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東京とトロントで。絵本を描くこと。みやこしあきこ×シドニー・スミス インタビュー2019/11/26
『よるのかえりみち』で、2016年度のボローニャ・ラガッツィ賞特別賞を受賞した、みやこしあきこさんと、『うみべのまちで』で、2018年度のケイト・グリーナウェイ賞を受賞したカナダ在住の絵本作家、シドニー・スミスさん。
東京とトロント、海を隔てて絵本作家として活躍されている同世代のおふたりは、ボローニャ・ブックフェアで出会って以来、親しく交流をつづけています。
お互いの作品のファンであるというおふたりに、「絵本を描くこと」について、おはなしをうかがいました。絵本作家としてどんな日々を過ごしているのでしょう。日本とカナダの同世代絵本作家インタビュー。その様子を全3回にわたってお届けします。 インタビュー・構成=沖本敦子 翻訳=岩城義人
―― 絵本作家としてのキャリアは、今年でどれくらいになりますか?
みやこし: 『たいふうがくる』(BL出版)で絵本作家としてデビューしてからは10年になります。でも、美大にいた頃からずっと絵本は描いていました。
シドニー: はじめて絵本を描いたのは2004年。まだアートスクールに通っていた頃です。そこから数えると、絵本に関わって、今年で15年になります。
―― 子どもの頃から、絵本作家になりたかったのですか?
みやこし: 子どもの頃から、絵を描くことが大好きでした。ナウシカや、「こまったさん」シリーズの絵を模写して、友だちに勝手にプレゼントしたり。わたしは早生まれでぼんやりしてたんですけど「絵だけは上手なんだぞ」って、こっそり思っていました。予備校時代に『よあけ』(ユリー・シュルヴィッツ 瀬田貞二訳 福音館書店)を読んで感銘を受け、絵本を描きたいと思うようになりました。美大に入ってからは、年に1冊絵本をつくり、大学2年生以降は、毎年必ず「ニッサン童話と絵本のグランプリ」(現在の「日産 童話と絵本のグランプリ」)に応募して、毎年必ず入賞していた。野心がありました(笑)。
シドニー: 子どもの頃は、とりたてて絵がうまかったわけではありません。地元のノヴァ・スコシアの学校には、ぼくより絵がうまい子がたくさんいました。つづけてこられたのは、両親や目標となる人たちのおかげです。もちろん、絵を描くことはずっと好きでした。子どもの頃は、怪物やヒーローなどの架空のものを描くことが多かったと思います。ひとりになりたいときは、そうやって自分だけの世界にひたっていました。
―― 絵本作家として、いまの暮らしはいかがでしょう?
みやこし: 最高です。朝起きて「今日なに描こう」と思いながら、自転車で15分くらいかけてアトリエに行きます。日によっては、入谷にある版画工房で作業することも。集中できる時間帯は午前中。集中して描いたり、描きおえた作品を並べて、ゆっくり眺めたり。アトリエは、平澤朋子さん(@HIRASAWA_Tomoko)と、平岡瞳さん(@hitomihiraoka)との共同アトリエです。制作のあいまにおしゃべりしたり、お茶をのんでおやつを食べたり。制作は11時くらいから夕方まで。自宅で描いていた頃は、夜中まで作業をしつづけることもありましたが、アトリエをつくったことで、家に帰ってからは、本を読んだり、ドラマを見たりして、のんびりと過ごせるようになりました。
―― シドニーさんはいかがですか?
シドニー: 充実しています。現在は絵本作家として自立し、父親でもある。自分は恵まれていると思います。好きなときに好きなことをし、時間を気にして仕事をすることもありません。手をとめたときが休憩時間です。とはいえ、休憩中は息子になにか描いてあげています。それがいまのぼくの生活ですが、仕事でつまずくときもありますし、うまくいかないと、やはり悩みます。仕事をするのは、朝が多いです。ただし、よく眠り、脳の栄養になるものを読み、コーヒーを飲み過ぎなければ、という条件つきですが。
ランニングなどして体を動かしていると、意外なアイディアがでてくることもあります。そういうときは気持ちがいいですね。ぼくのアトリエは自宅にあります。キッチンのとなりの部屋で、身近に家族がいます。じつはいま、その家族がふえつつあって。2、3週間のうちに赤ちゃんが生まれるんです。なので、いまはできるだけ家にいて、仕事をしながら、その子をむかえる準備をしています。
―― アトリエの中に、インスピレーションを与えてくれるものや、心を和ませてくれるものはありますか?
