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たった ひとつの ひかりでも

たった ひとつの ひかりでも(評論社)

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【新刊ピックアップ】 注目の新刊をご紹介します!

絵本ナビ編集部

2015/11/30

ダムに沈まずのこされた村で…

ダムに沈まずのこされた村で…

注目の新刊をみどころとともにご紹介します!
気になった作品をぜひチェックしてみてくださいね。
● ダム計画が中止となり誰もいなくなった村で…鎮守の木と夫婦の姿を追った、写真絵本。
表紙には、葉を繁らせ空にそびえたつ、大きな木の写真。
ダムに沈むはずだった熊本県五木村(いつきむら)にある、鎮守の木、大銀杏です。
昔、この木の洞に入って修行したといわれる安心(あんじん)和尚の伝説と、根元によりそう村の共同墓地とともに、ひとびとの暮らしの根っこにあったふるさとの木です。
写真家の大西暢夫さんは、1996年頃からこの場所に通いつづけ、村と大銀杏と、ある老夫婦を撮り続けてきました。
本書はそのドキュメンタリー写真絵本です。

日本一の清流といわれ、アユが豊富に泳ぐ川辺川。
昭和30年代からダム計画がもちあがり、それから約50年、村はダム計画に翻弄されてきました。
貴重な生態系を残した一帯がダムに沈むことに根強い反対があり、ついにダム工事は中止されることになるのですが、紆余曲折あった長い年月を経て、村は高台への移転を決めます。
すべてのものは取り壊され何もなくなった村のなかで、尾方茂さん・チユキさん夫婦だけが暮らしつづけていました。

『おばあちゃんは木になった』で日本絵本賞、『ぶた にく』で産経児童出版文化賞など、写真絵本で数々の賞を受賞してきた大西暢夫さん。
あたたかで透明なまなざしは、ただただ、そこにある人間や生き物の、結晶のような息づかいをつかみだして、わたしたちに見せてくれます。
本文のモノクロ写真は、まるで大西さんが通い詰めたその土地の“光”に祝福されているように、輝く美しさです。

かつては子どもたちの歓声がひびくにぎやかな山村だった五木村。
食べ物も着る物もすべてあり、お金はなくても暮らしていけた村。
誰もいなくなってしまった村で、茂さんとチユキさんは次に畑を耕す人のため、小石をひろいます。
その心をおしはかることは、今の子どもたちにとってかんたんなことではないかもしれません。
でも……この本を読む子どもたちが、いつか大きくなり、先人たちからそっと届けられる有形無形のいのちの記憶を、感じる日がくるかもしれません。
「ここで土になる」という言葉にこめられたものは、そのときに魂をもつのではないでしょうか。

(大和田佳世  絵本ナビライター)

ここで土になる ここで土になる」 著:大西 暢夫 出版社:アリス館

村人が全員ひっこしていっても、おじいさんとおばあさんは次の世代のためにと、畑を耕し石をひろい、木を守り続ける姿を描く。


絵本ナビ編集部

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