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「わたしたちは みんな ほんとうを かかえているんだ。」『ぼくのなかのほんとう』 翻訳者・若林千鶴さんインタビュー

「YA」とは「Young Adult(ヤングアダルト)」の略。アメリカで13歳から19歳の世代の人たちを表した言葉で、この大人でも子どもでもない年代の少年少女の心の揺れを表現した作品が一般的に「YA文学」と呼ばれています。今回ご紹介する『ぼくのなかのほんとう』(リーブル)は、まさに10代前後の少年の繊細な心の揺らぎと、彼を取り巻く大人たちの関わりを描いた一冊です。長年、パトリシア・マクラクランさんの作品の翻訳に携わってきた、訳者の若林千鶴さんに、本書に対する思いをうかがいました。

ぼくのなかのほんとう
作:パトリシア・マクラクラン
訳:若林千鶴
絵:たるいし まこ
出版社:リーブル

「ぼく」の名前はロバート。ひとりっ子だ。父さんと母さんは音楽家。家ではいつもバイオリンやピアノの練習をしている。ぼくは、兄弟がほしかったけれど、母さんたちは、犬をいっぴきもらってくれた。エリーという名前をつけた。エリーは、ぼくの親友になった。今年の夏も母さんたちは、演奏旅行で忙しい。それで、ぼくは、おばあちゃんのマッディの家へ行くことになった…。そこで過ごした夏の日々を、マッディやその友人のお医者さんのヘンリー、エリーや森の動物たちを通して、「ぼく」がぼくのなかにある「ほんとうのこと」を見つけていくものがたりです。

ロバートとともに、「ぼくのなかのほんとう」を見つけに行きたくなります。

───『ぼくのなかのほんとう』は、音楽家の両親のもとに生まれた少年・ロバートが、両親が演奏旅行でヨーロッパ中を旅する夏の間、祖母であるマッディの家に預けられることではじまる物語。若林さんはこの作品とどのように出会ったのですか?

私が翻訳家としてデビューしたのが、パトリシア・マクラクランさんの『七つのキスと三つのきまり』(文研出版・1989)という物語でした。そのときは出版社さんから翻訳の依頼を受けて、担当したのですが、マクラクランさんの描く、家族の描写や、優しい文章に惹かれました。以降、マクラクランさんの作品は新刊が出るたびに、チェックするようにしているんです。
『ぼくのなかのほんとう』も原書「The Truth of Me」が出版されたときから、日本の子どもたちに手渡したいと思っていました。

───では、若林さんから出版社に持ち込みをされたんですか?

はい、そうです。この作品にはすごく内省的で詩的な印象を受けました。リーブルさんは少年詩集もたくさん出されています。教員時代、その中の丸ごと1冊を授業で使わせていただき、それまで「詩なんて、難しい、嫌い!」と言っていた子どもたちを「詩ってすごい!ぼくらの心の中が書いてある!」と大感激させた体験があります。それで、子どもの心の機微に寄り添ってくださるリーブルさんにご相談しました。
私が出版社に持ち込みをするとき、いつも抄訳に近い資料を作っています。100ページを超える原書を編集者さんに全部読んで出版を決めてもらおうとするとすごく時間がかかりますよね。それに、最初の紹介の印象がよくても、全文翻訳した後に、双方のイメージに齟齬があったりするのもお互い不幸です。
事前に抄訳にちかいあらすじを書いておくことは、私自身も、どんな年齢の子どもたちに届けたいのかを考えるきっかけになるので、とても効率が良いんです。

───今回の作品は、どのくらいの年齢に向けて書こうと思ったのですか?

主人公と同年齢の小学校低学年から中学年くらいの子どもたちが読みやすいように翻訳しようと思いました。ただ、物語を読んでいただけると分かるのですが、言葉は難しくないのですが内容は詩的でとても深く、登場人物それぞれが何かしら悩みを抱えています。そういう意味では、大人の方も十分楽しんでもらえる作品だと思います。

───主人公のロバートは、両親、特に母親であるジュディスからの愛情を感じられず、孤独を感じている少年。彼の親友である犬のエリーはとてもかしこい犬だけれど、前の飼い主に捨てられ、動物保護施設にいた過去を持っていますね。また、祖母のマッディは、ふしぎな言動でロバートの両親から敬遠されている……。たしかに、登場人物それぞれが、心の底に傷を抱えながら暮らしていることが分かります。

夏休みの間、祖母・マッディの家に預けられたロバートは、彼女の主治医であるヘンリーから、誰もがみな「じぶんだけのほんとう」があることを教えてもらいます。そしてロバートは、「自分だけの小さなほんとう」を探しはじめるのです。

───自分だけの「ほんとう」という言葉がとても印象に残りました。

ありがとうございます。原文の「Truth」を直訳すると「真実」となるのですが、読者対象を考えると少し難しい表現に思えたので、いくつか候補を考え、最終的に「ほんとう」という訳にしました。


原書(左)を見せていただきました。

───タイトルのように、原書と翻訳をあえて変えている部分はありますか?

私は基本的に原書に忠実に訳すタイプなのですが、この作品は特に感情を表す言葉が多いので、日本の子どもたちにも読んですぐわかるように訳すことを心がけました。例えば、ロバートが学校で書いた「オーディション 終了」という作文。原書では、「You are」「I’m not」「You are」「I’m not」……という同じ言葉のくりかえしなのですが、そのまま訳したら、とても退屈なやり取りになってしまうと思いました。
なので、「ハミングしてるわよ」「していません」「してるわ」「そんなことありません」「してるじゃない」「いいえ、してません」「してるでしょ」「まさか」「してる」「いいえ」と、会話のやりとりを全て変えました。

───「You are」「I’m not」からこんなにたくさんのフレーズが出てくることに驚きました。翻訳をするときは、最初のページから順番に訳していくのですか?

