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連載

こんにちは!世界の児童文学&絵本

2019/12/12

【連載】こんにちは!世界の児童文学&絵本 チェコ編(翻訳家・木村有子さんに聞きました!)

【連載】こんにちは!世界の児童文学&絵本 チェコ編(翻訳家・木村有子さんに聞きました!)

世界を旅するように、いろんな国の児童書について、その国にくわしい翻訳者さんにお話を聞いてみよう!という連載です。第1回目は、かわいいアニメや雑貨で日本でもファンが多いチェコ。
翻訳家の木村有子さんに、手がけた訳書を伺いつつ、クリスマスの過ごし方や、チェコ人が愛するナンセンス・ユーモアについて教えていただきました。


木村有子(きむらゆうこ)

東京生まれ。1970年から3年間、プラハの小学校に通う。1984年から2年間プラハのカレル大学へ留学。1989年から4年間ドイツに滞在。チェコの児童文学や映像関係の翻訳、エッセイ等を通して、チェコの文化を日本に紹介。訳書に「もぐらくんの絵本」シリーズ、『どうぶつたちがねむるとき』(共に、偕成社)、『クリスマスのあかり〜チェコのイブのできごと〜』(福音館書店)、『金色の髪のお姫さま チェコの昔話集』『こいぬとこねこのおかしな話』(共に、岩波書店)など多数。



チェコ語の「こんにちは」って?
チェコの「こんにちは」は、Dobry den!
木村:「ドブリーデン!」と言います。私は小学3年生のときに、父の仕事のためにチェコに住むことになったのですが、母は「『どんぶり(丼)』って覚えればいいじゃない」と言っていました(笑)。
チェコ共和国ってどんな国?


中央ヨーロッパにある国。首都プラハは日本からの観光客も多い。市の歴史地区は1992年世界遺産(文化遺産)に登録されている。第1次世界大戦後、オーストリア・ハンガリー帝国が崩壊し、1918年にチェコスロバキア共和国が独立。第2次世界大戦後、長く社会主義体制がつづいたが、1989年のビロード革命により共産党政権が崩壊。1993年にスロバキアと分離、チェコ共和国となった。人口は日本の約12分の1(2012年統計で1051万人)。


では、チェコのおはなしや絵本、どんなものがあるのでしょうか?
かわいい「もぐらくん」シリーズ
まずは……もぐらくん(クルテク)! 絵本やアニメーションで長く愛されるチェコの国民的キャラクターです。
内田莉莎子さん訳の『もぐらとずぼん』『もぐらとじどうしゃ』(共に福音館書店、それぞれ1967年刊、1969年刊)でご存知の方もいるのでは?
2002年以降は木村有子さんが「もぐらくんの絵本」シリーズの訳を手がけています。こちらの3冊は今でも人気!

もぐらくんとパラソル もぐらくんとパラソル」 作:ハナ・ドスコチロヴァー
絵:ズデネック・ミレル
訳:木村 有子
出版社:偕成社

もぐらくんがパラソルをなおしてあげると、パラソルはうれしそうに、もぐらくんをいろんなところへ連れていってくれました。

もぐらくんとテレビ もぐらくんとテレビ」 作:ハナ・ドスコチロヴァー
絵:ズデネック・ミレル
訳:木村 有子
出版社:偕成社

テレビを初めて見たもぐらくんと森の仲間たち。この魔法の箱にすっかり夢中になりすぎたみんなを、もぐらくんが助けます。

もぐらくんとみどりのほし もぐらくんとみどりのほし」 作:ハナ・ドスコチロヴァー
絵:ズデネック・ミレル
訳:木村 有子
出版社:偕成社

もぐらくんは、偶然見つけたきれいな緑の石を空にもっていって星にしようと一生懸命。力をかしてくれたのは、三日月でした。

ズデネック・ミレルさんと木村さん
「もぐらくん」シリーズの作者、ズデネック・ミレルさんと、木村さん
ミレルさんとの交流はこの写真の2011年の夏まで10年間続いた。療養所にて。
木村:ズデネック・ミレルさんは、「もぐらくん」の生みの親。絵本作家、アニメーション作家であり、絵本は約60冊、映画はおよそ100本もの作品に携わっています。私は「もぐらくん」を訳すことになった2001年、はじめてミレルさんにお会いしました。2011年に90歳で亡くなるまで、毎年ミレルさんをたずねましたが、いつも優しく迎えてくれました。
ミレルさんの家の庭には、広々した芝生と高い杉の木と、小さな池があって、池の周囲には花が咲き、ここに小鳥がくるんだよとミレルさんが話してくれました。まるでそこらへんにもぐらくんたちが住んでいるような気配が感じられました。「もぐらくん」では、動物はもちろん、植物も魅力的に描かれます。ミレルさんご自身が小さなものに命を吹き込むように絵を描く方でした。
さて、もうすぐクリスマス。チェコではどんなふうにクリスマスを過ごしているかというと……。
心に灯りがともる『クリスマスのあかり〜チェコのイブのできごと〜』

