「ショートショートの神様」と呼ばれ、今なお多くのファンを持つ、SF作家の星新一さん。生涯に渡り1001編以上のショートショートを発表した星新一さんの作品が、この度、「星新一ショートショートえほん」シリーズ(ミキハウス)として、小さい子どもたちから楽しめるようになりました。
2017年11月に発売された第一弾は『おーい でてこーい/鏡のなかの犬』『友を失った夜/とりひき』『サーカスの旅/薬と夢』の3冊。今回は、ミキハウスの佐藤亮さん、担当編集者の高橋良和さんと、絵を担当された中島梨絵さん、田中六大さん、ももろさんにお話を伺いました。
●「星新一ショートショートえほんシリーズ」とは……。
1957年のデビュー以降、「ショートショート」と呼ばれる小説形式を得意とした星新一さん。そんな星新一作品の中から、子どもたちにも楽しめる作品をセレクトし、今、活躍中の絵本画家が絵を担当した絵本のシリーズです。
●「星新一ショートショートえほんシリーズ」の特徴
特徴@ 絵本の常識を破る1冊2作品
1冊に2作品を掲載。多くの読者を魅了した“あの”絶妙なオチが、1冊で2度楽しめます。
特徴A 子どもから大人まで何度も楽しめる
本文はすべて星新一の原作を忠実に再現。漢字も総ルビで原文のまま。入学のお祝いにも最適です。もちろん、大人が読んでも、新鮮な発見があります。
特徴B 画家さんももちろん、星新一ファン!
最初に刊行された『おーい でてこーい/鏡のなかの犬』『友を失った夜/とりひき』『サーカスの旅/薬と夢』の3作品を担当した画家さんは、みなさん、星新一作品を長年、愛読していたファンばかり!
●星新一プロフィール
1926年東京に生まれる。東京大学農学部卒業。
1957年に日本初のSF同人誌「宇宙塵」の創刊に参加。1968年に『妄想銀行』で日本推理作家協会賞受賞。
400字詰め原稿用紙にして10数枚程度の「ショートショート」と呼ばれる小説形式を得意とし、当用漢字しか用いない平易な文章、時事風俗や固有名詞、性や殺人を描かない透明感のあるその作風は、年齢性別国籍を問わず広い読者層、とくに小中学生の子供たちに支持され、「ショートショートの神様」と呼ばれる。
ショートショート集『ボッコちゃん』『ようこそ地球さん』『きまぐれロボット』以外にも、大正時代に栄華を極めた星製薬の創業者、父・星一の壮年期を描いた『人民は弱し 官吏は強し』、青春期を描いた『明治・父・アメリカ』、『祖父・小金井良精の記』などの伝記も発表している。1997年没。
●「星新一デビュー60年、没後20年」の節目の年に、絵本のシリーズ化発進!
───星新一さんのショートショート集といえば、子どものころにハマったパパママも多いと思います。今回、待望の絵本シリーズ化ということですが、どのようなきっかけで、絵本のシリーズ化が決まったのでしょうか?
ミキハウス・佐藤:ミキハウスでは1987年から「宮沢賢治の絵本」シリーズを刊行してきました。現在、29タイトルを出版し、おかげさまでシリーズ当初からのファンも多く、今後さらに続刊を予定しています。しかし、私は常々、「宮沢賢治の絵本のような良質な物語を、しっかり子どもたちに伝えていく絵本シリーズを、もう少し加えていきたい」という思いを持っていました。
そこで、自分自身でも考えましたが、雑誌や書籍の企画編集制作を行っている様々な方々にお声掛けをし、いろいろな絵本の企画を提案してもらいました。
風讃社の高橋さんからもたくさんのご提案をいただき、その中から、最終的に決めたのが、星新一作品の絵本化だったんです。
───高橋さんは、どうして星新一作品を絵本化しようと思ったのですか?
風讃社・高橋:佐藤さんには、星新一作品の絵本化以外にも、日本の昔話のシリーズや、民話をまとめた作品など、いろいろな絵本の企画を提案していました。その中で、一目見て「これだ!」と声を上げてくださったのが、星新一の企画でした。
ミキハウス・佐藤:私自身、星新一作品はほとんどすべて読んだんじゃないかってくらい、星新一ファンなんです。しかし、星新一で絵本を作ることは、高橋さんから提案されるまで思いつきませんでした。絵本になりそうな作品はたくさんあるのに、調べてみると、驚くほど絵本になっている作品が少ない。そのことにまずビックリしました。
───たしかに、和田誠さんなどの絵で数冊出ているくらいですね。
ミキハウス・佐藤:どの出版社も出していないシリーズを刊行することは、ある意味、とても勇気のいることでもあります。しかし、弊社では、全国のミキハウス店頭で絵本を並べるなど、独自の販売網が発達していることが強みです。ここは思い切って、星新一作品で、絵本のシリーズを立ち上げようと決めました。
───シリーズ化が決まってから、作品のセレクトを行ったのでしょうか?
