塾や習い事をいつからはじめたらいいんだろう? 学校の勉強だけで身につくのかしら? 小学校低学年のときに悩むお母さん、お父さんは多いのではないでしょうか。
作文教室の草分け的存在、「言葉の森」を運営する中根克明さんは、小学校から大学受験生まで、難関校合格者を多数輩出し、長年子どもたちを見てきた経験から、「小1・小2・小3はとても貴重で大事な時期」だと言います。
“高学年から一気に後伸びする地力”を育てるために、学校生活最初の3年間をどう過ごさせるべきかという観点で書かれた『小学校最初の3年間で本当にさせたい「勉強」』。著者の中根克明さんにインタビューしました。お母さん、お父さん必見です。
難関校合格者を輩出。教育熱心な親の間で注目を集める作文通信「言葉の森」代表が、家庭教育の現場から「10歳までの本物の勉強法」を発信。 多くの親が焦ってしまうが、低中学年はよく遊び、好きなことを追求するのが大切な時期。勉強は詰め込まず、家庭学習の習慣がつけばいい。ただ、読書だけはたっぷりさせたい。国語力は学力の土台。そして、国語力は読書によって身につくもの。 この時期にたくさん遊んで余力を蓄え、読書で国語力を養った子は高学年から一気に伸びる。学校生活のスタートである「小学校最初の3年間」を、どう有意義に過ごさせてあげるか。まったく新しい観点の教育指南書。この時期に読みたいオススメ本52冊も掲載。
●焦って学習塾や習い事に行かせなくても大丈夫!?
───うちにも小3の子どもがいるので、きょうはお話をうかがうのを楽しみにしていました。
中根克明さんは長年作文教室を運営していらっしゃるそうですが、きっといろんなタイプの子どもたちが集まってくるのでしょうね。
はい。1981年に横浜で「言葉の森」という作文教室を開講し、35年間くらいやっています。今は遠方の方にも受講したいという声があって、通信教育で受講している生徒さんもたくさんいらっしゃいます。
───作文教室というと、開講当時は珍しかったのではないでしょうか。
他にはどこにもなかったと思います。だから、最初の頃の生徒さんたちは優秀でしたよ(笑)。勉強はたいがいできていて、ちょっと変わった習い事を親御さんもやらせてみたいというので、おもしろがってくださってね。
でも35年間子どもたちを見ていると、本当にいろんな子がいましてね。低学年から学習塾に通ってすごく勉強ができた子たちが、中学生くらいになると疲れちゃって、最終的にはあまりいい成績が続かなかったりね。
逆に、そういう子たちに「おれ、もうこんな計算できるんだぞ」って威張られて、「すごいなあ」なんてのんびりした反応だったふつうの成績の子が、中学生くらいで自分で勉強するようになると一気に点数がよくなったりするんです。低学年の時の成績は、そんなにあてにならないなあと思いました。
───本にも書かれていますが、小学校1年生から3年生の3年間は、頭も体も成長し、子どもができることがどんどん増えていく時期ですよね。だからこそ、何かさせたい、と思ってしまうのですが…。
「○○ちゃんは英語を習っているんだって」とか聞くとね、やっぱりそういうことをさせてない親は内心不安になるみたいですね。
───そうなんです。
あれをしないとあれが遅れるのかと思い、これをしないとこれが遅れるのではないかと思い、その遅れがあとで大きく響くように思ってしまう親御さんがいらっしゃるんでしょう。
───まさにそうだと思います(笑)。
でも小学校最初の3年間は、とっても貴重で、大事な時期なんですよ。二度とこない、子ども時代の輝かしい黄金期ですよね。やらなくてもいいようなことに熱中し、子どもらしい創造性を発揮できるのがこの3年間です。
放課後の時間がたっぷりあることが大事で、このときに学校の勉強を先取りして詰めこむよりも、むしろしっかり五感をつかって遊ばせることが、結果として「後伸び」につながります。
それに小学校1年から3年生の勉強は、大人になったらだれもがだいたいできているような内容で、本当に難問のようなものはないんですよ。この時期は、問題文をわざと読み取りにくくして点数に差をつけようとしますが、そういう難しい問題は、学年があがれば自然に理解できるようになってきます。
勉強の先取りそのものはわるいことではありませんが、この頃の先取りはあまり意味がないことが多い。高学年になれば短時間で身につく内容を、低学年で長時間かけてやるのは、子どもに負担もかかるし、結局密度が薄い学習だったということになります。
───つまり、学習塾などで忙しくするより、たっぷり遊ばせたほうがいい、と?
