『ばけばけばけばけ ばけたくん』(大日本図書)発行以来、大人気のおばけの子、ばけたくん。「ばけばけばけばけ……」と舌をかみそうになりながら読みはじめると、子どもは笑顔になります。
何しろ食いしん坊のばけたくん。いつもこっそりどこかでつまみぐいをして、食べるとその食べ物に変身しちゃうんです! いちごを食べればつやつやのいちご、いくらを食べればぷっちぷちのいくら、納豆を食べればねばねばの納豆に?!
変身が楽しい「ばけたくん」シリーズ、誕生10周年を記念して、作者の岩田明子さんにお話をうかがいました。
●愛される「ばけたくん」
───『ばけばけばけばけ ばけたくん』発行からちょうど10年が経つのですね。シリーズ誕生10周年おめでとうございます!
ありがとうございます。2009年に1冊目が出版されるときに、やりたいことを全部この1冊に込めようという思いで作って、「全部やったぞ!」という達成感もあったので、シリーズ化は考えていませんでした。みなさんの声で2冊目を描くことになり、その後、何冊ものシリーズになるなんて、自分でもびっくりしています。
- ばけばけばけばけ ばけたくん
- 文・絵:岩田 明子
- 出版社:大日本図書
おばけのばけたくんは、とってもくいしんぼう。おいしそうなにおいがすると、ふわふわ、ふわ〜りとんできて、パクパクつまみぐい!今日も夜中の台所にやってきました!キャンディー、いちご、スパゲッティー。「いただきま〜す!」するとあれあれ・・・ばけたくんのからだが、食べたものにかわっちゃった!?
───岩田さんにとって『ばけばけばけばけ ばけたくん』は、現在販売中の絵本の中では一番最初に描かれた絵本ですよね。「ばけたくん」が人気者になった実感はありますか?
そうですね。いつの間にか、自分が思っている以上に多くの人が知っていることに気づいて、「なんでみんな、ばけたくんのこと知ってるの!?」と驚くことがあります(笑)。
そもそも布団の中で、息子に寝る前の物語として語っていたキャラクター(詳しくは次ページへ!)のばけたくんが、「みんなが知ってるばけたくん」になって、作者としてありがたいですし、不思議な感じです。
子どもたちが「ばけたくんは本当にいる」と思って、「ぼくのおうちにも来てね」とハガキやお手紙をくれたり、「つぎは、これを食べたらいいんじゃない?」と提案してくれるんですよ。うちに来たら何を食べさせてあげようかと考えてくれるみたい(笑)。
そんなお手紙をたくさん読むと、「ばけたくん」が受け入れられているのを実感します。
───絵本ナビでレビューコンテストをしたときも、レビュー投稿がたくさんありました。ばけたくんは5歳だと言う子に、お母さんがなぜ?とたずねると、ぼくが5歳だからと。ばけたくんを同い年のお友だちのように思っているんですね。
本の中にばけたくんの年齢は書いてないけれど、そういうふうに子どもの中でそれぞれ受け止められているんですね。きっと、描いた私も知らないところで、知らない子のお友だちになったりしているんだろうなあ……と考えると嬉しいです。
───初めてばけたくんを見たとき、キャンディーを食べたらキャンディーそのものに化けてしまう意外性と、ぷちぷち、ねばねば、触感が伝わってきそうな感じが衝撃的でした(笑)。
そうですね。くるくる、にゅるにゅる、ねばねばとか、感覚の違いをなるべく全部1冊に入れたいと思って、いろいろ考えました。
當田(大日本図書・編集者):シンプルでナンセンスで、私も初めて見たときは驚きましたし、おもしろいなと思いました。表現が大胆で、思い切りよく描かれた気持ちよさが伝わってくる。これは子どもが大好きだろうと思いました。
1冊目が出た後「2冊目の予定はないの?」と聞かれて、シリーズ化を考えていなかったのでびっくりしましたが、同時に納得もしました。「おもしろい」という読者の声が聞こえてきて、子どもたちが「ばけたくん」を楽しんでいることが伝わってくるんです。
そこで1 冊目の完成度が高かったからどうかな……と思いつつも、岩田さんに「2冊目、やってみませんか?」とお聞きしたら、やっぱり「えっ、1冊目で全部やっちゃったし……」というお答えで(笑)。
でも読者がきっと待ってるから……と思っていたら、「ラフを描いてみました」と岩田さんが! すごく嬉しかったです(笑)。編集者として、おそらく2冊目を出せば、3冊目も……という話になるだろうと判断して、岩田さんには2冊目と3冊目を同時に考えていきましょうとお伝えしました。
●食べ物の「つや」と、言葉
───そうやって出来たのが『ばけばけばけばけ ばけたくん おみせの巻』(以下『おみせの巻』、2011年刊)と『ばけばけばけばけ ばけたくん おまつりの巻』(以下『おまつりの巻』、2012年刊)ですね。
いくらのつぶつぶしてつやっとした感じや、とうもろこしの、醤油が焦げた香ばしいにおいが漂ってきそうな絵に、感激しました。
- ばけばけばけばけ ばけたくん おみせの巻
- 作・絵:岩田 明子
- 出版社:大日本図書
おばけのばけたくんは、とってもくいしんぼう。 そして、食べたものに姿が変わってしまうクセが! 今日は真夜中のお店にやってきました。ぶどう、たいやき、うめぼし…と、 パクパク食べるばけたくん。さあ、いったいどんな姿になっちゃうの? そして、最後はどうなっちゃうの〜!?
