ずっと遠いある国で生まれた木馬、ブラン。背中に男の子を乗せ、音楽に合わせ回りだすと、景色は色の線にかわり、まるで空を飛んでいるかのよう。そんな時、ブランは幸せな気持ちになるのです。
やがてメリーゴーラウンドに人が来なくなると、兄弟の木馬と離れて小さな遊園地へ。女の子が頭につけてくれたリボンが古くなった頃、さらに小さな村を転々とまわり、お祭りの衣装を着せられたり、結婚式で走ったり、あるいは乱暴な子どもにキズをつけられたり。ブランを愛する老人に引きとられ、おだやかな時間を過ごしたことも。そのうち時が経つと、ブランはとうとうひとりぼっちになり……。
どんな時も耳をピンと立て、前を向いて走り続ける美しい木馬「ブラン」を中心に、ぐるぐると変わっていく背景。その長い時間の中で、ブランは何を思うのでしょう。楽しかった場所を離れるさびしさ、次の場所へ向かう時の期待、ひとりで過ごす静かな時間。それでも新たな幸せを見つけていくブランの姿を、読者は見守り続けるのです。
現代美術家としても活躍されている牡丹靖佳さんの生み出す絵本は、どこか儚げだけれど、その物語は不思議と強く印象に残ります。木漏れ日の様な淡い色で彩られたブランの旅もまた、私たちの記憶にしっかりと残っていくのでしょう。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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