みやこし: アトリエ仲間の机に新しいスケッチが貼ってあったり、出来たての本が置いてあったり、花が飾ってあったり。家でなくアトリエで絵を描くようになってから、そういう仲間とのやりとりで、嬉しい気持ちになります。
シドニー: 絵筆にペン、インクに絵具でしょうか。高価ではありませんが、ぼくにとっては特別なものです。あと、たくさんの絵本もあります。古いものから新しいものまで。ときどきぱらぱらめくって、想像力を刺激しています。
――絵本の制作過程で幸福感を味わうのは、どんなときでしょう?
みやこし: わたしが絵本をつくるときには、ストーリーよりも先に、まず描きたい絵のイメージや世界観がつよくあります。そのピースを物語に落とし込んでいって、編み上げていく。最初はイメージだけで漠然としていたものを、すこしずつ肉付けしていくことで、その世界が自分の手の中でかたちになっていく過程は、とても楽しいです。
シドニー: クリエイターならきっとだれもが経験する、言葉にできない瞬間があります。不意に訪れる瞬間ですが、そのとき頭の中からいっさいの余計なものが消える。まるで、自分と別のだれか(なにか)が共同作業しているような、崇高な時間です。
――作業が煮詰まることはありますか? そんなときはどんな風に過ごしますか?
みやこし: できないときはできないので、あまり無理して作業を進めないことが多いです。常時3冊くらいの絵本を進めているので、他の作品の制作にうつったり。うまく進まないときは、まだ時がきていない、という感じ。しばらく時間をおいて熟成させると、思ってもいない方向に物語が変わっていったりすることも。わたしの絵本づくりには、どの作品もある程度の時間が必要です。どれも3年くらいはかかるかな。
煮詰まったときは、伊勢丹に行って洋服を見ます。すてきな着こなしをしている人の、色合わせなんかをよく見ています。「あの色の組み合わせを、絵の構成で使ってみよう」とか、盗っ人の目で見ています(笑)。あと、時間がとれるときは旅行に行きます。『ぼくのたび』の制作中も途中でハワイに1回、絵本が出てからは与論島に行きました。
シドニー: ぼくが煮詰まったときは、アート・ギャラリーや、オズボーン・コレクション(注1)を見に行きます。オズボーン・コレクションは、トロントにある子どもの本の保管所です。そこへ行くと、いつも新しい発見があります。あと、近所の植物園へも行きますね。まるで室内のジャングルで、散歩しているととても心が落ちつきます。
注1 イギリスの州立図書館の館長であったエドガー・オズボーン氏が、メーブル夫人とともに蒐集した、主にイギリスで出版された子どもの本の古書コレクション。トロントの公共図書館の司書であったリリアン・スミス(1887-1983)の仕事ぶりに感銘を受けたオズボーン氏は、夫人の死後、コレクションをトロント公共図書館へ寄贈。その後も蒐集されつづけたコレクションは、現在では1万5千冊を超える。コレクションはトロント公共図書館のリリアン・スミス分館
https://www.torontopubliclibrary.ca/lillianhsmith/ (@TPLLillianSmith)で閲覧が可能。
HP: http://miyakoshiakiko.com twitter: @akikomiyakoshi
カナダのノヴァ・スコシア州郊外に生まれる。ノヴァ・スコシア美術デザイン大学卒業。ジョナルノ・ローソン原案の文字のない絵本『おはなをあげる』(ポプラ社)で、カナダ総督文学賞(児童書部門)、ニューヨークタイムズ・ニューヨーク公共図書館絵本賞など、さまざまな賞を受賞する。海辺の炭鉱のまちのいちにちを描いた『うみべのまちで』(BL出版)で、2018年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞。2児の父。家族とともにトロントに在住。 twitter: @Sydneydraws
提供:ブロンズ新社公式ブログ
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