そうです。好きなことに熱中させ、のびのびさせたほうがいい。基本は「よく遊び、少し学べ」です。この時期、長時間机に座らせて勉強嫌いの子にするよりも、さっと集中して勉強は終わらせ、あとはたっぷり遊ぶのがよい時間の使い方ですよ。
それに、人間はいつか命が終わるのですから、人としての幸せを考えると、何かに熱中した子ども時代が残るほうがずっといい。
本にも書きましたが、世の中に名を残した人の話を聞いたり本を読んだりすると、子どもの頃は遊んでばかりだったということがよくあります。日本のロケット開発の基礎をつくり、惑星イトカワの名前にもなった糸川英夫博士は、親が寝静まった夜にこっそり重い強いベーゴマを作ることにひたすら熱中し、それをもって隣町まで遠征するという子ども時代だったそうです。
存分に遊んだりいたずらしたりするときこそ、子どもは創意工夫のタネを育てているものなのです。
───低学年のときに焦らなくても大丈夫なんですね。
大丈夫です。ただ、遊ぶだけで何もしなくてもいいというのではありません。習慣づけのための最低限の家庭学習は必要です。でもそれは10分間くらいでよいものなのです。
それよりもただひとつ、低学年のうちにたっぷりさせたいこと。それは「読書」です。タイトルにあるとおり、読書こそ、本当にさせたい「勉強」です。いわゆる学校の勉強ではないのでカギカッコ付きの「勉強」ですね。
───読書が、「勉強」?
小1・2・3の時期は、勉強=(イコール)読書と考えていいと思います。学力の基本は国語力です。「朝の10分間読書」を実施している中学の調査によると、生徒の学力は、「家庭で読書をする習慣があるかどうかと高い相関がある」という結果が出ています。
本を読むことは楽しいことで、本好きな子にとっては最高の遊びとも言えます。それにもかかわらず、学力を伸ばすという意味で読書ほど「勉強」になるものもないのです。小3までに「本っておもしろい」と目覚めさせられたら、あとの子育てがぐっとラクになりますよ。
───たしかに本を読むようになると、国語が得意になるのはわかる気がします。
でも、ほかの教科にも影響していきますか?
理科と社会は、教科書に書かれていることを理解できているかどうかが鍵なので、「読む力」との関係が強い教科ですよ。
算数も学年があがるにつれ、計算力そのものではなくどういう計算が必要な問題なのかを、読み取る力が必要になってきます。
とくに5年生の算数からは急に「考える要素」が出てくるんです。そのときに読書によって、因果関係や理由や背景、構造など、物事を複雑にとらえる力がついていれば、5年生の難しい算数や理科ができる。考えることが苦にならないんですね。
───読書で培った力が、中高学年になって学力を下支えするのですね。
ええ。低学年では「知識」中心だった勉強から、高学年になると「考えること」が中心になる勉強にうつっていくんですよね。勉強は次第に本格的になりますし、扱う内容も抽象的になってきます。
───扱う内容が抽象的になる……?
読書量の多い子は、ひとつひとつの語彙だけでなく、その語彙の組み合わせによってできた思考の枠組みも豊富に持っています。だから、抽象的な考え方の新しい勉強に入っていくときも、はやく理解できるんだと思います。
今、「言葉の森」で子どもたちに読書紹介をさせています。Googleのハングアウトという機能をつかって7人くらいのグループで、今週読んだ本をみんなに教えて、と言って、紹介してもらうのですが、本の傾向でその子の本当の実力がわかるような感じがします。同学年でも「へえ、そんな本を読んでいるの!?」という子もいるんです。
いわゆる学校の勉強は、やっぱり勉強している子は成績がいいし、していない子は成績はよくない。でも成績はあくまで表面的なことです。お母さんやお父さんが折りにふれて子どもとよく会話し、子どもの本当の実力を測ることも大事です。地力があれば、本人がやる気になったとき、成績は自然に伸びていきます。