…。読むほどに新しいエピソードを発見する感じがしました。
山口:このしかけの裏側に情報を乗せているのもデュプラさんのアイディアだと思うのですが、絵本とは思えないくらい多くの情報がこの絵本には載っています。1度だけでなく、2度、3度と読んでいただけるのも魅力の一つだと思っています。
───日本語版の表紙は、原本と大きく変わっているんですね。あえて表紙を変えた理由はどうしてですか?
山口:フランス語版の表紙は視覚を強調するように目の部分のみ載っていて、とてもアーティスティックに感じられる反面、じーっと見つめられている様で、日本の読者、特に子どもたちには「怖い」という印象を与えてしまうかもしれないと思いました。
フランス語版の表紙が、日本語版の裏表紙に
フランス語版の裏表紙が、日本語版の表紙に!
───裏表紙が表紙になっているなんて、斬新ですね! 『動物の見ている世界』というタイトルもとてもキャッチ−で、印象に残るフレーズだと思いました。
山口:タイトルに関しては社内全体でいろいろ案を出して考えました。最初、原題の「ZOOPTIQUE」に近い「動物メガネ」という案も出たのですが、もっと読者をひきつけるようなタイトルはないか、色々話し合いました。
───「動物メガネ」というタイトルもステキですね! 前見返しの動物の目の部分のアップもすごくインパクトが強いです(笑)。この目の部分でアイマスクを作ったら、すごく人気が出そうって思いました。