───『しばわんこの和の行事えほん』は、「しばわんこの世界」の中では初めて小さいお子さんから楽しめる作品ですよね。この絵本を出すことになったきっかけを教えてください。
───私も、学生時代にしばわんこの魅力にハマった一人ですが、一番下の娘が4才なので、和のこころを伝えるのはまだちょっと早いかな…と思っていたんです。でも、『しばわんこの和の行事えほん』を見たときに、子どもたちと一緒に楽しめる!と嬉しくなりました。
───絵のタッチも今までの「しばわんこの世界」と比べて変わっている様に感じました。
───しばわんこ、みけにゃんこ以外にもリスやウサギ、キツネやサル、クマが出てきて、「節分」ではリスが、豆をピッチャーのようなフォームで投げていたり、「お正月」のかるたあそびで、「さるもきからおちる」を読まれてビックリしていたサルが、「七夕」の短冊に「きから おちませんように」と書いていたり…動きもとても可愛くて、微笑ましかったです。
子どもたちがしばわんこを自分のお友達のように思ってくれたり、小さなところを発見して楽しめるような絵を描こうと思いました。
───描いていて、一番楽しかったページはどこですか?
───動物たちのおばけやしきは、意外と本格的ですよね!しばわんこの泣き顔が新鮮でした。
行事や季節にまつわる折り紙あそびも、子どもと楽しむきっかけとなりました。
───折り方も総イラストで描かれていますよね。川浦さんも実際に折られたんですか?
私は絵本を作るときには、できるだけ自分でやってみてから描くことにしているんです。体験することで、自分の視点が入れられますし、読者にどうやったら一番伝わるかを考えることもできますから。折り紙も全部作って、折り方の手順など伝わりやすい絵を意識しました。
───ご自身で体験しているからこそ、分かりやすく表現できるし、動物たちの動きにも愛情を込められているんですね。
もちろん、行事について書かれている色んな本を参考にしたりもしています。ただ、今回の絵本では、今までの「しばわんこの世界」をかなり参考にして描いたんですよ(笑)。
───ご自身の作品が参考文献の役割をしていたんですね!
12月の「クリスマス」は今までの「しばわんこの世界」ではなじみがなかった洋風の行事も載っていて、ちょっと新鮮でした。
「節分」で描いた恵方巻きもそうですが、昔からある習慣ばかりではなく、新しい行事も入れていきたいと思ったのが、この「行事えほん」のテーマです。クリスマスもすっかり、冬の行事として定着していますよね。
───サンタさんの帽子をかぶっているしばわんこ、似合います(笑)!クリスマスパーティーをやっている動物たちの絵もとても可愛いです。
───日本特有のものだと思っていた行事や習慣と似たものが海外にもあると知ると、その国の方を身近に感じられる気がしますよね。
そうなんです。「日本人なら知っていて当然!」ということではなく、日本の文化や習慣を突き詰めていきながら、同じ地球にいる仲間だねと言いあえることができたら、世界のみんなが平和で仲良く過ごせるんじゃないかと思うんです。
───2000年8月にはじめて雑誌「MOE」に登場したしばわんこは、どのようにして誕生したんですか?
私は本に携わる前、ステーショナリー関係のデザイナーをしていました。当時は、イングリッシュ・ガーデンが日本でブームになっていた時期で、私もガーデンの絵とかテディベアの絵とか、洋風のクラシカルで繊細なイラストばかりを描いていたんですね。
あるとき、カレンダーのイラストを考えている企画があって、会社の人から「川浦さんは和のテイストも合うと思う」と言われたんです。そこでパッと思い浮かんだのが、柴犬が「畳のヘリを踏んではいけません」といっている絵。犬が作法を教えるカレンダーがあったら面白いだろうな、と。これが最初のしばわんことの出会いでした。
───白泉社さんを選ばれたのには、なにか理由があるのですか?
「MOE」で絵を描きたかったんです。当時の「MOE」は憧れの市川里美さんの作品が掲載されているなど、大好きな雑誌でした。そこで、編集者の位頭さんとお会いして。イラストのお仕事をいただく中で、和をテーマにした絵本を作ってみないかと声をかけてもらったんです。
───「和」のテーマは最初から決まっていたんですか?当時としては珍しかったかと思うのですが…。
───川浦さんが最初は「和」に詳しくなかったなんて、とっても意外です。
───どうやって調べていったのですか?
───今みたいに子どもに向けた和や行事の本はなかったんですね。
そうなんです。それでもいろいろ調べる中で、しばわんこの最初のおはなしは、「おもてなし」にしようと決めて。
───そこで割烹着姿の柴犬の絵が思い浮かぶのが「さすが、川浦さん!」と思ってしまいました(笑)。それからすぐに絵本になることになったのですか?
いえいえ。最初は雑誌の連載ではなく、単発の企画の予定だったんです。ただ、「MOEで仕事がしたい」という思いで描いたものなので、それだけで十分満足でしたから。
(白泉社編集者・位頭:)川浦さんはそうおっしゃっていますが、しばわんこのラフ(下絵)を見せていただいた時点で、「MOE」編集部スタッフはみんなその可愛さにやられてしまって…(笑)。すぐにでも連載をお願いしたいという気持ちでした。
───読者の方にもしばわんこの可愛さがしっかり伝わったんですね!
(白泉社編集者・位頭:) 「MOE」を見た当時の白泉社の社長が 編集部にやってきて、「すぐに、絵本にしよう!」と興奮して言ったのを覚えています。そうして連載が本格的にスタートして、絵本の単行本も発売する運びになりました。