クリスマスのあかり クリスマスのあかり」 訳:木村 有子
絵:出久根 育
作:レンカ・ロジノフスカー
出版社:福音館書店

クリスマスイブのちいさな冒険のおはなし
チェコのクリスマスイブ。小さな男の子フランタが、ひとりで教会へむかいます。イエス様の生まれ故郷ベツレヘムから届いた灯りを、家のランプのろうそくにわけてもらうのです。しかし教会で思わぬ失敗をし、あわてて逃げだすことに。それでも、とちゅうで出あった気のどくなおじいさんを助けるために、知恵と勇気をふりしぼります。小さなフランタのやさしさに、心にぽっと灯がともるようなあたたかい気持ちにさせられます。

レンカ・ロジノフスカーさん作の『クリスマスのあかり チェコのイブのできごと』は、チェコ在住17年の出久根育さんが挿絵を描いた美しい絵本です。
日本語訳のきっかけは…?
木村:『クリスマスのあかり』の原題は、「まもられた(救われた)クリスマス」という意味のチェコ語です。
2018年1月、出久根さんの個展があった東京のギャラリーで原書を見て、素敵な本!とひとめ惚れしました。そのとき買えなかったのですが、後日出久根さんからプレゼントして頂き、ゆっくり読むことができました。そうしたら、子どもの気持ちに寄り添ったいいおはなしで、読後感があたたかくて……。ぜひ翻訳したいと思っていたときに編集者から連絡をもらい、翻訳できることになったのです。
どんなおはなしですか?
木村:小さな男の子のフランタが、はじめてひとりでクリスマスのあかりをもらいに教会へいきます。はりきって出発するけれど、教会で思わぬ事態に陥ったり、帰りに花束を盗まれた気のどくなおじいさんに会ったりします。
男の子のクリスマスを待ちわびる気持ちや、失敗への戸惑い、気の毒なおじいさんを想うひたむきさや純粋さが伝わってきて、心を打たれます。原題の「まもられた(救われた)クリスマス」は、みじめなクリスマスになるところだったおじいさんのクリスマスを、フランタが救ったという意味なんですよ。
チェコでも昔に比べると長いおはなしを読める子が少なくなり、作者のレンカさんは読みやすさを工夫し、いくつもの小さな章でおはなしを区切っています。1章ずつの読み聞かせにもぴったりですよ。出久根さんの絵をすべて生かし、日本語訳でも不要なところは思いきって削るなどしながら、日本の子たちが読みやすいよう工夫しました。
チェコのクリスマスってどんなことをするの?
木村:日本ではサンタクロースがおなじみですが、チェコの子どもたちは、自分が知らない間にプレゼントを家に届けてくれるのは、幼子イエス様だと信じています。クリスマスが近づくと、チェコでは、森から切り出された大小のモミの木が広場に並び、外には鯉を売るいけすが現れます。チェコのクリスマス・イブの料理と言えば、鯉のフライとスープとポテトサラダが欠かせません。12月になると、毎日家庭でクッキーをたくさん焼いてクリスマスの準備をします。モミの木を買ってきたら、飾りつけをします。

