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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2010.04.07

とよたかずひこさん
絵本「ももんちゃん あそぼう」シリーズ

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絵本作家とよたかずひこさんについて

─── 絵本作家になられたきっかけ、というのはあったのでしょうか?

とよたかずひこさん当り前の話でつまらないけれど、子育てです。子どもができたから。子どもがいなかったらやってない仕事だと思います。

最初の子どもができた時に、それまではイラストレーターの仕事はやっていたけれど、誰か他の人が描いた絵本を持ってくる訳だよね。僕は絵本の世界を全く知らなかったから、早く寝かしつける為に読み聞かせて。いい加減な父親をやっていたからね。その時は、その作品の世界には没頭していないわけ。だから、絵本作家になる素養は本当はなかったんですよ。

でも「ああ、絵本というのはうまい下手の世界じゃないんだ。その人の作品の世界なんだ、説得力なんだ」というのがわかってきて。僕は今、その世界に近いわけですよ。あえて下手に描こうというんじゃなくて、ほとばしるもの。自分の描きたいものの形でいくと、さっき言った様に、突然金魚がでかくなるわけですよ。僕の中では。何の違和感もなくでかくなってるわけですよ。これは図鑑描いてる人間からしたらあり得ない世界ですよ。だから、描き手も変な制約から解放されるわけですよね。そこが絵本を作っていく楽しさだよね。

─── それは本当に頭でっかちな所で考えちゃうと、「えっ、こんな絵が成り立つの」みたいに思ったりして。

そうそう、それが前にはあった。イラストレーターの世界というのはやっぱりどこかで努力のあとと技術を見せないと申しわけないという気持ちがあるの。かなりカチカチになって描いてた部分があった。
でも絵本では、成り立つんだよね。子どもはそこら辺は割とクリアしちゃうんだ。子どもは絵の好き嫌いってないじゃないですか。最初はとりあえず何でも受け入れるよね。大人のほうが「この絵、嫌い」とかって、はじめからガードしちゃうけど、子どもは柔軟で、この人の絵は嫌いとか言わないよ。いったん全部自分でとにかく受け入れる。

だから例えば『ぐりとぐら』はすごいんですよね。この間本屋さんに行った時、たまたま僕の前で、ちょっと不良っぽい男の子が彼女を連れて、児童書の脇をパッと通った時、「あっ、まだこの本出てる!」って言うんだよ。何だろうって思ったら、『ぐりとぐら』。出てるよ、そりゃあって(笑)。でも彼にしてみりゃ、そこで終わってるんだよね。幼児期からずっと絵本から離れてたんだけど、親に読んでもらった記憶だけがあるわけだよ。戻ってきたんだもん。でもそれって作者冥利だよね。「この本、まだ出てるんだ」って言って、彼女に説明するわけ。やっぱり子どもの本のありがたさだよね。
だから誰が描いて、今現在その本がどう評価されてるのか。彼にとっては何の問題もないんだけど、でも何か一瞬記憶が戻るわけだよ。誰かに読んでもらったっていう記憶。これはすごい力だなあと思ったんです。絵本の力というのが。

─── 新しい読者がどんどん新しく生まれて、なおかつその人たちが20年30年たって、どこかに引っかかってるというのが、絵本のすごさですね。

ありがたい世界に来たなって、僕は素直に感謝するんです。小学校に読み聞かせに行って、1〜6年生まで授業1時間ちょっとしたって、何も伝えられませんよ。だけど、彼らに、そういえば小学生の時に変なおじさんが来て読み聞かせしてくれたよなあ、っていうのがどこかに残ってくれればいいな、というぐらい。そこで何もかも伝えようっていうんじゃなくて、今こういう作品を作ってるんだ、こういう仕事をしているだよと言って、本ができるまでのプロセスを見せてあげたりすると、小学校5、6年生はすごく面白がる。1時間ちゃんとつきあう。小学校6年生で僕より背がでかいわけですよ。こんな男にももんちゃん、大丈夫かなって思うわけ。「なんで俺にももんちゃん読み聞かせするんだよ」って、僕が6年生だったらそんな感じするからね。僕は、幼児期に読み聞かせをする時は、集中力がながくは続かないんだから出入りは自由にしているんです。それで騒いだって僕は全然気にならない、最初の出会いで絵本は楽しいんだなあっていう記憶が残ればいいの。そこで「さあ、聞きなさい」という雰囲気よりは、楽しかったなあって。僕はその記憶を残したいわけ。それを6年生にやる時も、同じパターンにするの。授業なんだけど、特別学校の先生の許可を受けてるから出入り自由で、眠くなったらそこで寝ていいからってやる。そうするとすごくリラックスするわけ。だから出ていく子はいないよね。

─── 絵本作家になられて良かったな、とういうのはそういう部分ですか?

