●ポルカさんの名前は、「カルピス」の「ポルカドット(水玉模様)」からきています。
───『ドーナツやさんのおてつだい』は、ある小さな町のドーナツ屋さんが舞台のおはなし。このおはなしの企画を聞いたとき、もとしたさんはどう思いましたか?
もとした:「カルピス絵本」の活動のことは、編集者さんに教えていただくまで、全く知りませんでした。37年もずっと、幼稚園・保育園に通う子どもたちに向けて、こんな活動をしているなんて、素晴らしいことだと思いました。なので、おはなしを書かせていただけるのはとても光栄と思い、お受けしました。
───ドーナツ屋さんのおはなしにしようと思ったのは、なぜですか?
もとした:編集者さんからは、特に「この食べ物で描いてください」という指定はなかったんです。ただ、カルピスというと、白地に青のドット、ですよね? その丸が、たくさんの丸いドーナツのイメージにつながったのかもしれません。カルピス絵本は、ひなまつりのイベントなので、春先のドーナツ屋さんのおはなしにしました。

文章を担当した、もとしたいづみさん。
───もとしたさんと、ドーナツとの思い出は、2017年に出版されたエッセイ『レモンパイはメレンゲの彼方へ』(ホーム社)にも登場しますね。お子さんとドーナツを作るエピソードがとても微笑ましく感じたのですが、絵本の中にも、ドーナツに砂糖をまぶす描写が出てきますね。
もとした:そうなんです。子どもたちが小さい頃は、よくドーナツを作りました。砂糖をまぶすのはいつも子どもたちの役割。我が家では、紙袋に砂糖とドーナツを入れていたのですが、それだと中が見えないので、絵本では透明な袋を使っていますね。
───ポルカさんが作るドーナツは、作り方までとても丁寧に載っていて、すごく美味しそうです! 「こねこねこねこね まぜあわせ」や「ぱっこん ぱっこん かたを ぬいて」など、オノマトペもとてもかわいらしくて、声に出して読むと楽しいですよね。
もとした:美味しそうなドーナツができる様子が、音からも伝わるように、そして心地いい響きかどうか、オノマトペは何度も声に出して考えました。

───ポルカさんやドーナツ屋さんには、モデルはいるのですか?
もとした:モデルは特にいないんです。実は、ポルカさんは最初、若い女性のイメージだったんですよ。
───そうなんですか?
もとした:でも、何度か編集者さんと原稿のやり取りをする中で、男性の方が子どもたちと会話しているところの、口調の違いがはっきり出ると思い、ポルカさんはおじさんになりました(笑)。「ポルカ」という名前は、カルピスのイメージである水玉模様《ポルカドット》をベースにしています。
───カルピスのパッケージが水玉だから、ドーナツ屋さんの名前がポルカさんになったのですね。
子どもたちに手伝ってもらって、毎日おいしいドーナツを作るポルカさんですが、毎年、春になる少し前に「おいしくて きれいな ドーナツ 100こ」を持ってくるようにと、なぞの手紙が届きます。
ここで、ほのぼのとした物語から、ちょっと謎解き要素が加わりますね。この展開で、グッとおはなしに引き込まれる感じがしました。
もとした:ドーナツ屋さんの日常だけでは、ストーリーにメリハリが出ないので、「なぞの手紙」というスパイスを加えました。でも、あまり怖くはしたくなかったので、楽しみながらドーナツ作りができるよう、ここでも子どもたちに活躍してもらいました。

───子どもたちがドーナツにチョコペンシルで好きな絵や模様を描いている場面は、すごく見ごたえがありますね。ドーナツ作りだけでなく、このお絵かきも、絵本を読んだ子どもたちはやってみたくなると思います。
もとした:どの場面もそうですが、この場面は特に子どもたちが楽しんでいる様子があふれていますよね。ひとつとして同じデザインがないところも、ヨシエさんは、すごくこだわられたんだろうな……と思いました。
───絵を担当されたヨシエさんのことは、以前から知っていましたか?
もとした:ヨシエさんのことは、編集者さんから提案されて知りました。彼女の絵本『ハッピーイースター』(くもん出版)を読ませていただいたのですが、すごく色彩が鮮やかで、え、海外の絵描きさんじゃないの? とビックリ。今回、一緒にお仕事できることになって、『ドーナツやさんのおてつだい』がどんな絵本になるか、とても楽しみでした。
●「おてつだいたい」の9人には、みんな名前があるんです。
───ヨシエさんは、普段、イラストレーターや絵本作家として活動されていますが、ほかの方の文章に絵を担当するのははじめてなんですよね。『ドーナツやさんのおてつだい』の文章を最初に読んだときはいかがでしたか?
ヨシエ:ドーナツ屋さんのおはなしになるというのは、事前に編集者さんから伺っていました。原稿をいただいて、読んだら、本当にかわいいおはなしで、しかも謎解きや冒険の要素もあり、最後はすごくハッピー! ポルカさんはどんなおじさんなのかな? 「おてつだいたい」の子どもたちは元気いっぱいなんだろうな……、と、文章からイメージがあっというまに湧き出てきましたね。

