絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  祝! 10周年記念! くいしんぼうのおばけの子「ばけたくん」シリーズ岩田明子さんインタビュー

スパゲッティが描きたかった

───最初にばけたくんが誕生したときのことを教えてください。

まだ息子が幼稚園に通っていたとき、毎晩息子に「ばけたくん」というキャラクターのおはなしを即興で話してあげていたんです。息子の通う幼稚園に、きっと毎晩おばけたちが来ていて、夜の間は「おばけのようちえん」になっているよと。そのおはなしが終わったら、電気を消して寝る……という、寝る前の約束みたいになっていました。

───そのときからばけたくんは、食いしん坊だったんですか?

おばけの男の子で、食いしん坊ではあったけど、そのときはまだ「食べて化ける」設定ではありませんでした。夜の幼稚園でいたずらして、子どもの上履きをこっそりなめたりしているよと息子には話していました。絵本になる前から、「ばけたくん」というキャラクターが私の頭の中にいたことは確かです。

当時、子どもと絵本を読むようになるまでは知らなかった、絵本のおもしろさや楽しさに魅せられて「絵本を描きたいな」と思っていました。子どもの本専門店「メリーゴーランド」で行われていた「絵本塾」に通うことになるのですが、ラフの提出日が迫るのに何も思い浮かばなくて焦っていたんです。「自分は何を描きたいのかな」と考えていたら、ふと「スパゲッティ描きたいなあ」と思いました(笑)。

小さい頃、カレンダーの裏に、スパゲッティをぐるぐる描いていたことがあって、それがすごく楽しかった思い出があるんですよ。このスパゲッティのうしろに、こっちのスパゲッティが通って……という感じで迷路みたいなスパゲッティを描いていた楽しさがよみがえって、「あ、スパゲッティなら、私は描きたいなあ」と発見しました。

そのとき「時間がない」と焦っていたこともあって、たまたま、すでに頭の中にあったキャラクターのばけたくんと、スパゲッティがぱっとくっついたんです(笑)。そうだ、合体させよう! ばけたくんがスパゲッティ食べて、スパゲッティに化けちゃったらどうだろうと思いつきました。おばけだから化けてもいいし、色のきれいな、子どもたちが好きそうなものを食べて、どんどん食べ物に変身していくのはおもしろいかも!と、イメージを膨らませていったんです。
そのときにたぶん初めて「ばけたくん」の形が生まれました。目がきょろっとして、両手があって、しっぽのようなものがあって……という、今のばけたくんとほぼ同じだと思います。


(『ばけばけばけばけ ばけたくん』より)

───スパゲッティになるばけたくんが最初だったんですね。口のまわりがトマトケチャップの乾いた感じで点々と赤くなっているのがリアル……(笑)。

子どもって食べるとそうなりますよね。あと、麺って魅力的だと思う(笑)。

───『スパゲッティがたべたいよう』(ポプラ社)や『まほうつかいのノナばあさん』(ほるぷ出版)……たしかにスパゲッティが出てくる絵本って子ども心に印象に残っています。伸びる感じがおもしろかったり、食べたくなりますよね!
でも岩田さんは「描きたくなる」のですね。どんな画材で描かれているのですか?

アクリル絵の具です。ナポリタンの細かい粒みたいなものも、とんとんと刷毛で叩くようにして、絵の具で粒を描いています。ばけたくんの体の輪郭線は、ぎざぎざの味わいのある線を意識して、細いペンで重ね描きをしています。

───「うちの子はばけたくんが大好きです」「子どもが手放したがりません」という声が多いようですが、「ばけたくん」の絵本に触っていたいとか、持っていたいという、親密な感じが子どもたちにあるのかもしれませんね。頭よりも、体で「おもしろい」と感じているのかも……!

