細田守監督の最新作『未来のミライ』から1冊の絵本が生まれました! お子さんともどもtupera tuperaさんの絵本のファンだったという細田監督が、まず映画に登場するキャラクターのデザインをオファー。そこからさらに主人公の4歳児・くんちゃんが好きな絵本として登場する『オニババ対ヒゲ』が本物の本として誕生することに。夢のコラボはどのように実現したのでしょうか。細田監督とtupera tuperaさん(亀山達矢さん&中川敦子さん)にお話を伺いました。
●タイトルが先に決まっていた
細田守監督最新作「未来のミライ」に登場する絵本が本になりました! 現在大ヒット上映中の細田守監督最新作「未来のミライ」で、主人公のくんちゃんが妹のミライちゃんに読み聞かせる絵本『オニババ対ヒゲ』。この絵本を、細田守監督と「未来のミライ」でプロダクションデザインとして参加するtupera tuperaさんが作り上げました! ヒゲの平穏な日常は、オニババの登場により、ある日とつぜん終わりを告げます。手荒くつかまれたりと、オニババにひどい扱いをされますが、ヒゲは負けません。さまざまな反撃に出て…‥ふとカレンダーを見あげると、今日はオニババの誕生日! プレゼントに花を用意したヒゲは、はたしてオニババによろこんでもらえるのでしょうか。
───『オニババ対ヒゲ』というタイトルはインパクトがありますね。細田監督が考えたそうですね。
細田: ええ。この絵本のタイトル自体は映画の脚本制作時からありました。脚本が最終稿まで進んだ頃から、もともとファンだったtupera tuperaさんにこの映画に参加してもらえるといいよねといった話をスタッフとするようになりました。最初は作品終盤で登場する「遺失物係」「駅長」のキャラクターデザインを依頼するという話から始まったんですが、その後に、映画に出てくるオリジナルの絵本の方も一緒に作ってもらえますか、という流れでしたよね。
亀山: 最初はキャラクターデザインのお話からでした。『オニババ対ヒゲ』という絵本が映画の中に出てくるという話は最初から聞いていたんですが、キャラクターデザインを進めていく中でも「そういえば、あの絵本、どうしましょうかね」みたいなふうに『オニババ対ヒゲ』の話をしていましたね。
中川: 映画の中に出てくる絵本を作るということを伺って、これは自分たちのフィールドのお仕事だと思いました。細田監督は「劇中に最低限必要なのは表紙、裏表紙と、中の1、2見開き。実際の本にするかしないかは後で決めましょう」と仰ってましたよね。
細田: キャラクターデザインの打ち合わせの流れで絵本の話をしている最中に、いきなり紙にマジックで「オニババ」をガガガって描いてくれた。その絵がすでに良かったんです。
●「現代の絵本」にしよう
───なぜ映画の中だけでなく、実際の絵本をつくることになったのでしょうか。
亀山:ドラマや映画のメイキングを見ていると、カメラに映らない部分にまでセットや美術が凝っていたりするじゃないですか。たとえば、開けない引き出しの中にきちんとその家にありそうな小物が入っているとか。
中川: 「未来のミライ」の中でも、くんちゃんの本棚に並んでいるのはすべて実在の本なんですよね。
細田: 映画の中に映っている本棚には、歴史的名作から現代の絵本まで取り混ぜています。
亀山: この『オニババ対ヒゲ』もその本棚の中の1冊として並んでいるんです。くんちゃんが本棚から手に取って広げるシーンが描かれるわけだから、大きさや紙の質感がどうなっているのかも重要だし、だったら表紙と見開きだけじゃなく1冊まるごと作らないと、と思ったんです。
中川: 私たちが絵本作家でなかったら、ビジュアル重視、インパクト重視で、映画の中に登場するカットだけを描けたかもしれない。でも、私たちも絵本をこれだけ作ってきたというプライドがあって(笑)。見せかけだけの絵本づくりをするのは嫌だなと思ったんです。
───絵本の内容はどのようにして決まったんですか。
細田: 表紙はすぐに決まりましたが、内容については難航したんですよね。
中川: でも、タイトルが「対ヒゲ」なので、何かしら戦う(笑)、対決するんだろうということは決まっていましたね。ただ、それがどの程度の対決なのか。対決はラストにもってくるのか、とか、いろいろ話し合いましたね。
亀山: 「オニババ」と「ヒゲ」なので、これは夫婦ゲンカだよね、という話が方向性が定まる最初のきっかけでしたね。
細田:そこからさらに紆余曲折した後で、「言葉がない絵本にしよう」という話になって。そのときが、やっと「見えた」という瞬間だったんですよね。まあ、実際には擬音を使っているから言葉はあるんですが。
亀山: 監督は「現代の絵本にしてほしい」と言っていましたね。「昔々、あるところに……」みたいなのはやめましょう、と。僕らtupera tuperaの絵本がまさにそうで、「どこどこに行きました」「誰々がいました」という語り方はしない。
細田:そうそう。そこもすごく大事だったんです。映画の中では、くんちゃんは本棚から、英米児童文学をまるまるパクったみたいな絵本を一度取り上げてからそれを放り投げ、『オニババ対ヒゲ』を選ぶんです。あのシーンはなんとなくそうしたわけじゃないんです。 「子どもにはこういうのを見せておけばいいよね」みたいな本が巷にはあって。でも、果たしてそういう本を子どもは積極的に選ぶんだろうか。そんなものは子どもには通用しない、といつも思っていて。くんちゃんはそういう本にはまったく興味がないから放り投げ、そして正反対の絵本を手に取る。くんちゃんを通して大人に支配されていない子どもを表現したかったんです。子どもをなめているような文化にぜんぜん反応しない、そういうくんちゃんであってほしくて(笑)。