空と地面の「しーん」とした空間に、「もこ」、「もこもこ」……と何かがふくれあがってくるふしぎな絵本『もこもこもこ』。発売当初は「全く売れなかった」と谷川さんが振り返るこの作品も、100万部を超えるロングセラー作品となりました。今回は、谷川俊太郎さんに元永さんとの出会いや、『もこもこもこ』が生まれた経緯など、いろいろなおはなしを伺いました。
●ニューヨークでの出会いが、作品のベースに流れています。
まずは谷川俊太郎さんの貴重な読み聞かせをお楽しみください。
───『もこもこもこ』の絵本が生まれるきっかけを教えていただけますか?
元永定正さんのことは、以前から知っていました。彼は関西の前衛アートのパイオニア的集団「具体美術協会」に所属していて、その頃から、国際的な評価を得ていました。そのアートがすごく面白くて、注目していました。でも、直接面識はなくて、出会ったのは1966年。フォード大学の助成で中堅のアーティストを一年間、ニューヨークに留学させるという時期があったのですが、その中にぼくと元永さんがいました。お互いに30代と40代くらいですか。ぼくたち夫妻と元永さん夫妻は同じマンションの上と下の階に住んでいて、よくお互いの家を行き来していたんです。元永さんの部屋はふしぎなオブジェやアートがたくさんあって、それに題をつけたりして遊んでいました。
───元永さんはどんな方でしたか?
見た目が日系ロシア人のようでね、彫りが深くて、背が大きくて、外国人みたいなの。でも、しゃべる言葉は生粋の関西弁(笑)。そのギャップが面白かったですね。部屋の中に三角形の小さなテントの様な立体が並んでいてね。何で作られているのかを聞いたら「ワンタンの皮で作った」って言うんですよ。元永さんの作るものはけったいなものじゃないといけないと思っていたから、すごく納得したのを覚えています。
───そのときに一緒に絵本を作ろうというはなしになったのですか?
いいえ。絵本を作るはなしが出たのは日本に帰ってきて、2,3年も経ったころだったと思うのだけど、出版社から絵本の依頼があったんです。それで、2人で絵本を作ることになったんだけど、このときのやりとりがベースにあったからできたと思います。
───ニューヨークでの出会いが絵本を作るベースになっているなんてオシャレですね。『もこもこもこ』は最初に谷川さんの文章があったんですか?
40年近く前のことですからね、詳しいことは忘れてしまったのですが……。たしか、元永さんがラフのようなものを描いてくれて、それに言葉をつけていくような、お互いにやり取りをしながらおはなしを作っていったと思います。元永さんは言葉が無くてもストーリーが進むように絵を描いてくれたので、言葉をつけるのは本当に楽だったんですよね。
───ラフのときはモノクロでやり取りをされていたと思うのですが、実際に原画を見たとき、この鮮やかな色彩を見てどう思いましたか?
元永さんの作品はニューヨークで出会った前から見てきていましたからね。特に驚いたり意外だったってことはなかったと思います。ただ、やはり元永さんらしい面白い絵だと感じました。