風讃社・高橋:そうです。まず、星新一ショートショート集の中から、子ども向け絵本になりそうな作品をリストアップしていきました。その段階で、50作品ぐらいに絞り込みました。そこから、作品のボリュームや、テイストを加味しながら2作品ずつの組み合わせを考えていきました。
───50近い作品を、2作品ずつ組み合わせる作業は、膨大な作業ですね。
風讃社・高橋:最終的に、20くらいの組み合わせを考えて、その中からシリーズの第1弾として出版したいラインナップを決めました。通常、絵本は32ページあるのですが、今回は2作品を収めるので、20ページと12ページなど、作品のボリュームを考えて、組み合わせを検討する作業が大変でしたね。
ミキハウス・佐藤:今、星新一さんの著作権は、お嬢さんの星マリナさんが代表をつとめる星ライブラリがすべて管理されています。企画の立案から、作品ラインナップ、画家さん候補まで、すべて星マリナさんのご了承をいただいて、作業を進めました。
───最初の企画ができてから、画家さんに絵の依頼をするまで、どのくらい時間がかかりましたか?
ミキハウス・佐藤:絵本シリーズ化の全ての承認が下りたのは、企画をスタートさせてから約5カ月後のことでした。その時点ですでに2017年に入ってしまっていたと思います。2017年は星新一さんがデビューされて60年の節目の年。何としても2017年中にシリーズをスタートさせたいと、その後のスケジュールを急いで組みました。
───シリーズ第1弾には、中島梨絵さん、田中六大さん、ももろさんとバラエティに富んだ画家さんが担当されています。絵の候補の方はどのように選んだのですか?
風讃社・高橋:まず『サーカスの旅/薬と夢』ですが、この2作はどちらも動物がメインで登場します。以前から、ももろさんの描く動物がとても素敵だと思っていたので、ぜひこの作品は、ももろさんにお願いしたいと思いました。
『友を失った夜/とりひき』は、全体的に夜のイメージ。どこか暗く、寂しく、怪しい……。そんな作品をシリアスを交えながらユーモアをにおわせるには、田中六大さんしかいないと思いました。
『おーい でてこーい/鏡のなかの犬』は、この3冊の中でも、特に画家選びに悩んだ作品です。
───『おーい でてこーい』は星新一さんの代表作で、ファンも多い作品ですよね。
風讃社・高橋:そうなんです。この作品がほかの2冊と違うところは、現実のすぐ裏側を描いていることだと思います。そこで、リアルなタッチを得意とする中島梨絵さんに、日常の裏側に潜む非日常を描いてほしいとお願いしました。
ミキハウス・佐藤:ありがたいことに、星マリナさんも画家さんの提案には大変ご満足いただいているようで、一発でOKをいただきました。
風讃社・高橋:特にももろさんの動物のイラストが可愛いと、大好評でしたね。
───中島梨絵さん、田中六大さん、ももろさんは、今回の「星新一ショートショートえほん」シリーズのお話を聞いたとき、どう思いましたか?
ももろ:両親共に星新一作品を好きで、家にもたくさん本がありました。私自身、子どものころから星新一さんのショートショート集をよく読んでいました。以前、別のインタビューで「影響を受けた人:星新一」ということを言っていのですが、それを、高橋さんが見つけてくださり、今回のシリーズに指名してくださったと聞きました。
───子どものころから憧れていた人の作品に絵を描けるなんて、すごく嬉しいことですよね。
ももろ:本当にそうです。インタビューに「星新一」と書いておいて、本当に良かったと思いました。
中島:私は、ももろさんよりちょっと遅くて、学生の頃に星新一作品と出会いました。たしか友だちに薦められたんだと思うのですが、すごく読みやすくて、面白かったことを覚えています。
田中:ぼくも、中学生のころに読みましたね。子どものころから本を読むのは好きだったのですが、児童書を多く読んでいたので、星新一の作品は、大人向けの小説の入り口として、すごくぴったりでした。ストーリー展開と、予想だにしないオチが面白くて、すごくハマりました。
ミキハウス・佐藤:小学校高学年から中学くらいで、星新一のショートショートに出会う人が一番多いんですよね。一編が短いからあっという間に読めてしまうし、しかも面白い。田中さんのように、ショートショートで読書の楽しみを知った方って、実は多いと思うんです。「星新一ショートショートえほん」シリーズでは、星新一作品と出会う年齢をグッと下げて、もっと小さいお子さんから、星新一の魅力を知ってほしいと思っています。
───絵本のシリーズを楽しんだ読者が、次にショートショート集を読んで、さらに大人の本へ移行していくという、流れができそうですね。