私自身、体がもぞもぞする肌の感覚を描きたいなと思っているので、それは嬉しいです。食べ物を食べて体が変わっちゃうとき、だんだんもぞもぞ変わっていく、気持ち悪い感じってあるんじゃないかなあと思って(笑)。きっとスパゲッティならくにょくにょした感じだし、ソーダならしゅわしゅわ……と肌が感じるかもしれない。それが伝わればいいなあと思って描いています。

───次々食べて、もぞもぞ、くにょくにょと変身するばけたくん。最後のオチでは、ぱっと消えちゃうんですよね。

ラフを作った当初は、ばけたくんがお母さんにつまみ食いしたのを怒られて、お風呂で洗って落とす……という物語風のオチで描いていましたが、だんだんシンプルになっていきました。このオチになるまで1年くらいかかったと思います。


「はい、きえまーす」(『ばけばけばけばけ ばけたくん』より)

『かくれんぼの巻』が一番大変でした

───最初の3冊は背景が真っ黒で、シンプルな展開が共通しています。
『ばけばけばけばけ ばけたくん たんじょうびの巻』(以下『たんじょうびの巻』、2015年刊)と『ばけばけばけばけ ばけたくん ばけくらべの巻』(以下『ばけくらべの巻』、2017年刊)の2冊は、背景が描かれているストーリー物ですね。
探し絵でたっぷり遊べるしかけ絵本『ばけばけばけばけ ばけたくん かくれんぼの巻』(以下『かくれんぼの巻』、2016年刊)も人気ですが、これまで描いた中でどれが一番大変でしたか?

原画を描くのは、『かくれんぼの巻』が一番大変でした! いつもより大きいサイズな上に、片方が開くタイプのしかけ絵本なので、描かなきゃいけないページ数が多かったのに、私自身がそれをちゃんと認識できていなくて……。というか、初めてで制作にかかる時間の見積りを間違えて「(原画を)4か月で描けます」って言っちゃったのよね……。本当にすごく忙しかったのを覚えています。

ばけばけばけばけ ばけたくん かくれんぼの巻
ばけばけばけばけ ばけたくん  かくれんぼの巻の試し読みができます!
作:岩田 明子
出版社:大日本図書

ばけたくん、きょうは おばけまち しょうてんがいで つまみぐいです。 パンやさん、ケーキやさん、やおやさん…。いろいろなお店でパクパク。でも、たべるとばけるばけたくん、今回もやっぱりばけちゃった! しかも、お店のなかにまぎれてしまったから、さあ、たいへん! ばけたくん、どこにいるかわかるかな!? 人気の「ばけたくん」シリーズから、お店の中にかくれたばけたくんをさがす絵本が登場! ひとりでも、親子でも、家族でも、友だち同士でも愉しめます!

───それは大変……! 『かくれんぼの巻』のアイディアは編集者の當田さんからだったのですか?

當田:はい。「ばけたくん」は探し絵があうだろうな、きっと楽しいだろうなと思ってご相談しました。シリーズ最初の3冊のパターンでもなく、『たんじょうびの巻』のようなストーリー物でもない、別なパターンとしてやってみませんかとお聞きしたら「描いてみたい」とおっしゃったので、では片方が開くタイプでしかも大きなサイズでとお願いしたんです(笑)。


(『かくれんぼの巻』より)

───「描いてみたい」と思ったのは?

おばけ界にありそうなおもしろいパンが並ぶ光景が浮かんで、パン屋さんを描いてみたいなと。それは楽しかったんですけど……どこが大変だったかと言えば、やっぱりスーパーマーケットの場面かな(笑)。
棚の配置をインターネットで調べたり、ラフを描きながらスーパーに行ってメモ取ったりして、だんだん煮詰めていきましたが、今考えると時間がない中でよく描いたなと思います(笑)。お菓子の名前やアイディアをどんどんメモして片っ端から描きました。


「のっぺら棒」に「バケルチョコ」(「ハゲルチョコ」が混じっています!)、「ひとつぶなめるとあらフシギ!キエ〜ルキャラメル」「ひとくいチョコ」……。(『かくれんぼの巻』より)


「おばけ すうじ かいどくひょう」(『かくれんぼの巻』より)

───「おばけすうじかいどくひょう」で値段を解読するのも楽しかったです!
品物に顔がついているものがたくさんあって、ばけたくん探しに苦労しますが、ばけたくんは手がかわいいですもんね(笑)。絵探しのときには手がポイントですね。