この絵本では、フランタ少年が、12月になると父親お手製のアドベントカレンダーの引き出しを、楽しみにあけていき、イブに開けた最後の引き出しに小さなベルが入っている場面が描かれます。日本ではピンと来ないかもしれませんが、小さなベルは、チェコの人々にとってクリスマスの聖なる夜を象徴するものなのです。どこからともなく、チリンチリン……と小さなベルの音が聞こえてくると、それは幼子イエス様がやってきた合図です。子どもたちがモミの木のある部屋に急いで行くと、さっきまで何もなかったモミの木の下には、たくさんのプレゼントが置いてあり、その様子にアッと驚きます! チェコの子どもたちが、小さなベルの音をイブに心待ちにしているのには、そんなわけがあったのです。
プラハのクリスマスマーケットに並ぶ木のおもちゃの店
プラハの旧市街広場に飾られた大きなクリスマスツリー
木村:今のチェコが、チェコスロヴァキアという国だったころ、私は8歳で現地の小学3年生のクラスに編入しました。クラスの子たちは、言葉がわからなくても初日から私に興味津々で話しかけてくれて、お家や別荘に招いてもらい、一緒に手伝いしたり叱られたり、よく遊んで楽しい時間を過ごしました。チェコではクリスマスは、みんな家で過ごすのですが、チェコに行ったばかりでそれを知らなかったうちの家族はイブの夜に外食しようと家を出たものの、お店は全部閉まっていて、とうとうお腹をすかせて、ピアノの先生の家のクリスマスのお祝いにお邪魔させてもらったこともあるんですよ(笑)。
チェコでの日々のことはブログに書いているのでよかったら読んでみてくださいね。(→チェコのヤポンカ
おしゃべりや冗談が大好き! チェコ人のユーモアに溢れた『こいぬとこねこのおかしな話』

岩波少年文庫 こいぬとこねこのおかしな話 岩波少年文庫 こいぬとこねこのおかしな話」 作:ヨゼフ・チャペック
訳:木村 有子
出版社:岩波書店

こいぬとこねこはふたりぐらし.人間のおとなの生活にあこがれて,床のそうじをしたり,手紙を書いたり,ケーキを焼いたりしますが…….しっかりもののこねこと,気のいいこいぬのおしゃべりが思わず笑いをさそう,10のゆかいなお話.チャペック自身によるさし絵もたっぷり.チェコ児童文学の古典を新訳で.

木村:有名なチャペック兄弟の兄、ヨゼフ・チャペックが書いた『こいぬとこねこのおかしな話』には、ぜんぶで10のおはなしが入っていますが、どれもしっかりもののこねこと、ちょっととぼけたこいぬが、何でも人間と同じようにやってみたいと思って、実際にあれこれやってみる話です。チェコで最初に出版されたのは1929年。今も書店に平積みされ、一家に一冊あると言われるほどチェコ人に愛される本です。たとえば、ありとあらゆるふたりの好物を入れたとんでもない誕生日ケーキを焼き上げるおはなしは、多くのチェコ人が幼い頃読んで、よく覚えているみたいですよ。私自身も、小学生のときに読んだ大好きな本です。

この本も編集者から「こいぬとこねこのお話を、新訳でやってみませんか」と声をかけていただいたのがきっかけでした。かつて日本では井出弘子さんといぬいとみこさんが共訳された『こいぬとこねこはゆかいななかま』(童心社、1968年刊)が読まれていました。元日本チェコスロバキア協会理事長の井出さんと『ながいながいペンギンの話』(理論社)など名作で知られるいぬいさんのあとに新訳を試みるのは、恐れ多い気持ちがありました。でも、原書をあらためて読み直すと、こいぬとこねこのあれこれおもしろい行動や、作者のチャペックさん本人がおはなしに顔を出すというチェコ人らしいユーモアを、ぜひ今の子どもたちに知ってほしいという自然な気持ちがわいてきて、新訳にとりかかることにしました。
今の子どもたちも、小学校低学年くらいから十分楽しめると思います!
とくにお気に入りの話は?
木村:「こいぬとこねこが床をあらった話」は、私も子ども心にすごく印象的だった話です。掃除道具が見当たらないからと、こいぬがブラシ代わり、こねこがタオル代わりになって、自分たちの体で床を掃除するんです。しかも、汚れた体を「洗濯」して、物干ロープに交互にぶらさがるんです。チャペックの絵がおかしくて笑ったことを忘れられません。 チェコの人たちはナンセンスな冗談や言葉遊びが大好きです。毒気のある、ひねった会話を日常的に楽しむのがチェコ人なんです。私も、友人たちの会話がツボにハマると、お腹がよじれるくらい笑ってしまいます。なかなか伝えにくい言葉選びのおもしろさもなるべく表現したいと、訳ではいろいろ工夫しました。
実は、社会主義時代にお話の1つが検閲に引っかかり、本に収録されない時期がありました。私が子ども時代にチェコスロバキアで見ていた絵本は、ずっと削除されていた版で9話しか入っていませんでした。岩波少年文庫版『こいぬとこねこのおかしな話』の翻訳をする際に新しい原書を手に入れて、ちょっと見慣れない絵だと思ったのは、この削除されていた「こいぬとこねこが十月二十八日をおいわいした話」でした。歴史に翻弄されたチェコ人と、ヨゼフ・チャペックさんの運命についてはあとがきに書いてあります。ぜひ手にとってみてくださいね。
チェコの美しい絵本『どうぶつたちがねむるとき』

