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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2014.12.11

『ほしのかえりみち』
きたじまごうきさん インタビュー

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八ヶ岳の山小屋から絵本作家デビュー

───きたじまさんが絵本作家になりたいと思った、きっかけを教えてください。

ぼくは20代の頃ずっと演劇をやっていたんですが、しばらく演劇活動を休んで、北海道の牧場で働いていた時期があったんです。牧場のまわりにはお店も何もなくて、週に1回、遠くの町までバスで食糧の買い出しに行っていたのですが、そこに図書館が1軒あって、そこで本を読んだりしていました。あるとき、ふと手に取った絵本がすごく衝撃的で、「絵本ってお芝居を紙でやっているんだ!」って興味が湧いたんです。

───そのときの絵本のタイトルは覚えていますか?

もちろん。『悲しい本』(作:マイケル・ローゼン 絵:クェンティン・ブレイク 訳:谷川 俊太郎 出版社:あかね書房)と『アンジュール ある犬の物語』(作:ガブリエル・バンサン 出版社:BL出版)です。その後、牧場を辞めて山小屋で働いた時期がありました。

───山小屋…ですか?

そうです。長野県八ヶ岳の山小屋で、山登りにやってくる人たちの寝る場所を用意したり食事を出す仕事をしていました。

───まさに『とっておきのカレー』の舞台の様な場所で働いていたんですね。

『とっておきのカレー』は、ぼくが働いていた八ヶ岳の標高2400mの場所にある実際の山小屋をモデルにしたおはなしなんですよ。

とっておきのカレー
とっておきのカレーの試し読みができます!
作・絵:きたじま ごうき
出版社:絵本塾出版

カレー好きなおじさんがいる一軒の山小屋。そこに泊まりにくる子供たちもカレーが大好き。おじさんはそんな子供たちに、今までカレーを食べに来た珍客の話を始めます。カモシカやふくろう、そしてついには宇宙人まで!! これはおじさんの作り話?それとも…

───山小屋で働いていたときからすでに、絵本作家になりたいという思いはあったんですか?

山小屋には約4年間、大体春から冬前にかけて仕事をしていたのですが、10月くらいになると登山客も減って、少し手が空くことがあったんです。時間があるなら絵でも描こうかな…って、描いてみたら意外と上手く描けて(笑)。それで、僕にも絵で何か表現できるかもしれないと思った時に、北海道で見た絵本を思い出したんですよ。それから2年くらい絵を独学して、あとさき塾(※)のオーディションに応募しました。これが山小屋で働いていた頃の絵です。

※あとさき塾…絵本作家デビューを目指す人のための、絵本作家養成のワークショップ。酒井駒子、島田ゆか、どいかやなど、絵本業界を代表する絵本作家を多く輩出。

───すごい! 今の画風を彷彿とさせるような繊細で、味のあるタッチですね。


あとさき塾に入ってから、しばらくは山小屋から東京まで通っていました。ぼくの絵本の編集をしてくださっている編集者の土井章史さんは、あとさき塾でもお世話になっているのですが、ぼくがあとさき塾に入ることになったとき、他の受講生の方に「山男が来るんだ」って嬉しそうに言っていたみたいです(笑)。

「とっておきのカレー」は「とっておきのキノコ汁」だった?!

───『とっておきのカレー』のおはなしも伺いたいのですが、デビュー作とは思えない迫力と、細かい部分まで描きこまれた絵のタッチは、山小屋で働いた経験があるからこそ描けた世界なんだと、おはなしを聞いてすごく納得しました。

ありがとうございます。絵本を描くなら山小屋を舞台にしたいと思って、あとさき塾で学んでいたときから創り続けていたテーマの作品でした。

───実際の山小屋にも、カモシカやヤマネが出てくることはあったのでしょうか?

カモシカは山道を歩いていると、たまにひょっこり現れることがありました。人間を見ても全然物おじしないでゆったりと構えている姿がとてもステキで、僕の一番好きな動物なんですよ。ヤマネは隣りにあった山小屋に居ついている感じで、ヒマワリの種を食べに、人間のいる小屋の中まで入ってきたりしていました。

───ヤマネは絵本の各ページに登場していますよね。

気づいてもらえて、嬉しいです! ヤマネは夜行性なので、朝、子どもたちが起きているときは寝ていて、夜にいろんな場所に移動します。フクロウが来たときは、食べられないように逃げ出しています(笑)。

───『とっておきのカレー』のストーリーはどのように生まれたんですか?

