●とっても気になる!撮影テクニックを大公開?!
───先ほど、CGではなく撮影しているとうかがいましたが、絵本で見るとどうやって撮影しているのか全然分からなくて、すごく気になっていたんです。

今でこそ、デジタル一眼で撮って、パソコンですぐに確認できるようになりましたが、10年前は、今ほどデジカメが普及していない時代だったんです。カメラマンの持っているカメラはフィルム式の一眼レフが主流だったので、撮影中、どう映っているかを確認するには、小さなポラロイドを撮ってはコピー室に持ち込んで、さらに拡大したコピーを懸命に見るしかありませんでした。撮影したときはうまくいったと思っても、いざ拡大したコピーを見てみると、大切な探し物が隠れてしまっていたり、支えている針金が見えてしまっていたり…。1カットの撮影にあまりにも時間がかかって、終電を逃してしまうことも多かったんですよ。
どのカットにも、撮影演出の工夫があるのですが、それらは、「どこ?」シリーズ初代カメラマンの大畑俊男さん(ジオラマ専門カメラマン)のお力が大きいです。
───今日の撮影でも感じましたが、制作だけではなく、撮影にもすごい時間と労力がかかっているんですね…。どうやって撮影されたのか、すごく気になるページが何個もあるのですが、何点か教えていただいても良いですか?
もちろんです! あまり人に聞かれることが少ないので、どんどん聞いてください(笑)。

空中に浮いた不思議なトランプ。「どこ?」シリーズではおなじみの物が浮いている光景だけど、本当にどうやって浮いているの?
山形:この場面は「どこ?」シリーズの記念すべき最初の撮影で、一番大変で、思い出深い場面です。このシーンに限らず、浮いているものの多くは後ろから針金で支えているんですよ。今でこそ、レタッチ技術で後で針金を消すことが出来るようになりましたが、フィルム撮影だった当時は、針金が見えないように位置を調整して撮り直したことが数え切れないくらいありました。

透明な球体の中に入った小さな靴やコップなどの小物たち。これがCGじゃないなんてすごく不思議!
山形:これはガラスの上に、透明な半球を置いて撮影しているんです。ガチャガチャなどで使われるプラスチックの丸いケースの形状を思い出してみてください。ガラスの上の小物に、透明な半球をふたのようにかぶせて撮ると、まるで水の中のあぶくのように見えるんです。

こぼれたジュースと散りばめられた野菜。微妙に重なっていて、浮いてるようにも見えてすごい不思議!どうやって撮影したの?
山形:無反射ガラスという特殊なガラスを使って撮影しています。ジュースは手作りのスライムです。野菜や果物などは本物なのですが、撮影時、強いスポットを当てているとすぐに乾いてしまって、霧吹きで吹きつけながら撮影しました。

まるで本物の水の中にいるような水面の揺らめきと光の加減、透明のちいさな泡。これはどうやって撮影しているの?
山形:「どこ?」シリーズでは、水の表現に何度か挑戦しているのですが、この場面が記念すべき水中撮影の第1回目ですね。最初は、ジオラマの上に巨大な水槽を設置して、水を入れてバシャバシャと水面を動かし、その波紋の影を映し込もうと試してみたんです。でも、撮影すると、意外なほどまったく波紋は映らずボツ…。その後も試行錯誤を重ねて思いついたのが、波模様のガラスなんです。このガラスの上から光を当てると、まるで水の中にいるような光の揺らめきが生まれました。透明の泡は何を使っているのかときかれることが本当に多いのですが、どこにでもあるものを使っています。なんでしょう? 粒タイプの透明な芳香剤なんです。

「どこ?」シリーズに度々登場する海や砂、そして真っ青な空に浮かぶ楽しい形の雲。これはどうやって作っているの?
山形:本物の水を使うこともありますし、波模様のガラスを使うこともあります。このシーンは、ビニールシートを青のスプレーで着色して、その上からメディウムという透明なジェルを何度も塗り重ねて、海を表現しています。砂浜などのシーンで砂を使うときは、普通の砂では粒が粗すぎて撮影に向いていないので、ペット用の細かい砂を使っています。雲は綿を使ったり、パステルを使って描いたりしています。
───ありがとうございました。ずっと気になっていた謎が解けました!…でもこんなに教えていただいてよかったのでしょうか…。
全然、問題ないですよ! 先ほどお話したように、試行錯誤を繰り返して手探り状態から編み出していった方法ばかりなので、今、新たにやろうとしても、なかなか出来るものではないと思います。CGを使った方が何倍も楽だと思いますし(笑)。