漫画家やなせたかしさんの代表作『アンパンマン』が、テレビアニメ「それゆけ!アンパンマン」となったのが1988年。
困った人たちに自分の顔を食べさせるそんなヒーローのアニメ化には随分反対意見もあったそうだ。
ところが、放送開始がたちまち大人気になり、それはやなせさんが亡くなった現在もまだ続いている。
その原点ともいえる童話「アンパンマン」が発表されたのは、1969年。
それが収められているのが、メルヘン集『ふしぎな絵本 十二の真珠』。
やなせさんが50歳の頃で、まだ代表作といえるものもない、もやもやしていた時期だ。
そんなやなせさんに雑誌「PHP」から一年間短編童話を書いてみないかと依頼があって、生まれたのがメルヘン集『十二の真珠』で、そのなかに、少しもかわいくない「アンパンマン」が収めらている。
しかも、この「アンパンマン」は戦場で高射砲を受けてしまう。もちろん、その後も元気に飛び続けていくのだが、やなせさんが本当に描きたかった「アンパンマン」の姿があるように思える。
そのほかにも、のちに絵本となった「チリンの鈴」や「ジャンボとバルー」(絵本のタイトルは『さよならジャンボ』)が収められている。
中でも心に残るのは、自身「いく分自伝的要素をふくんでいます」と解説した「星の絵」。
絵を描くことが好きな少年が星に「だれでもをよろこばせる絵をかけ」と励まされる作品で、おそらくやなせさんのこの時の心情が色濃くでている作品だろう。