どうぶつたちがねむるとき どうぶつたちがねむるとき」 作:イジー・ドヴォジャーク
絵:マリエ・シュトゥンプフォヴァー
訳:木村 有子
出版社:偕成社

キリン、ラッコ、ニシキヘビ、アザラシ、シロクマ、ヤマネにラクダ……動物たちの眠り方はさまざま。ラッコは長いコンブをからだに巻きつけて眠るし、クジャクは木の枝の上で長い尾をたらして眠ります。他の動物もいったいどんなふうに眠るのかな? やさしく教えてくれます。イラストはみんな動物たちが眠る姿。チェコの新進の画家による美しい絵本。静かに子どもたちを眠りの世界に誘います。

木村:「チェコで最も美しい本2014年」で児童書部門の3位を受賞し、チェコで重版を重ねる人気絵本です。画家のマリエ・シュトゥンプフォヴァーさんは1984年生まれの若い作家で、本書は彼女の大学の卒業制作から生まれているんです。それぞれのページで動物たちがねむる姿が、大きく美しく、描かれています。この本は私が見つけて、素敵な絵本だったので、出版社に持ち込みました。
それぞれ生きものの生態をおさえつつも、どんな夢を見ているのかと想像がふくらむような、詩的な内容なんですよね。文章はイジー・ドヴォジャークさんという詩人・作家として有名な人が書いていますが、眠りに誘うやさしさがあります。動物たちが見る夢については、どういうふうに表現しようかと、悩みながら訳しました。上野動物園の小宮輝之園長先生も、監修者としてかかわってくださいました。
チェコ人にとって、絵本ってどんなものなのでしょう?
木村:チェコ人はよく本を贈り合います。チェコ語はチェコでしか話されていない言葉で、人口も日本よりずっと少ない国ですが、おおらかに会話を楽しむ文化があります。大人同士も本を贈り合う習慣があり、本がたくさん読まれているのです。子ども向けであろうと大人向けであろうと、カラー絵入りで美しい本が多く出版されています。子どもの頃、老舗出版社アルバトロス社が発行する、エルベン作のチェコの昔話集「金色の髪のお姫さま」を読んだときは、「こんなにもこわくて美しい本があるのか」「子どもにこんなものを読ませていいの?」とびっくりしました(笑)。映像の魔術師といわれるチェコのヤン・シュヴァンクマイエル監督の長編映画「オテサーネク」も昔話に題材を得たもので、本で読んだときの不気味さを覚えています。実は今、岩波少年文庫用にチェコの昔話を集めて選び、翻訳しているところです!

5年生の終わりに、日本での勉強の遅れを心配した父に、家族より一足先に帰国させられた私は、チェコでの日々が懐かしくてたまりませんでした。そんなとき、チェコの絵本を開くと、美しい絵があって、友だちと読んだ思い出やバビチカ(おばあちゃんの意味。ピアノの先生のお母さんが住み込みで私たち姉妹の面倒を見てくれた)が作る料理の匂いがよみがえってきました。日本でチェコの絵本を見せても、読めないものには興味をもってもらえないと実感したとき、はじめて将来チェコ語の翻訳家になりたいと意識したと思います。20代でチェコ映画の字幕翻訳をはじめて、絵本を翻訳したいという夢が叶ったのは40歳になってからでしたが、今、チェコのおはなしを日本に紹介できることをとても嬉しく思っています。
私のもうひとつの故郷、チェコの文化を伝えるために、これからもチェコに伝わる昔話や、また優れた現代の絵本や児童文学を紹介していきたいと思います。
木村さんのお話からは、ユーモアを愛するチャーミングなチェコの人々の姿が伝わってきます。「かわいい」だけじゃないチェコの魅力、いろんなチェコの横顔を、本を通してあじわってくださいね。
インタビュー・文:大和田佳世(絵本ナビライター)
編集:掛川晶子(絵本ナビ編集部)


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