- ばけばけばけばけ ばけたくん おまつりの巻
- 文・絵:岩田 明子
- 出版社:大日本図書
大人気絵本『ばけばけばけばけ ばけたくん』の第3弾です! おばけのばけたくんは、とってもくいしんぼう。 そして、食べたものに姿が変わってしまうクセが! 今日はお祭りにやってきました。チョコバナナ、かきごおり、たこやき……いろんな屋台で、 パクパクパクパク食べるばけたくん。そして美味しそうな姿に大変身。でも、夢中で食べてたら 「あっ、おばけ!」って、見つかっちゃった!いったい、どうなっちゃうの〜!?
食べ物をおいしそうに見せるには「つや」と「焦げ」が大事だなって思います。やっぱり絵に「つや」を入れるとおいしそうに見えますよね。
いくらに化けたばけたくんは、今見ると、後ろにもいくらがあって厚みがありますねえ……(笑)。かなり時間をかけて、頑張って描いたと思います。今描こうとしたら、こんなふうに厚みたっぷりには描けないかもしれないですね(笑)。
───『おみせの巻』制作中の紆余曲折は、以前インタビューでお聞きしましたが、『おまつりの巻』はどうだったのですか?
「おまつり」というテーマはあるよねと、当初から話していたんです。ばけたくんが、おまつりで食べたり飲んだりするのは楽しそう、と。『おみせの巻』を作る際は、方向性が定まらず、迷走しました。くわしくは以前のインタビューを読んでいただけたらと思うのですが、『おまつりの巻』はその次だったので、楽な気持ちで、割とすんなり出来たような気がします。
───シリーズを通して大変だったことはありますか?
言葉の表現は毎回難しいです。たとえば1冊目でぶつぶつ、ぽこぽこ、にゅるにゅる、ぐるにょろりん……といった言葉が出てくるのですが『おみせの巻』では、ぷるんぷるん、ぷにゅぷにゅ、つぶつぶ。『おまつりの巻』では、ぽこんぽこん、ぶっちぶちとか、ありとあらゆる、いろいろな表現をつかっています。でもだいたい私が、にょろにょろしているのとか、ぶつぶつ、ぷちぷちしているものが好きだから、似てきちゃうんですよね(笑)。
同じ表現があると、當田さんが「ここで出てきましたよ!」ってすぐ見つけてくださるんですよ(笑)。そう言えばそうだった〜と思って、また考え直します。似たニュアンスでも、全く同じ表現は使いたくない。じゃあここはどんな言葉にしようか、と。日本語はオノマトペが多いから、作っちゃったり(笑)。ただ、読みやすさやリズムはすごく意識して、何度も検討しています。
當田:それと、ばけたくんのセリフも、全部「おいしい」「うまい」じゃなくて変化をつけるので大変だと思います。「おいしそう」「うまそう」「あまそうだ」「これもすき!」とか、どう表現するかは悩みどころですよね。
───たしかに「ありゃりゃ」や、梅干し食べて「うぴょぴょぴょぴょ〜〜〜!!」、カレーのシーンは「こりゃ うまい〜〜〜」はインパクトがあります。「とろ〜り とろとろ だ〜らだら」とカレーに化けたシーンが好きな子は多いと思います!