絵を担当した、ヨシエさん。
───ポルカさんは、ふっくらとした体に、グレーの髪とひげがチャームポイントですね。
ヨシエ:私の中の最初のポルカさんは、なんとなくアメリカンな感じのドーナツ屋さん。ローラースケートをはいて、ヘーイ!と言っていそうな (笑)。最初は今よりも背も高くて、スラッとしたイメージでした。でも編集者さんに、「イメージはダンディーで渋いおじさま!」と聞いたりして、だんだん変わっていき……(笑)。何度も描き直しているうちに、どんどんふくよかになっていって……今の愛されキャラな感じの優しいおじさんのビジュアルに落ち着きました。
───ポルカさんと常に一緒にいる、ネコもすごくかわいいですよね。
ヨシエ:ネコは文章には特に登場しないのですが、ポルカさんの相棒で、よきお手伝い係として、絵本の中でひそかに大活躍しています。名前もついているんですよ。カルピスの水玉から連想して、「たまキャット」と言います。

ポルカさんのそばには、いつも「たまキャット」がいます。
───絵本を読む子どもたちは、楽しくたまキャットのことを探すと思います。ドーナツ作りを手伝う「おてつだいたい」の子どもたちも、とても個性的。ひとりひとり、名前があるのでしょうか?
ヨシエ:はい。子どもたちは9人いるのですが、それぞれ名前と性格、それときょうだい関係なども設定があります。全部、もとしたさんのおはなしを読んで自然に生まれたキャラクターたちなんですよ。絵本の見返しに登場人物の名前が紹介されているので、それを読んでからまた絵本を読み返してもらえると、より楽しめると思います。

見返しには、「おてつだいたい」の子どもたちの名前が紹介されています。
───きょうだい関係まで! すごく細かい設定があるんですね。絵を見ていても、自分より小さい子の面倒を見る子どもがいたり、友だちと遊んでいる子がいたり、それぞれの性格が表れているのを感じます。
ヨシエ:「おてつだいたい」の子どもたちは、いろいろな年齢、さまざまなきょうだい構成の子どもたちが絵を見て共感できるようにしてみました。絵を見ていただくと、「この子はおてんばな子だな」「この子はおとなしくて優しい子なんだな」と、個々の性格が浮き上がってくると思います。年齢、性別、きょうだい構成はばらばらだけど、みんな同じ町で育つ仲良しで、ポルカさんと、ポルカさんの作るドーナツの大ファン。何をするにも一緒で、楽しいことも、頑張らなければいけないことも、いつも一緒にやって、やりとげちゃう。そういう部分を絵で表現しようと思って描きました。
───ポルカさんのドーナツ作りを手伝う様子からも、子どもたちが楽しんで参加していることが感じられます。この子どもたちはモデルがいるのですか?
ヨシエ:モデルは特にいませんが、うちの子どもや、小さい時から一緒にいろいろやってきたいとこたちや、子どもの友達や性格などがあらわれているかな?
ちなみに「はなちゃん」と「るーくん(ルセット)」の兄妹はうちの子どもの名前を借りました。
───それは素敵ですね。
ヨシエ:名前以外にも、ポルカさんのお店の冷蔵庫に書いてあるメモや、ポルカさんへのファンレターを、うちの子どもに描いてもらって、絵本の中に使ったりしています。

ヨシエさんのお子さんが描いた、ファンレター。
───自分の描いたものが絵本に登場するなんて、お子さんはきっと、大喜びですよね。絵を描いている中で、特に楽しかった場面はどこですか?
ヨシエ:みんなでドーナツに絵や模様を描いている場面ですね。このページは、全員がまるいテーブルを囲んで一緒に楽しんでいる様子が伝わるよう描きました。あと、ドーナツをあなもりやまへ運んで、お皿に並べる場面では、ちゃんとドーナツ100個を描いたんですよ。
───100個のドーナツを描くのは、大変ですよね。
ヨシエ:ほんとに大変でした! 100個描くのはもちろんですが、ページをめくったときに、ちゃんと前のページと配置が合っているように、ドーナツの並び方や、柄の位置など、編集者さんに何度もチェックしてもらって、間違いのないよう修正をしたので、全部OKをもらったあとは、すごい達成感でした…….。