ぼくが働いていた山小屋に、たまさんというおばちゃんがいたんですが、たまさんのつくるキノコ汁がとっても美味しかったんですよ。そこで、そのおばちゃんを主人公にカモシカや色んな動物がキノコ汁を食べにくる…というストーリーをあとさき塾時代に作ったんです。でも、キノコ汁は子どもたちにあまりなじみがないという理由でボツになり、美味しいカレーの話に変えました。そこからさらにストーリーを膨らませて生まれたのが『とっておきのカレー』です。『とっておきのカレー』のラフも、残しているんですよ。

───『とっておきのカレー』のラフもこんなに沢山あるんですね! かなり最初の段階から、『とっておきのカレー』というタイトルが決まっていたんですね。

おはなしの大筋は、最初のラフの段階である程度固まっていたのですが、登場人物の見せ方や細かいディテールなどを編集者さんとやりとりをしながらより深めていきました。タイトルはもともとは『やまのなかのとっておきのカレー』というタイトルだったんですが、少し長いということで「やまのなかの」を最終的に削ることにしたんです。山がテーマの絵本なので「やまのなかの」は僕には大事なフレーズだったのですが(笑)まあ、今となってはこれで良かったのかなと思ってます。




───フクロウがグルグル回っていたり、ゆきおとこが持ってきた恐竜の骨がティラノサウルスの頭の骨みたいになっていたり、すごく細かいところまで描きこまれていて、ラフからも楽しい雰囲気が伝わってきます。

目指す絵本は、片山健さん+島田ゆかさん+やぎたみこさん???

───先ほど、絵本との出会いは大人になってから読んだ『悲しい本』と『アンジュール ある犬の物語』と伺いましたが、子どもの頃に絵本を読んでもらった思い出はありますか?

あまり覚えていないのですが、家に福音館書店の月刊絵本があったので、きっと母親に読んでもらっていたと思います。絵本作家になってすぐのころ、『ぐりとぐら』(作:中川 季枝子 絵:山脇 百合子)や『やこうれっしゃ』(作・絵:西村 繁男)『ゆうちゃんのみきさーしゃ』(作:村上 祐子 絵:片山 健)を読んだとき、子どもの頃に読んでもらった記憶がバーッとよみがえってきたことがありました。『ほしのかえりみち』を作っているときは、『おしいれのぼうけん』(作:ふるた たるひ たばた せいいち 出版社:童心社)のハイウェイのシーンが頭の中にありましたね。

───絵本作家さんになった今、尊敬する方、目指す絵本作家さんはいますか?

ぼくは、片山健さんがすごく好きで、尊敬しています。片山さんの描く光の感じとか本当に素晴らしくて…。あと島田ゆかさんの、細かいところまで描きこまれた絵にワクワクします。やぎたみこさんのストーリー展開も面白くて大好きです。…なので、やぎたみこさんのようなおはなしで、絵が島田ゆかさんみたいに楽しく描きこまれていて、そこにある光は片山健さんのように味わい深く…そんな超ハイブリッドな絵本を作れたらと(笑)…それが今の僕が目指している絵本なんです。

───きたじまさんの次回作が今から楽しみで、ワクワクしています。最後に絵本ナビの読者の方に、『ほしのかえりみち』のみどころ、メッセージをお願いします。

ぼくにとって子どもの頃、車に揺られて帰るときの時間はけだるいけれど心地よいひとときでした。父が運転して、助手席に母がいて、兄は隣で一緒に眠ったり、窓から外を流れる景色を眺めたり。今思うと会話は少ないけれど、それは確かに家族のコミュニケーションだったと思うんですね。『ほしのかえりみち』は見方によってはとてもSFで、不思議なストーリーですが、根底には家族の日常を描いています。絵本を読んだ子どもと大人が、夜の車の中で夜景を見ながら、物語をいろいろ空想してもらえたら嬉しいです。


記念にパチリ!

───1回1回、宇宙を旅している気持ちになりますよね。星がきれいに見えるこれからの季節にピッタリな絵本だと思います。今日は本当にありがとうございました。

インタビュー:掛川晶子(絵本ナビ編集部)
文・構成:木村春子(絵本ナビライター)

<アトリエにお邪魔しました!>


壁にはイラストがたくさん!次回作の構想もすでにあるのだそう…。
どんな絵本になるのか楽しみですね。


星雲を描いている様子を見せてくれました。 なんて不思議な色の混ざり方!


きたじまさんが持っているのは、おはなし会で使用するオリジナルの楽器。

<原画を見せていただきました!>


原画はさらに鮮やか!ギンガサービスエリア。


サービスエリアの中とトイレの場面は2枚に分かれていました。


漆黒の宇宙に輝く地球の絵は、見返しのページに使われています。色が絵本と違うのが原画ならでは!

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きたじまごうき

  • 1975年、千葉県柏市で生まれる。血液型はA型。
    子供の頃は泣き虫で甘えん坊、そして、いくら遊んでても、ご飯の時間には、ぴったり戻ってくる食いしん坊で、赤いトマトが大好きでした。もちろん絵を描くのも大好きでした。
    5歳〜7歳をアメリカ・オハイオで過ごしました。
    大学卒業後は、しばらく小さな劇団に入り、お芝居やパントマイムをやっていましたが、2005年から長野県八ヶ岳山麓の山荘で働きながら、本格的に絵を描き始めました。
    2011年に「とっておきのカレー」(絵本塾出版)で絵本作家としてデビュー。
    カレーももちろん大好きですが、一番大好きなのは実は「焼きそば」。
    現在は柏市に在住。

作品紹介

ほしのかえりみち
ほしのかえりみちの試し読みができます!
作:きたじま ごうき
出版社:絵本塾出版
とっておきのカレー
とっておきのカレーの試し読みができます!
作・絵:きたじま ごうき
出版社:絵本塾出版
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