手が短いからポーズが限られてきちゃうんですけどね(笑)。


イカに化けたばけたくん。つやつや感がたまりません……。(『かくれんぼの巻』より)

『たんじょうびの巻』と『ばけくらべの巻』はストーリー物

───最初の3冊と『かくれんぼの巻』は縦長ですが、横長のストーリー絵本タイプが『たんじょうびの巻』と『ばけくらべの巻』ですね。

そうなんです。『たんじょうびの巻』で初めて、ばけたくんの家族とお友だちを描きました。お父さんとお母さんと、妹のばけなちゃん。友だちのこつこつさん、一本足のかさじろう、カッパのかーたろうが登場します。

ばけばけばけばけ ばけたくん たんじょうびの巻
ばけばけばけばけ ばけたくん たんじょうびの巻の試し読みができます!
作:岩田 明子
出版社:大日本図書

くいしんぼうな、ばけたくん。きょうは、まちにまった ばけたくんの たんじょうびです! だいこうぶつが いーっぱいで、ぱくぱく むしゃむしゃ、いっぺんに たべたら…あらららら! だいじょうぶ?? とおもったら、こんどは みんな いっしょに…ありゃりゃりゃりゃ!? ばけたくん、こんかいも たのしい すがたに たくさん ばけちゃいますよ!


ばけたくんの家族が初登場!(『たんじょうびの巻』より)


こつこつさんたち登場シーン。(『たんじょうびの巻』より)

がいこつのこつこつさんは、私が描きたい!と言ったんですけど、苦労しました。小さな人体模型を買って参考にしながら描いたんですけど……。骨の本数がページによって違ってはいけないし、そもそもイスに座った姿はどうなの? カップを持った姿はどんなふうになるの?と、とても難しかったです。大学時代に教科書として使った“デッサンのための人体ポーズ集”という感じの高価な本があって、初めてフル活用しました。

そして6冊目の『ばけくらべの巻』は夏の畑が舞台で、こだぬきのぽんたと、ばけたくんの化けくらべのおはなしです。ばけたくんが食べて化けるものの中に、野菜があまりなかったので、野菜をテーマに作りました。子どもたちの中には、野菜が苦手であまり食べられない子がいますよね。そういう子が野菜を好きになってくれたらいいなあと思って。

ばけばけばけばけ ばけたくん ばけくらべの巻
ばけばけばけばけ ばけたくん  ばけくらべの巻の試し読みができます!
作:岩田 明子
出版社:大日本図書

くいしんぼうな、ばけたくん。こんやは、やさいばたけで つまみぐい!   そこへ、こだぬき ぽんたが やってきました。 「ばけくらべ しょうぶ しよう!」と、ぽんたに いわれて、ばけたくんは「やろう! やろう!」と、おおよろこび。 とまとに、きゅうりに、なす…… いろんな やさいの ばけくらべ! さあ、ばけたくんは かてるかな!?


(『ばけくらべの巻』より)

───夜の畑で、カラフルな野菜に化けるばけたくん! ぽんたと言い合いをしながら、くらべっこするばけたくんに、親近感が湧きますね。


『ばけくらべの巻』のラフ。秋のおはなしから、ラフを練るうちに、夏の畑でのおはなしに。


あれ? ばけたくんの左右の位置が、絵本とは違う…!? やっぱりラフを練るうちに変わりました。

そうですよね。この2冊のストーリー絵本『たんじょうびの巻』と『ばけくらべの巻』を描いたことで、「ばけたくん」の世界が広がっていきました。

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岩田明子(イワタアキコ)

  • 1967年、東京生まれ。1991年、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業。2004年、子どもの本専門店「メリーゴーランド」(三重県四日市市)主催の「絵本塾」に参加。絵本作品に「ばけばけばけばけ ばけたくん」シリーズ、『とんねる とんねる』『どっしーん!』『どんどん くるくる(中尾昌稔・文)』『そらからふるものなんだっけ?』(ともに大日本図書)、『こちら たこたびょういん』(PHP研究所)、『はらぺこソーダくん』(佼成出版社)、『でてくる でてくる』(ひかりのくに)がある。
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