●鉛筆ラフを使って絵本に
───方向性が決まった後はどのように進んだのでしょうか?
中川: 鉛筆でのラフスケッチですね。
亀山: こんな内容でどうですか、というラフでのやりとりを何回かした後に、いよいよ本番の絵を描く段階に入りました。僕としては木炭を使ってみたかったんです。これまで使ったことがないし、木炭の黒い煙が出るようなタッチが作品に合っているんじゃないかと思い、サンプルを描いて監督に見せたら、「これは違う」と。
中川: 「怖すぎる」って(笑)。
細田: ちょっと違うかなと思ったんですよ。その後、絵具を使ったパターンも見せていただいたんですが、絵の具だとアニメ本編の美術と被るから避けたかったんです。
そんなやり取りの中で、最初の鉛筆ラフが浮上してきた。僕が「これでいいじゃないですか! これでいきましょうよ!」と言うと、「いや、これはラフだから」とtupera tuperaさんたちに返されて。
亀山: 鉛筆ラフは中川が描いたんですが、こちらとしてはあくまでも「ラフ」で、本番のつもりで描いていませんから。「この線が生き生きしている! 荒々しい線がいい!」と言われても、こっちとしてはちょっと……。
中川: そのタッチで本番のイラストを描くこともできたんですけど、そうすると「ラフの清書」になって勢いがなくなっちゃうんです。
細田: 考えてみたら、すごく無謀なお願いですよね。それなのに、よく腹をくくってくれたなあ、と思います。すみません、ありがとうございます!
中川: 私たちがいつもの手順を踏んできちんと絵本として仕上げていくのではなく、tupera tupra2人と細田監督、この3人でディスカッションの中で少しずつ作っていった、その生っぽさこそが面白いのかなと。
亀山: 「これはラフだから」と食い下がりながらも、どこかでしっくりきたんですよ、実は。たしかにそうかもな、ラフの線の上に色を指定すれば上手くいくかもしれない、とも。でも、それを実際にやるのは大変な作業でしたね。ラフをスキャニングして、線の黒(スミ)の量を調整したり。
中川: 重要だったのはデザインですね。「どす!」や「ぬぬうおおうっ!」といった擬音が恰好良く入ると全体が締まるんじゃないか、と思って。
亀山: デザインも絵の一つ。岡田善敬さんという信頼できるデザイナーにお願いすることができました。
細田: すごくいいバランスになりましたね。絵の方がかなり生々しい方向にお願いしたので、グラフィカルにまとめることで画面自体が締まっていますよね。
『オニババ対ヒゲ』中面 (c)Mamoru Hosoda 2018 (c)tupera tupera 2018 (c)2018 スタジオ地図
●読んでから見るか、見てから読むか
───最後に絵本ナビの読者の方へメッセージをお願いします。
亀山: いろんな人に読んでもらいたいです。大人も子どもも、夫婦ゲンカ中のご夫婦も(笑)。
中川: 声に出して読んでほしいですね。お父さんとお母さんで、または、お父さんと子どもで。交互に役を替えながら読んでみたりするのも楽しいと思います。それに、先に絵本が家にあれば、映画を見たときに「あ、うちにある本だ!」となると思いますね。
細田: その逆に、映画に出てきた絵本が書店にあるのを見つける、とかね。現実と地続きになった感覚が面白いと思います。こういう成り立ちでできた絵本って、意外と今までなかったんじゃないかな。tupera tuperaさんとだからこそこういうコラボができました。もともとtupera tuperaさんの絵本のファンだっただけにとても嬉しいですね。
文:タカザワケンジ
写真:阿部岳人
企画:株式会社KADOKAWA 文芸局