鯛と申しますと “お目出タイ”と俗に言われますように、お祝いの席には欠かせないものでございます。日蓮さんが誕生したときには無数の鯛がバシャバシャと跳びはねたとの伝説が残っているくらい、それはまあ慶事と言えば「鯛」、刑事といえば「タイ陽にほえろ!」なのでございます (^-^;
えー今回のお話は、そんなふうに人間に珍重される鯛の立場はいかなるもので相成りましょうやと、まさにこれから人間に料理されてしまうかもしれない鯛の気持ちをつづったものなのでございます。
とある居酒屋のいけす。一匹の鯛が板さんの差し出す手網から見事に脱出成功。仲間うちから「おぉ!」と歓声が上がったのでございます。ヒーローの名は新入りのロク。彼は正真正銘、天然の真鯛でありまして、その姿形、そして華麗な動きたるやさすがは名産「明石の鯛」といった風情でございます。それに目をつけたのが、このいけすの主(ぬし)ギンギロはん。なんと当店の開店当時、つまり20年も前からいけすに住まうというツワモノだ。
「おまはん、天然もんやな。しかも瀬戸内もんやろ」
さすがは大牢名主のギンギロはん。ロクの出自をピタリと当てる離れ業。「ワシも本(真)鯛なんや、よろしゅうたのむわ」てなことで、ギンギロはんはロクが滅法気に入ったんでございますな。
「ここで生きのびていくためには頭をつかわんとな。おまはんだけにはおしえたろ。ちょっと耳貸しな」「どこが耳がようわかりませんねんけど……」てな具合にギンギロはん、いけすで長生きするコツをロクに伝授するのでございます。
「ええか、客の好みを覚えなあかん、あ、あれは電気屋の尾崎はんや」
「よう知ったはりますなあ」
「あの人はめったに鯛は食わん。最後に食ったのは1年2カ月前や」
まあ、そんなこんなで秘伝の技を数々伝授されたロクなのでございますが、好事魔多しとでも申しましょうか、先の板さんにつけ狙われていたのでございましょう、ちょっとした隙に横から前から手網が迫ってきたのでございます。この大ピンチ、ロクは見事に切り抜けることができたのでございましょうか。はたまたギンギロはんの運命やいかに!
ということで、落語テースト満載の、「これはぜひとも読みタイ!」というお話でございました。おあとがよろしいようで……
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