●「日本の子どもがはじめて出会う絵本を作りたい」
───「こぐまちゃんえほん」シリーズは誕生から40年以上も経っていると伺い、今でも愛され続けている人気の高さ、ひとつひとつの作品の面白さに改めて感動しました。なぜ、こぐまちゃんを主人公にして絵本を作ろうと思ったのですか?
私がこぐま社を作ったのが、1966年でした。当時から私は「日本の子どもがはじめて出会う本を作りたい」と思っていたんです。「子どもがはじめてであう絵本」、このネーミングを提言したのは福音館書店の松居直さんだったと思うんですが、本当にすごい言葉だと思います。「“日本の”子どもがはじめて出会う絵本」について考えていると次第に、「生まれた子どもが一番最初に出会う、両親以外の“お友達”って何だろう」と思考が移っていき、それはぬいぐるみだと思い至ったんですね。調べてみると、子どもに与えられるぬいぐるみの中で、クマのぬいぐるみが圧倒的に多かったんです。それで、クマのぬいぐるみを主人公にした絵本を作ろうと思いました。
───「こぐまちゃんえほん」シリーズには、作者として名前が出ているわかやまけんさん以外に、3人の方が関わられていると伺ったのですが…。
はい。絵を担当されたわかやまけんさんと編集者の私。それから、歌人で小学校教諭の森比左志さんと児童演劇の劇作家をされていた和田義臣さん。この4人が「こぐまちゃんえほん」シリーズの生みの親です。
───4名も作者がいるというのは絵本でも珍しいですよね…。
確かに、他の絵本では考えにくいですよね。でも、森さんの言葉に対する感性と、和田さんの絵本の展開を考える発想、それにわかやまさんの日本の色を見事に描く画風があってはじめてこのシリーズは生まれたんだと思います。「こぐまちゃんえほん」シリーズで使われている色は、今まで子ども向けといわれていた「赤・青・黄」の原色ではなく、日本独特の中間色を使っているんです。
───オレンジ色や黄緑色など本当にきれいですよね。そして『しろくまちゃんのほっとけーき』のホットケーキができるまでの美味しい移り変わり!見ているだけでホットケーキを食べたくなってしまいます。
この場面は、わかやまさんの色と森さんの言葉が絶妙に合わさった本当にすばらしいページですよね。「こぐまちゃんえほん」シリーズを作るとき、ちょうどわかやまさんのところに息子さんが生まれた時期と重なっていて、「お子さんの育児スケッチをつけて!」と僕達がお願いしたんです。息子さんが、2、3歳になった頃かな。お母さんがホットケーキを焼いているところを息子さんとその友達がジーと見ていることがあって、「これだ!」って思ったそうですよ。
───「ぽたあん どろどろ ぴちぴちぴち ぷつぷつ…」という音もいいですよね。
擬音語に関しては、実際に七輪でホットケーキを焼いたとき森さんが「音が聞こえる」とおっしゃって、みんなで耳をそばだてて聴きました。「ふくふく くんくん ぽいっ はいできあがり」という言葉のリズムは、歌人である森さんならではだと思います。森さんの言葉の美しさに関するエピソードはそれこそ沢山あるんですが、私が最も感動したもののひとつが『こぐまちゃん おはよう』のトイレのシーン。当時、絵本の中で排泄シーンが描かれることはほとんどなく、タブーでした。でも、どうしても入れなければならないと私が主張して、森さんが、「まだですか まだですよ こぐまちゃんは まいにち うんちをします」という言葉をつけてくださいました。排泄の場面にこれほど美しい、いい言葉で表現している絵本は今でもまだないと思っています。
───わかやまさんのお子さんがきっかけとなって生まれた作品は他にもあるんでしょうか?
先ほどの排泄シーンもそうですし、『こぐまちゃんのみずあそび』のホースで水を掛け合うシーンもそうです。それから『こぐまちゃんのどろあそび』もわかやまさんの息子さんと娘さんのケンカが元になっています。その他、「こぐまちゃんえほん」シリーズの随所に、わかやま家の子ども達の日常の姿が元となって生まれた場面が散りばめられているんです。