───絵の中のところどころに、水玉模様が使われているのも楽しいですが、子どもたちのエプロンの柄や、洋服の生地の素材など、細かく描き込まれていることにも、こだわりを感じました。いつも、どんな画材を使って描いているのですか?
ヨシエ:私のやり方は、まず、すべてのキャラクターの体のパーツをアクリル絵の具で描いていき、それをパソコンに取り込みます。そのパーツたちを、事前に描いてスキャンしたラフの線画をガイドにして、パソコン上でコラージュしていくんです。


制作に使った、パーツを見せていただきました。
───一度、手描きをしたものを、パソコンで再度再現する感じなのですね。細かいパーツがたくさんあって、どのページのパーツか分からなくなりそうです。
ヨシエ:番号などをふっているので間違えませんが、何も書いてなかったら、私も分からないと思います。そのくらい、使うパーツが多いんです。
───パソコン上でコラージュを合わせる作業は大変ではないですか?
ヨシエ:今の技法になったのには、私が子どものころ、マンガ家になりたかった影響があると思うんです。マンガ家さんが使っている、スクリーントーンという画材が、私はすごく大好きで、昔からイラストを描くときに使っているんです。だから、絵本の絵を描くときも、自然とそういった素材や、大好きな柄生地やキラキラしたものといったパーツを好きなようにコラージュする手法になったんだと思います。
───ヨシエさんの絵の原点はマンガなんですね。
ヨシエ:そうなんです。小学生時代は自作のうさぎやファンタジー系のマンガを描き、クラスの愛読者(友達)のあいだで回し読みしてもらう、そんな日々でした。
───ヨシエさんは現在、イギリスにお住まいで、アーティストとして活動しながら、お子さん2人を育てていますよね。絵本の制作や、細かいやり取りなどはどのように進めていったのですか?
ヨシエ:編集者さんとの打ち合わせは、メールのやり取りのほか、スカイプもよく使いました。イギリスと日本では約8時間の時差があるので、私が子どもたちの学校送りが終わったあと、午前10時ごろ(日本の夕方6時)から打ち合わせをすることが多かったです。
編集者さんとパソコンに向かって、ラフの修正案やチェック箇所を見せ合ったりして、それを見ながら、何時間も打ち合わせを行いました。白熱して、日本が日暮れになっていっていくのに気づかず、編集者さんの顔がどんどん見えにくくなったこともあり(笑)。

───もとしたさんは、ヨシエさんのラフを見て、何かアドバイスをされたのでしょうか?
もとした:意見はほとんど言わなかったと思います。でも、編集者さんのアドバイスを受けて、ヨシエさんから修正が届くたびに、ラフ画がどんどん素敵になっていったので、絵を見ながら、原稿を何度か書き直しましたね。
ヨシエ:編集者さんを通じて、もとしたさんが書き直してくれた原稿が届くんです。ときには私の作った絵に合うように文章もスラスラっと素敵に変えていただき、感激! 絵本の完成がさらに楽しみになりました!
───ヨシエさんは、お子さんに『ドーナツやさんのおてつだい』を見せたりしましたか?
ヨシエ:はい。制作中に何度も子どもたちに絵を見せては、反応を伺っていました。子どもたちもドーナツが飛び出しちゃう場面で笑ったり、ドーナツが100個出てくる場面が大好きで、ページをじーっと見ては、自分の一番好きなドーナツを選んでいました。
───もとしたさんは、子どもたちへの読み聞かせもされていると思いますが、ご自身の作品を読んだりするのでしょうか?
もとした:もちろん! 講演会などに呼んでいただいたときは、基本的に自分の本だけを読むようにしています。
ヨシエ:そうなんですね。私はおおぜいの前で読み聞かせをするのに、まだ慣れていないので、自分の作品を読むのはちょっと恥ずかしかったりします……。もとしたさんは、積極的にご自身の作品を読まれていて、とても尊敬します。
もとした:全然恥ずかしくないですよ。つい最近も、北海道の小学校にお声がけいただいて行ったのですが、自分の絵本をたくさん読ませてもらいました。すごく楽しかったです!










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