訳者さんによって、やり方はいろいろあると思います。私はまず全体をざっと粗く訳していきます。そのあと、日本語の物語としてどうだろうかを考えて最初から順番に翻訳を見直ししていくのですが、最初の数ページを訳すのに一番時間がかかります。

───それはなぜですか?

最初に主人公の口調や地の文の語り方、それぞれの登場人物の人物像などイメージを固めることが大切です。物語からにじみ出てくるそれらの表現を受け取って、自分の言葉で翻訳できるようになるまで、何日も費やすことがありますし、翻訳仲間に相談して、一緒に考えていただくこともあります。一番、書き直しが多いのも、最初の数ページですね。

───最初の部分の訳が全体に影響を与えてくるんですね。

この作品は特に、登場人物の内面の微妙な変化など、センシティブな部分を多く語っていますから、ロバートが「ぼくのなかのほんとう」を見つけるきっかけとなる、ヘンリー医師とのやり取りや、マッディとの会話、そして、旅行先からかかってくる母・ジュディスとの電話など、ロバートの感情を揺さぶる外からの関わりをどう表現するのが良いか、自分の中にストンと納得がいくまで時間がかかりました。ロバートと同じように、何か欠けてるんじゃないかと思った子ども時代を思い出しながら丁寧に訳しました。


おばあちゃんのマッディ。

───ロバートを支える、マッディやヘンリーなど、周りの大人たちの性格がとてもユニークだと思いました。若林さんの特にお気に入りのキャラクターはいますか?

私はやはり、マッディですね。こんなにかわいらしいおばあちゃん、ぜひ、友だちになりたいです(笑)。あと、ヘンリーもとても素敵なお医者さんだと思います。彼がロバートとエリーをちょっと気難しい患者さんのところに連れていく場面があるでしょう。

───「がんこトム」のところですね。

そう。トムは長年飼っていた犬と死別したことで、今まで以上に心を閉ざしているんだけど、ロバートとエリーに会って、頑なだった心がほぐされていきます。トムの血圧を測りに来たヘンリーが、「エリーをなでてやれば、トムの血圧が下がるだろうとわかってた。(中略)覚えておくといいよ。犬は血圧にいいんだ」という場面。ここが特に好きなんです。人間と動物の関係をよくわかっているなぁって。


心を閉ざした老人との交流。

───ヘンリーが心に秘めている「じぶんだけのほんとう」も面白いですよね。

犬2匹と世界中を航海している、帆船の船乗り(笑)。2匹の犬の名前まですぐに答えられるところも、徹底しているなぁと思いました。でも、子どもの心を忘れていない大人ってとても魅力的ですよね。

───母親との関係で、心が傷ついているロバートが、素直に「ぼくのなかのほんとう」を探そうと思ったのは、マッディとヘンリーが、大人の立場でロバートと接するのではなく、対等な立場で接してくれたからなんだと思いました。

そうですね。物語の終盤では、ロバートの母・ジュディスも、実は子どもの頃に父親との別れを体験していて、心に深く傷を抱えていることが分かります。それが原因で、うまく息子に向き合い、愛することができないのです。

───「あの子は、バイオリンなら、いくら愛しても自分が傷つかないと思っているの。」というマッディの言葉は衝撃でした。

でも、今、子育てをしているご家庭の中には、ジュディスのような悩みを持つ母親も少なくないのではありませんか? うまく愛してると伝えられない、伝わらないもどかしさ……。
私は、この作品を翻訳する中で、悩みを子どもにひた隠しにするよりも、お母さんも悩みを抱えていることを伝えることで、「お母さんだって悩みもするし、傷つきもする、ひとりの人間なんだ」ということを子どもが気づくきっかけになるのでは……と感じました。

───物語でも、ロバートがジュディスとの電話で少しずつ歩み寄りを見せていますよね。最初は会話が続かず、「電話が遠いよ」と言って、切ってしまいますが、最後はロバートが見つけた「ぼくのなかのほんとう」をジュディスに伝えることができるようになります。あの場面を読んだとき、心がほっこりとあたたかくなりました。

私も、ここまでずっとどうなるか、ハラハラしながら読んでいたので、ロバートの「ほんとう」を聞いたときはとても感動して、涙が出ました。作者のパトリシア・マクラクランさんは、これまでも家族の問題を取り上げ、その再生を描いています。
『ぼくのなかのほんとう』で描かれている、ロバートにとってのマッディやヘンリー、エリーとの関係は、血のつながりではなく、気持ちでつながっている家族だと思うんです。そういう、家族の在り方を日本の子どもたちにも伝えたいという思いから、この作品を翻訳しました。

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若林千鶴(ワカバヤシチヅル)

  • 大阪府生まれ。大阪教育大学大学院修了。公立中学校で長年「たのしく読んで考える読書」を中心に指導と実践。著書に『学校図書館を子どもたちと楽しもう』(青弓社)、『読書感想文を楽しもう』(全国学校図書館協議会)ほか。翻訳は『はばたけ、ルイ!』(リーブル)、『スターリンの鼻が落っこちた』『アルカ―デイのゴール』(以上岩波書店)、『ぼくと象のものがたり』(鈴木出版)、『あたし、アンバー・ブラウン!』(文研出版)ほか多数。大阪市在住。

作品紹介

ぼくのなかのほんとう
作:パトリシア・マクラクラン
訳:若林千鶴
絵:たるいし まこ
出版社:リーブル
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