今言ったように、ひと様の子どもと出会える。なおかつ、保育園や幼稚園、学校に行ったりするのは、割とハードルが高いんですよ。誰でもいいっていうわけじゃない。多分僕が絵本作家でなくて、読み聞かせちょっとさせてって言っても、そううまくいかない。でも呼んでくれるわけですから、そうしたら行かない手はないですよね。

─── では、制作段階で一番面白いと思う瞬間はどんなときですか?

朝仕事場に来て、一人でずっとやってるんだけど全然飽きないんですよ。

─── じゃあどこの段階も、全部おもしろい?

とよたかずひこさん仕事ですからね。そんなにおもしろいはずはない。苦しいけど楽しい。楽じゃないですよ。でも飽きないんですよね。昼飯も夕飯も弁当作ってもらってるきているんです。ということは、それまでずっと仕事場にいるわけですよ。だから夕食になったら本当は帰らなきゃいけないんだけど、だんだん延びてきちゃって。だからそれぐらいおもしろいわけ。もう帰るのがもったいないぐらいまで、ずっと。だから労働時間にしたらものすごく長い時間労働やってますよ。このところですけどね。
僕は50過ぎてからだからね、本格的に絵本作品作り出したの。だから編集者にも「とよたさんは、遅咲きですね」って言われるんですけど。

─── では、最後に絵本ナビ読者の皆さんにメッセージをお願いしてもいいですか?

親が読み聞かせしてあげる時間って短いんです。今僕は反省ばっかりですよ。もう少しちゃんとやっとけばよかったなあというのが。今、図書館なんかで読み聞かせによく行っているんだけど、親子一緒にって呼びかけているんです。親子一緒にっていうと、最近、この2〜3年は若いお父さんが来るようになった。これは顕著。昔はお父さんが来てても、何か身の置き場がないような感じでさ。僕はその気持ち、よくわかるの。自分がそうだったから。でも、それが今多くなって、僕、すごくいいなと思う。今の20代の若いお父さん、自然体で来てるんです。無理してないんです。それがわかった。

そして、今お父さん、お母さんが一緒にひざの上にのっけて、そこで子どもに読み聞かせる時間って、本当に短いから、この時間を大事にしてねって思いますね。その間に絵本があったら一番いいなという感じ。絵本をツールにして、親子一緒に向き合っててねって。黙ってても娘はすぐお嫁に行っちゃうし、男の子は当然離れていく。それは自然だよ。だからこの時期だけ。うんと大事にしてね。だから絵本の内容なんかどうでもいいんだ。逆に言うとね、何かそこであればいい。親子の向き合う時間が、その時間を共有できるというのは子にとっても幸せだけど、親にとってもうんと幸せな時期なんだ。

非常に大変なことはいっぱいあるよ。面倒くさいなあ、わずらわしいなっていっぱいあったことを含めても、子育てというのは、とても貴重な時間で二度と体験できない。孫とは違うんだよ、やっぱり。だからその時期をうんと大事に。意識的にその時間を、今いるんだっていうことを頭の中で意識したほうがいい。この子はすぐ大きくなっていくんだよっていうことをわかった上でやると、愛おしいじゃない。この時間そのものが。

───ありがとうございました!絵本ナビ読者に向けて直筆メッセージも描いてくださいました。じっくり考えながら・・・

直筆メッセージ 直筆メッセージ

こんな素敵なイラスト入りメッセージが完成しました!
直筆メッセージ

記念撮影
最後に記念にぱちり。

<取材を終えて・・・>
絵本作家になった事で学校などに招かれて、沢山の子ども達に会えるのが嬉しいというのが、何ともとよたさんらしいエピソードですよね。本当に子どもが大好きな様子が伝わってきます。
実はずっと以前にお会いした事があったのですが、その時のことをとてもよく覚えてくださっていたとよたさん。
一緒に仕事をされた方はみんなファンになってしまう・・・と評判なのも納得なのです。
個人的に「ももんちゃん」への思いの丈を語りながら、とても楽しい時間を過ごさせて頂きました。

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とよた かずひこ【とよた かずひこ】

  • 1947年宮城県生まれ。早稲田大学第一文学科卒業。主な作品に『でんしゃにのって』などの「うららちゃんののりものえほん」シリーズ全3巻、『バルボンさんのおでかけ』などの「ワニのバルボンさん」シリーズ全5巻、『ブップーバス』などの「あかちゃんのりものえほん」シリーズ全4巻(以上アリス館)、『やまのおふろ』などの「ぽかぽかおふろ」シリーズ(ひさかたチャイルド)、『どんどこももんちゃん』[第7回日本絵本大賞]などの「ももんちゃんあそぼう」シリーズ、『おにぎりさんがね・・』などの「おいしいともだち」シリーズ(以上童心社)がある。紙芝居作品に『でんしゃがくるよ』『もみもみおいしゃさん』(以上童心社)などがある。


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