暗い宇宙のただなかで、太陽をめぐる8つの惑星。みんなの地球は青く輝き、土星の輪っかは美しく、今日も変わらずそこにある。これから、なにが起きるのかも、知らないままに……。
とつじょ宇宙に鳴り響く、グ〜と大きなおなかの音。そしてニョキっと伸びてくる、巨大な腕。腕はおもむろに海王星をわしづかみにすると、包丁でザクザク、ひとくち大に切っちゃった!?
巨大な腕は、ほかの惑星もぜんぶかき集めると、いっきに下ごしらえをはじめます。火星はむかれ、金星は輪切り、水星は細かくみじん切り。それからアツアツのフライパンで、いっぺんにジュー! そして、地球にも腕はのびてきて──?
想定外のスケール感に、思わず笑いが込みあげる! ホットケーキにオムライス、お料理をつくる様子を描いた絵本は数あれど、まさか、惑星を材料にしたカレー作りを描いたものは初めてでしょう。
著者は、人の体をキャンバスにした独創的な作品を発表する、アーティストのチョーヒカルさん。表面に絵を描くことで、ある食べ物をまったく別の食べ物に変身させる『じゃない!』や、騙し絵のようなボディペイントを描いた『なにになれちゃう?』など、絵本の分野でも大活躍! 緻密かつ、みずみずしいイラストで、まさかのアイデアをかたちにする作品を発表しています。
本作でとにかく不思議なのは、だれも食べたことがなければ、調理だってしたことのないはずの惑星たちが、なぜだかとってもおいしそう、ってこと! ひとかけらの太陽に、炊飯器の中の天王星、そしてなにより、思いもよらないかたちで調理されることになる、月。その舌触りや味まで思い浮かんでくるほどのリアリティは、魔法のようです。
そうして完成するのが、あまりにも丸ごとすぎる『まるごとうちゅうカレー』。 炊いた天王星に染み込む、太陽のカケラが溶けた星空のルーが、なんとも食欲をそそります。
ああ、もうがまんできない! ……けど、スーパーに惑星は売ってないだろうなあ。
(堀井拓馬 小説家)
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